第237話 新生活と新年の準備
「彼女の魔力操作は素晴らしい!これならただステータスを参照するだけじゃない武器が作れるぞ!」
アラタさんは庭で小躍りしていた。
アーニャの武器はもともと使っていた両刃の短剣をベースにして、俺と同じく2本一組の双剣にするとのこと。騎士だが体重が軽いから、盾を持つより剣を2本の方がいいだろうととのことだ。
エトさんにマインゴーシュを送ったのを思い出すな。
バーバラさん達が戻ってくるというので、それを待って工房を後にする。
彼女の方も、早くてひと月はかかると言われたらしい。皆家を借りるのは問題ないとの事なので、昼飯を取った後、ギルドに行って不動産屋を紹介してもらう。
結論から言ってしまえば、工房付きの家を借りることは出来なかった。
ゲンジュウロウさんの話の通り、そもそも短期で借りるのは難しく、さらに外国人の冒険者では監査が通らないとのこと。
その代わりに2階建て土間付きのかなり大きな家を商業区の片隅に借りることが出来た。
織物など縛りの無い業種の工場として使われていたらしい。2階に3部屋。1階に土間と居間と炊事場に厠が別々にある。庭には納屋があり、家畜を飼っていた名残が見受けられた。
寝具などは問屋に頼んで急ぎ準備してもらう。毛布などは一通り
年末の準備が忙しいと最初は嫌な顔をされたが、あらかじめ準備しておいた祝い酒を包んで渡したら快く引き受けてくれた。国が変わっても文化が分かる時集合知はとても便利。
その日は宿に泊まり、翌日は狩りた家に行って大掃除と荷物の運び込みだ。
掃除は
メルカバ―も分解して、ボイラーとなっていた錬金用の大釜を土間へ。水瓶は別途準備をお願いしてある。
炉は無いが、後で魔導オーブンで煉瓦を焼いて、庭に小型の耐熱炉を作る予定。
煉瓦をちょちょいと加工して断熱着と言うエンチャントを掛ければ、お手軽に耐火煉瓦が作れる。
まぁ錬金窯と魔導オーブンがあるから、窯で焼かなきゃいけないのは融解しない金属くらいなのだが。
溶かすのは錬金窯で良い。陶器くらいならオーブンで焼ける。
「とりあえずこんなところ?何か必要な物、思い浮かぶ人いる?」
「冷たい物も食べたいから、早急に冷蔵庫を作って」
「……俺の国じゃぁ聞かないセリフだ」
設計図があるから作れるけどさ。
「某は日用品が無いので、後程雑貨屋を回って来るのである」
「あたしは特に。バーバラ姉さんは?」
「私も大丈夫ですね。……ああ、新年の準備でしょうか。冬至が明後日のはずです」
「あ~……っつっても、なんかあったっけ?」
この世界の年末は、世界的には北で冬至、南で夏至に統一されている。
冬至が明ければ新年となるのだが……。
「春分はまだ先だぜ」
「この辺りの国では、立春の方が盛大に祝うのである」
「私の所も立春よ」
新年の統一は神様の都合で行われたので、冬の真っただ中のこの時期はそこまで盛り上がらない。
クロノスは冬が長いので地球で言う春分を祝う。短い夏の農耕期に向けたお祭りを行うのが春分だ。
そこより南の東群島諸国は少し前倒しして立春を盛大に祝う。タリアはザース南方かな。あの辺も立春だ。
「ええ。なので新年は少し良い料理を準備して、良いお酒を買って、家族で静かに祝うのです」
「いいわね。私はワイン」
「ふむ。薄濁りの良いのが無いか酒屋に聞いてみるか。少し遅いであろうか」
「あ、あたしはハチミツが欲しい」
「……アルコールはほどほどにね」
しかし、家族で静かにねぇ。
家族かはわからんし、静かにはならんだろうが……誰かと過ごす年末年始は2年ぶりになるか?
