第243話 素材の買い付けを行った
モーター作成のための銅線作成だが、結局数日かかって形になった。
植物油から作った樹脂モドキをさらに上級錬金器で調整し、銅に塗布して低い温度で焼き付けることで絶縁性の高い被膜を形成することが出来た。
素材特性強化の調整度合いは分かっているので、これである程度量産することが出来る。素材特性強化の感覚は人と共有が難しいので、当分は俺しか作れない素材になるだろう。
バーバラさんも時を同じく、数日で鍛冶師の十種の製作を終えた。
剣と槍は一度作り直したらしいが、それでも十分に早い。やはりスキルは強力だ。
次にバーバラさんにはステータス参照に耐えられる模造刀の作成をお願いした。
2次職になるとステータスが高くなり、訓練用の木刀などではある程度打ち合ったらだけで折れてしまう。トレーニングで打ち合うためにも、全力で震える装備が必要である。
ってか、それが無いので最近訓練に支障が出ている。
「差し棒のように、突いたら縮むように伸縮構造にして、弾力に特化した薄い金属板で周囲を覆う。この形状で作れば、当った時に板の部分がたわんで衝撃を吸収してくれる。防具をちゃんとつけていれば、これ位でも十分威力低減の効果が出るはず」
「面白いですね。芯を硬くしても、芯が当たる前に速度を下げて威力を分散するのですね」
「うん。ほんとは金属じゃなくて、木や竹で作りたいんだけど……魔竹はまだ難しいでしょ?」
「そうですね。それは木工職人系のスキルに成りますし……ヒノさんに頼めば作れるかも知れませんよ?」
「さすがに一流の職人に練習用の装備を作ってもらうのは気が引ける」
ステータス参照装備は、作るだけでもそれなりに手間がかかるのだ。
「確かにそうですね。わかりました。この図面でやってみます。……秘匿はしますか?」
「必要無いよ。威力を下げる機構の武器は需要が無いし、他に応用してくれるなら構わない」
なんでも自分でやるのは辛いのだ。
誰か個人所有できる飛空艇も作ってほしい。
……当分無理そうだから、自分で作るしかないんだけどさ。
俺の方はと言えば、とりあえず小型モーターの材料はそろったので家では設計図面を書きつつ、高密度に魔力を注入した素材を作る。
この間の魔力注入のやり方を変えた結果、より品質のいい魔鉄を作成できるようになっている。
これで浮遊廷の底に使われる魔鉄の量を半分にしても従来と同じ程度の航続時間が得られる。その分最高速を上げられたり、風よけを作れるので利便性が上がる。本筋の開発じゃ無いが、作っておいて損は無かろう。
そんな事をしていたら、冒険者ギルドにクロノス王都のジェネ―ルさんから連絡がきた。
届いてすぐに連絡をくれたくらいには早い。
「お金の使い道は問題無しか。追加で稼げている分も回してくれると……拠点開発はボホール伯爵次第か」
送金は問題無し。金額が金額だけにてこずるかと思ったけど、何とかなるそうだ。
お金のめどが立ったんで、商人ギルドに行って織物屋を紹介してもらい、大量の布を買い付ける。
「同質の布をですか……流通量が多いのは芭蕉布です、そちらでよろしいか?」
「同じ種類、品質が安定していれば問題ありません。ただ船の帆に使えるような物が良いです」
ボラケ周辺の国では、糸芭蕉と呼ばれる植物から作られる布が一番流通量が多いらしい。
最近は綿の流通も増えてはいるが、自生植物であるため生産量の調整もしやすいという事。
「ふむ。厚手の物ですね。幅1メートル、長さ2メートルが1枚当たりの基本的な大きさになります。どの程度御入用で?」
「えっと……とりあえず40メートルかける70メートル分なので1400枚ですかね」
「せっ!?……1枚当たり安くても70~80Gしますが?」
