第235話 刀匠ゲンジュウロウ・ソウエン

ソウエン鍛冶工房の親方、刀匠ゲンジュウロウ・ソウエンはもうすぐ還暦を迎えるドワーフだった。

若干白髪交じりの髪と髭。まさにドワーフと言った体型。背は低いが筋骨隆々。肌色は濃く、しかしまだらになったそれから、長年の仕事で焼けている事が分かる。

彼の刀匠は鍛冶師系の2次職である。


「……うちで受けるにしても、中途半端な仕事は出来ねぇだろ」


俺たちの装備とステータスを確認した彼は、3人の中で唯一刃物でないバーバラさんに、専用の工房を紹介してくれた。防具を兼ねた格闘家の装備は、ここより知り合いの工房の方が得意だとの事。

専門家の奨めはきいておいたほうが良い。バーバラさんはお弟子さんに案内されて、そちらの工房に行って貰った。コゴロウが暇だというので一緒に行っている。


その上でアーニャの武器をアラタさん――ユキミツさんの仲間で息子さんの方――が担当、ゲンジュウロウさんが俺の武器を担当してくれるとのこと。

アーニャにはタリアが付いて居てくれるというので、俺はゲンジュウロウさんから武器についてのヒアリングを受ける。素材から準備する必要があるからすぐにとはいかないが、準備は始められるというので、連れられて庭にでて。


「鎧も含めて、魔力を帯びた装備は全部外しな」


「……全裸になりますよ」


「……替えの服を買ってこいや」


何て小話があり、小一時間ほど間を置いた後の話。


「……さみぃ」


なぜか結局ふんどし一丁に草履と言う糞みたいな恰好で庭に放り出された。


「この方がお前さんの魔力の動きが良く見える。ほれ、そいつを振ってみな。元の剣と同じくらいだろ」


渡されたのは長さ1.5メートルほどの鉄塊。見た目は某国民的RPG7作目のバスターソードや、某馬を斬る刀のような形状。持ち手には白い布が撒いてあるが、サーベルのようにガードが伸びている。


「……おもっ!」


……いや、そこまで重くないけど、久々に重さを感じた。ステータス制限をしてない状態でこの重さって……。


「約40キロある。振ってみろ。できるだろ?」


「触れますけど……」


正眼に構えて振り下ろす。

ブンッと風を切る音がして、思わず前につんのめる。っ!慣性がきつすぎる。


「踏ん張れねぇって事は慣性の相殺可能なパッシブスキルは無しか?今1次職だからか?」


「今は1次職ですが、2次職も魔術師系ですから。INTの高さで分かるでしょう?」


40キロもある鉄塊を振り回したら、自分が慣性で吹き飛ばされる。

ステータスが上がっても自分が重くなるわけじゃ無い。STRが高いから、重量としての不可は数キロにも満たないが、踏ん張る地面との摩擦は変わらないのだ。重心を維持しようにも浮き上がる。


「なるほどな。後で一番高いステータスは見せろ。それは置いといて、一通り振ってみ。よろめくのは仕方ねぇ」


言われるままに、普段通りの型で剣を振る。

縦切りはまだましで、横切りは地面を滑るし、切り上げは宙に浮く。速度も普段に比べれば遅いし、扱いづらいだけだぞ。


「……焼付刃って感じがするが、型は悪くねぇな。魔力の流れもきれいだ。レベルだけじゃなく、訓練を積んでいると見える」


「……これで分かるんですか?」


「レベルだけで自力が足りねぇ奴は、魔力で補う分その動きで分かる。何かトレーニングはしてるか?」


「魔力操作と、ステータスに頼らないトレーニングはしてますね。後は型の訓練はぼちぼちです」


魔力操作と魔力感知は、ついこの間レベル7に上がった。天啓オラクル様に制限を聞いたことで、逆に異能が発動したのだろう。

ステータスの影響を極力抑えた筋トレも続けている。最近導入したのはラダーなどの道具を使ったステップのトレーニングなどだ。これもステータスを殺してやっていて、結構きつい。


「……さすが人類最初の極めし者マスターってか。変人だな。……いや、ほめてるんだぜ。今時めずらしい」


「目的がありますから」


「目的?」


「とりあえず、中央で勝てる力を得ることですかね」


「……そりゃぁ、気合を入れなきゃなんねぇな。今度はバランスを崩さない様に重心を調整して振ってみ」


言われた通りにしばらく剣モドキを振る。

何回か降ると多少慣れてバランスを崩すことも少なくなる。……ふむ。40キロって、ステータスを使わずにバスタードソードを振り回しているのと似た感じだな。重心が多少違うが、この鉄塊も剣のように重心が調整されているのが分かる。