……餅でもつくかなぁ。日本で新年と言ったら、おせちか餅だろう。
おせちは作れないが、餅つきはしたことが有るから何とかなるかも知れない。
餅は……ボラケの文化じゃ無いが、存在するな。砂糖はまだあるし、小豆は問屋で手に入るからあんこが作れるか。
幸いにして明日は市も立つ。
「今日の夕方に寝具の受け取り、明日は俺とアーニャはソウエン鍛冶工房に顔を出さなきゃいけないから、新年の買い物は3人に任せるよ。明日は市も立つから、こっちで欲しい物は適当に何とかする」
「おっけー。ワタルの国の新年の料理とか作らない?」
「……目ざとい。餅をつこうかと思ってるけど」
「む、ワタル殿クロノスの出身では?」
「俺の出自は遠い国、ですよ」
コゴロウにはまだ俺が異世界人だとは話していない。バーバラさんもだ。
目的は魔王を倒すと話したが、コゴロウは『魔王に挑む』くらいに思っているだろう。バーバラさんは本気で倒そうと思っていることくらいは理解しているようだ。
「俺の思ってるものが出来るかは分かりませんが、とりあえずやってみようかと」
もち米の特徴何てわからんし、この世界じゃもち米として売られている米が無い。
餅にする米は存在するのだが手に入るかはわからんし、作った餅が俺の知ってる餅かもわからん。
「餅つきをするなら某も手伝うのである」
「なら、大晦日にしましょうか。それまでは自由行動で。……っと、そうだ。二人が問題無ければ、タリア引率で
これから数日は人も物も停滞するし、やることはそれくらい。その日のトレーニングは各自に任せて、その場は解散である。
コゴロウは宣言通り日用品を仕入れにギルドに行った。常設商店を回ってくるかもしれないとのこと。
女3人は酒屋へ。いや、それもどうかと思うんだけどさ。明日は市の店を回るから、今日は商店を回りたいんだと。
さて俺は……冷蔵庫を作るか。
日用品を梱包していた木箱を再利用して、内装に魔鉄を張り付けて配線を引っ張って扉を加工する。魔力の蓄積に人工魔結晶を作る。ベースはこれでOKなのだが、魔鉄にそのまま物が触れると凍結してしまうので、さらにもう一枚、薄いスノコのようなものを作って内壁や扉に張り付けて完成。
……このタイプの冷蔵庫、思いのほか冷えるのに時間がかかるんだよなぁ。
多分ファンか何かで箱の中に対流を起こしてあげればもっと冷えるんだけど……さすがに
……モーター、作ってみるか?
銅は少しあるな。エナメル線的な物が出来れば、それを撒いてコイルが作れる。エナメル線は絶縁されて居ればいいから、別にエナメルじゃなくてもいい。
……ああ、こないだ作ったゴムモドキの樹脂を使ってみるか、耐久力が不安だが、まぁ試すだけなら大丈夫。
思いついたらやってみたくなるのが性よの。
素材の銅塊を細く伸ばして、そこに樹脂を塗布。どれも
コイルが出来たら、後は磁石があればモーターが作れる。電池は最悪、柑橘系の果実に銅とアルミをぶっ挿せば行ける。発電量知れてるけど。
磁石は……鉄芯にコイルを巻いて、雷を落とせば行ける!某漫画でやってた!
同じく鉄の棒を作り、それに作ったエナメル線モドキをグルグル巻きにして、庭に立ててぶっ挿す。
さぁ、雷は……
範囲がそこまで絞れねえし、ぶっちゃけこの一帯が焼け野原になる。
ここは
流石にそのまま充てると鉄心が吹き飛ぶかな?
よし、れっつごー。
「天に轟く雷神の力を借りて、今!雷槍にて敵を穿つ!
爆音が響き、
「
慌てて回収して事なきを得たが、危うく大惨事を起こすところだった。
爆音を聞いた周囲の人が何事かと集まってきたので、あわてて引っ込んだがその後しばらく噂になっていたらしい。
磁石はタリアの念動力を雷に変換するスキルで作ってもらえたが、ご近所に迷惑かけるんじゃないと怒られる落ちが付いた。とっぴんぱらりのぷぅ。
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