「全部で12万Gくらいですみますね。品質の安定を優先させていただけるとありがたいです。後、天露草の糸もお願いできますか?布のつなぎ合わせに使うつもりなので厚地用の物をお願いします」
「……ひと巻き20メートルの物が500個は無理があります」
「計算早いですね。芭蕉布は植物素材でしょう?これの縫製に魔力素材が必要なんですよ。同じ綿などとの撚糸で構わないんですが」
「綿か芭蕉糸に天露草の糸を混ぜた物があります。厚地用だとそれこそ魔導帆船の帆に使われるものになりますが、船1台全部魔力糸で作れる量ですよ?布もそうですが、その量はさすがに……」
「布一緒に何回かに分けて調達してもらっても問題ありません。料金も一部前払いできますよ」
帆船用の縫合糸は1本1000Gを超えるからな。使う素材の中では一番高い。
しかしこれが魔術素材じゃないと永続付与が使えない。作る物のサイズがデカいだけに、何とかして集めないといけない。
とりあえず手付金として1万Gを渡し、糸5組と残りの金額で布を集めてもらう。
後は金が届いてから順次発送だ。
それから別に紹介してもらった問屋で、今度は蝋を注文。
ここでも量が問題になるが、こちらは品質が良ければ種類は問わない。ハゼ蝋とサトウキビ蝋、それに最近生産が始まったパーム蝋を集めてもらう。
ここも前金で1万G。手持ちの金がガンガン減っていく。しかしこれで自前で準備できない物は集めるめどが立った。
「……なんかすごい量の発注を出したって聞いたけど、何作るつもりなの?」
そんな事をタリアに聞かれたのは、翌日の晩のこと。
彼女は今、ギルドでやとわれて千里眼での周辺地域の調査と、発見した魔物の討伐を行っているらしい。
日中勤務なので、大きな討伐が無ければ夕方には帰ってきて食事の準備をしつつ皆を迎えてくれる。ありがたいね。
「ああ、気球を作ろうと思って」
正確には熱気球に推進力を付けた飛行船。
浮遊の魔力を補うのは今の人数でも難しい。なので加熱のスキルで空気を温めて浮力を得て、プロペラによって推進力を得て移動する飛行船は、浮遊船開発前から考えていた1つの移動手段だ。
浮力を受ける球は地球の飛行船にならい、帆布で楕円形袋を作る。布を縫い合わせるのは魔力糸で、耐久力向上と断熱着を付与する。
更に布には蝋を塗りこみ、その蝋にも断熱着や防水を重ねることで耐久力を上げる。植物素材の蝋は、エンチャント用の塗料を作った際に使った油と均一化を駆使することで、魔鉄などと同じく人工的に魔力を注いで魔力素材化することが可能だ。MP消費がシャレに成らないからそうやられないけど。
加熱は錬金窯と同じ素材を使えば、スキル効果を10倍近く高めることが可能。
これは鍛冶師の腕が上がればバーバラさんが作ることが出来るようになる。
金と時間と技術がそろって、ようやく形に出来そうなめどが出てきた。
「……私には気球自体が思い浮かばないけど、聞いた話、すごく大きくない?メルカバ―でもしまう場所に困るのに、どこで運用するのよ」
「……ちょっとギルドに発着場相談してくる」
首都の近くを飛んで、街から撃墜されては目も当てられない。
浮遊廷と同じく、重すぎて
……ゲンナイさんを巻き込むか。設計図を紹介に登録して、王国にも送っておこう。その前に小型の試作品づくりかな。
結構作るものが多い。武器が出来上がるまでに完成するのだろうか。
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□雑記
この世界にも熱による膨張や、それによる対流は知識として持っている人は居ますが、人が飛ぶ手段としては浮遊や飛行の魔術の方が有名であり、気球などは作られていません。
飛ぶと言えば『鳥のように』であり、その魔術もあるために発展しませんでした。
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