第236話 ペローマ・ダンジョンと新たな武器
「俺が作った武器を持って、ペローマのダンジョンへ行け。それが作る条件だ」
彼の口から出た言葉は意外な物だった。
「ダンジョンですか?……ペローマのダンジョンって、ここ数年で出来た所ですよね。魔物産装備がそんなにいいと思えないんですが」
「ああ、いや。……あってるが、間違ってるな。お前さん、ペローマのダンジョンはどこにあるか知ってるか?」
「……いえ、知りませんね」
そう言えば、どこにあるか聞いていない。
活用できるダンジョンという事は、ある程度都市の近くか、それとも新規に開拓したのか……。
「ペローマのダンジョンはデルバイに有る。だがそこにはもう一つ、ダンジョンと呼ばれる遺物がある。こっちの方が語源的には古いはずだ。お前さんが行くべきなのは技術の迷宮さ」
「……
神代迷宮は古の時代に神が作ったとされる遺跡。
魔王が生まれる前から存在するとされる、旧時代の遺物だ。この世界にはそう言った遺跡がいくつもある。例えば、バノッサさんが時の賢者になるために向かった時間迷宮もその一つである。
「ああ。ペローマのダンジョンは、技術の迷宮の一部を食う形で発生したらしい」
「迷宮を食うって……あそこは魔物も不可侵なのでは?」
神の力が満ちている迷宮には、魔物も立ち入れないというのが定説だった。
「そう言われていたがな。今の迷宮は魔物ダンジョンに呑まれた状態になっているらしい。俺たちの想定が間違っていたのか、それとも神の力が弱まったのか、理由は分からねえさ。だがな、話の主眼はそこじゃねえ。ダンジョンは浅い層を侵食したってだけで、迷宮自体はまるっと残っている。行くべきはそっちだ」
「技術の迷宮ですか?」
「ああ、技術の迷宮の最奥にはな……エルダー・ドワーフたちが住んでいる」
エルダー・ドワーフ……ハイ・エルフなどと同じく、居るとされるがどこに住むか不明の伝承の存在。南大陸のドワーフの国には居るのではと言われているが、神代迷宮の奥に住んでるって……。
「眉唾物の話じゃないですか」
集合知に確かに噂は存在するが、実際に見た、と言う知識は無いぞ。
「そう思うのも無理はねぇが。実際に居るらしい。俺が神器とも呼べる武器を見たのは、とある冒険者たちが神代迷宮から帰還した時だ。彼らは迷宮の奥でエルダー・ドワーフに会い、その装備を授かったと言っていた」
……そんな情報、集合知には無いんだが。
「
確かに、伝説とされる武器や防具は存在するが、伝承としてかなりあやふやで、しかも今どこにあるか不在の物も多い。
戦場で非業の死を遂げた英雄ならわかるが、歴史上何件か、所有者が死去するとともに装備が失われたとされる事件も起きている。盗まれたと考え大々的に捜索したが、結局見つかっていない、なんてものが殆どだ。
「神代迷宮の最奥に行き、エルダー・ドワーフに会って合う武器を作ってもらえって事ですか」
「そうだ。実力を発揮できない武器で戦うのが危険なのはわかるだろう? うちの数打ちを適当に買っていって死ぬ程度なら構わねぇが、注文受けてそれが足りなかったは許されねぇ。お前さんが近接戦闘職の2次職を取ったら、あっという間に武器の耐用能力を越えちまう。分かってることに対応しておかねぇのは三流以下だ」
確かに俺の装備は最初に作った時点で、既に能力的には足りてなかった。
武器も鎧もエンチャントで強化して使っていたから支障は出ていないが、職人として責任を持つなら、中途半端になるものを渡せないというのも気持ちは分かる。
……それに、神代迷宮も気になるな。
集合知には知識の抜けがあるようだし、エルダー・ドワーフ、本当に居るかもしれない。いるとするなら、
「……ありがとうございます」
「礼を言われる話じゃねぇ。どうだ?」
「神代迷宮、潜ってみようと思います。俺の目的にも沿いますし」
もともとペローマのダンジョンには行ってみようかと言う話をしていた。
集合知にない、人類以上の存在が居るなら、魔王討伐のために力を借りたい。
「よっしゃ、なら完璧なつなぎの武器を作ってやるよ!」
「つなぎと言い切るのもどうかと思いますけど」
真摯な職人に会えたことは単純にありがたい。
紹介してくれたユキミツさんに感謝だな。