「……よっしゃ。大体わかった。着替えて、一回メインの職に転職して来い。一番いい状態のステータスが確認したい。その間にお前さんの武器をもう一度確かめとく」


めんどくさいなぁと思いつつ、言われた通りに死霊術師に戻ってステータスを開示する。


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名前:ワタル・リターナー

職業:死霊術師

レベル:42

HP:1050

MP:1742

STR:269

VIT:325

INT:926

DEX:281

AGI:368

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MPはついに1日では回復しきらなくなっている。

INTはブーストを掛けると1000を超えるようになった。それ以外のステータスについては、エリュマントスとの戦いで上がってから若干上昇しているくらいだ。

STRを始めとする、身体能力に関わるステータスの1次職の上昇限界は200っぽいからな。2次職は死霊樹師しか取って居ないし、上がる要素は異能くらいだから致し方ない。


「侍の時に輪をかけておかしくなるが。まぁ良い。大体わかった。んでだ……言わせてもらうと、うちでお前さんの力のすべてを活かすのは難しい」


「……STR270は高いですけど、3次職の前衛なら序盤ですよね?」


「それだけならな。問題はそこじゃねえよ。……どっから話すか。お前さん、武器の知識はそれなりにあるか?」


「……ええ、人の知ってることなら大体は」


「いうね。武器のステータス参照はSTRが一般的だ。だが、実際に参照できるステータスはそれだけじゃあない。というか、物のステータス参照ってのは、平たくいやぁ物への魔力供給による強化だ。STRは力を司るパラメーターで、武器とは相性がいい。だからメインになってる。防具ならVITだな」


「ええ。他のステータスも参照出来るけど、リソースに対して効果が低いから廃れたんですよね」


「廃れたっつーのは語弊があるな。求める奴が居なくなっただけだ」


それを廃れたっていうんじゃないのか。


「うちでなら確かに、STR400を超えても使える武器を作れる。だが、その年齢でそのステータスだ。さらに上を目指すなら、3次職じゃ足らんだろう? お前さんが極めし者マスターになってからまだ半年は経って無いはずだ」


「……たしかにまぁ、そうですね」


依然、ウォールで戦った時に狂乱戦士のグランドさんが、自らの空間断ディバイディング裂斬・ユニバースで使っていた武器を吹き飛ばしていた。

3次職のスキルを使うにはそれに耐えられる装備が必要。4次職であればさらにだ。


「いい武器ってのは、振り回して強いだけじゃあ足りねぇと思っている。今のステータスに合わせて武器を作っても、直に足らなくなる。しかも、本来活かすべきは高いINTだ。だが、さすがにその値は人の手には余る」


「INTの参照は効果が今一なのでは?」


切れ味などの攻撃力上昇量も、耐久力の上昇力もいまいちだと集合知にはある。


「使い方が悪いだけだと俺は思ってんだ。魔力を現象に変換するという点において、もっとも効果を発揮すんのはINTだろう?」


「それはそうですけど」


「近接武器を持とうなんて魔術師は相違ないからな。だがあの古い槍も似たようなコンセプトで作られてんだろ。INT1000なんて、槍使いのステータスじゃないしな」


たしかに、俺だから隠された情報を見ることが出来たが、INT参照のあの槍の効果は、現代装備としては無駄な死に装備に近い。だから性能が高くても価値が低い。


「お前さんの魔力操作は良い出来だ。その年齢でちゃんとそこまで訓練してるやつは珍しい。だからなおの事、ちゃんと行く物を作ってやりてぇが……俺が思う十分には達しねぇと思う」


「……親方が思う十分があるって事ですか?」


刀匠なら踏み出す者アドバンスが知られる前の3次職、もしかしたら4次職の装備を手掛けることも出来るだろう。


「……ある。若いころに少しだけ目にしただけだ。記録には残らぬ武器だと言っていたな」


記録には残らぬ?どういう事だろう。


「今のお前さんに合わせて、出来る限りの物は作ろう。だが、もう一つ提案がある。俺が作った武器を持って、ペローマのダンジョンへ行け。それが作る条件だ」


ペローマダンジョン。

……ここでその名前をまた聞くことに成るとは思わなかった。

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