「さて、作る武器だが……もともと使っていたのは両刃のバスタードソードをだな」
「はい。
「ああ、定着させた奴にはそう言う使い方をする奴もいるな。お前さんもその口だろ?」
「
「詳細は知らねぇ。だが、意識的に出来ることは知ってる。冒険者の中には、詳細を知ってて、仲間内だけで使いまわしてるやつもいる。お前さんもその口だろ?」
「……ええまぁ。……前に同業者に教えちゃったんですけど、まずかったりしますかね?」
「それは俺には分かんねぇよ。ギルドに登録してありゃ、特に問題は無いだろう」
タリアとアーニャは登録してないんだよね。
時間があればバーバラさんとコゴロウにも覚えさせたいが、毎回街の出入りで引っかかるのはちょっと面倒なんだよな。
「んでだ、一つ提案なんだが、本格的に刀を使わないか?」
「刀ですか?」
「ああ。俺が得意ってのもあるが、お前さんの太刀筋、片刃の武器を想定して振ってるよな。切り上げの時、わざわざ手首を返している。両刃のバスタードソードならあの動きは必要ねえだろ?」
「……確かに」
俺の動きは剣道やチャンバラに影響を受けているな。
戦士の修練理解を使っても不都合なかったから気にしていなかったが、言われてみればその通りだ。
「それなりにタッパがあっから、刃渡りは一つか、少し短く。柄は300って所か。それを2本。予備の剣も置いてあったが、あれじゃあダメだろ。今の打刀でも足りねぇ。同じ武器を2つ。場合によっては二刀も出来る。もちろん、その分金もかかるが……どうだ?」
「……金額は、多分大丈夫です。それでお願いします」
二刀流か。アーニャにやらせてみようかと思っていたけど、自分も練習することに成るかな。
「よっしゃ!それじゃあ、まずはお前さんに合わせた材料作成からだな」
「どれくらいかかりますか?」
「もう年が変わるだろ?たたら場も火を落とすだろうから、出回ってる素材次第だな。だが、早くてもひと月はかかると思ってくれ」
「わかりました」
これは不動産屋コースだな。また工房付きの家を借りるか。
「見積もりは後で出すが……ギルドに回せばいいか?」
「はい、それで問題ありません。ひと月かかるなら家を借りようかと思うのですが、工房付きの借家を相談できる不動産屋は御存じないですか?」
「工房付きか?……職人仲間から聞いた覚えはあるが、なんでまた」
「俺も、いま出ているバーバラさんも錬金術師を取り終えています。バーバラさんは鍛冶師もです。そこに鎮座してる鉄人形は、自分で作った物なんですよ。技術が無いので自分で使う武器を作ることは出来ませんが、ああいうものは自分たちで作ったりしています。そのための工房を借りようかと」
「なるほどな。……この街は工房を持つのは結構大変だぞ? 素材によっては禁制になる処理もあるんだが、そう言うのを商売をしない名目で借りた工房でやらかした例があってな。短期間だと難しいと思う」
「ん~……それなら手持ちの錬金窯だけで我慢しますかね」
「あの人形にもちょいと興味はあんな。見せて良けりゃ、知り合いに頼めそうなやつが居るが、紹介するか?」
「良いんですか?」
「ああ。引退して趣味に走った仲間が居んだよ。店を新しくして、その時に別に小さな工房を作って、趣味の機械いじりをしてやがる。ああ言った物が好きな奴だから、話くらいはきいてもらえるだろうさ」
「……そうですね。ギルドに相談して、難しければお願いします」
「おう。んじゃ、今日の所はこんなもんだな。嬢ちゃんたちはどうしたか、見に行ってみっか」
俺と入れ替わりで庭に出て行った3人がまだ戻って来ていない。
さて、あちらはどうなったかな?
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□雑記
16話以来、200話以上たってようやく迷宮の話が再登場しました。
元々時間迷宮(時の迷宮)も、技術迷宮もダンジョンと呼ばれていましたが、魔物ダンジョンの方が数が多くメジャーになったため、一般にダンジョン言えば魔物ダンジョンを指します。
代わりに古からある迷宮は、神代迷宮と呼ばれるようになっています。
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