第384話 村のルールを提案した3

「さて、最後に税金の話をしましょうか」


そう言うとペールさんは嫌そうな顔をし、アンデルスさんは目をそらした。


「村が形になったとは言えない今から税金について話すのですか?」


ペール村長は訝しげに顔をゆがめた。


「はい。先ほど示した料金システムではすぐに資金が尽きます。目下の出費は冒険者でしょうか。この開拓に参加している冒険者には日数に応じて手当てがついて居ます。それはタリアの資金から出ていますから今は良いですが、契約期間が終わった後に村で仕事を頼みたいなら、その資金が必要となります。ああ、金持ちが出す、は行政については望ましくないですよ。金払いがそのまま権力に繋がってしまうので」


タリアの目的は取り戻した家族が住む場所を確保する事なので、村の中で権力が偏るのは出来る限り避けたい。


「まず、税金を集めるためには税金の種類と目的を理解しなければ成りません。どの国も通貨発行権は持っていますが、1Gから1000Gまでの通貨は大陸ごとに既定の成分量が決まっていて一定です。王国金貨もクーロン金貨も同じように使えるのはこのためですね。……まぁ、贋金問題はありますがそれは置いておいて」


人の業というか、この世界でも贋金は存在する。基本的に犯罪者どもや邪教徒どもの仕業なので、流通量としては無視できるレベルの話だけどね。


「この成分量が決まっているという事は、国は毎年取れる金などの資産分しか通過を発行できません。生産量は一気に増えたりしないので、国が生産量以上の事業を行うためには税を集めるしかありません。つまり、税金は国や領が仕事をする為の財源の一つなわけです。ここまでは良いですか?」


「ええ……まぁ、はい」


「税金が我々の給料に成っていることくらいは理解している」


「理解している事と納得している事は別ですね。特にペール村長は必然的に村を運営する側になるのですから、深く理解したうえで、少なくとも村税については自分が運営じゃなくても納得のできる物にする必要があります。まぁ、その前に税の種類についての説明からでしょうが……」


まず、この世界で国が課す主要な税金は5種類。


街や村に定住している人にかかる人頭税。前時代的なスタイルだが、12歳未満は免除で金額も小さく良心的。また、地方では領主が別の税と合わせて徴収するため、イメージは薄い税でもある。


ギルドや教会にかかる事業税。これは構成員の人数にかかる人頭税の様なもので、人数が多いほど金額が大きくなる。冒険者を始めとする流民は人頭税をかけずらいので、それを補う意味もある。人頭税より高め。構成員の能力は加味しないから、一人当たりの稼ぎが多ければ税率はそれだけ軽くなる。冒険者だと、1次職中盤くらいになると黒字化するくらいの金額だ。


商会やクランが活動した際にかかる所得税。収入があった際、経費を引いた利益についてかかる。このため帳簿付けが必須だ。監査は年1で入るし、真偽官立ち合いの元に行われるから虚偽報告、二重帳簿はまず不可能。ただし割とざっくりだったりする。


更に主要街道や大きな街の出入りでは通行税が発生する。ある意味、これが一番嫌われている税かも知れない。その場で現金徴収なので、管理がしっかりしていない街では不正徴収の巣になる税金である。まぁ、大抵はバレて強制労働行きになるのだが。


このほかに資産税。これは特定の品目にかかる税金で、贅沢品や希少品にかかる。主に非消費財でメインは芸術品などだ。この税は物品の価値を下げることが主な目的で、価値が高まる程年間にかかる税が増える。文化的遺産の消失を防ぐため、国が対象物の買取も行っているのでぼちぼち良心的。


「実はクロノスで国か課してる税はこれだけです。他は全て領主が課す地方税ですね。と言っても、統一地方税というものがあるので、何処に行っても変わらない者もありますが」


例えば集落にかかる生産税。これはその集落で特定の物品を生産し、その何割かを税金として納めろ、という物。集落の大きさや立地によって適した内容が選ばれる。農村なら麦、鉱山なら鉄、沿岸部や岩塩が取れる地域では塩などだ。


「農村の皆さんに言わせれば、基本はこの生産税ですよね。領主は生産税に人頭税を併せた量を村長に課して集めさせますから。領主は集めた人頭税分の資材は売って、お金を国に納めています。これは領主に領民の人数をちゃんと管理させる意味も含んでいます」


「なるほど、そう言う仕組みでだったのですね」


「生産税を国が管理していないのは、その地域を良く知る者じゃないと課税が難しいからです。最初にあげた5つは全て現金で納める税金。生産税は現金でも納税可能ですが、基本的には物品を納める税ですね。この辺が違います」


生産税は一種類とは限らないので、木炭と干し肉、のように複数化される場合もある。現金換算すると、どの集落も大体似通った人口に比例する形で集められているから、この世界の文官は中々優秀だ。

ちなみに宿場町や領主の居る都市なんかだと、生産税と名ばかりの現金納税が求められていたりもする。


「この税金ですが、王国法で二重課税は禁じられています。今ある税金と同じ対象、同じ方式での課税は出来ず、それは村税をかける時でも同じです。つまり、今把握している税とは別の対象に対して課税する必要があります。また、免税品目もあるのでそれには課税できません」


一般的な免税品目は農業用水、薪、魔術による治療行為、指定都市以外の入村料か。この辺りはスキルや、魔物との関係にかなりの影響を受けている。薪が免税品なのは寒冷地のクロノス特有だな。加工品である木炭は課税対象に出来る。


「基本的に行政が収集する金銭価値のあるモノは全て税です。定めておかねばならないのは糞尿類に現物100%課税ですね」


「ああ、それなら理解できます」


まだ排泄物さえ適切に集まれば価値がある世界だからな。こういうのを定めている村は結構ある。


「それから公衆浴場。今浴場があるのはうちの屋敷、領兵たちが宿舎として使っている館、冒険者たちが滞在している宿の3カ所ですが、それ以外に入浴が可能な公衆浴場を作っていますよね。その公衆浴場に対しては入湯税を付与することを考えてください。宿は宿泊料を取るようになった時点で宿泊料に上乗せ。新たに浴場を作る場合も、商売をするなら課税をするように。湯量は問題ありませんが、公衆浴場の運営や源泉からの引き込み量を増やす場合の資金に当てます。当面は公衆浴場が出来た後の清掃など管理費ですけどね」


これを先に定ておけば、村一番の資源である温泉の管理が可能に成る。

先に述べた村法に税金の話も記載してあるから、先に決めて一気に施行する必要がある。制定より変更の方が楽にしてあるから、決められるものは先に決めておきたい。

これは源泉を個人に独占させないための手段でもある。


「他にも必要な税があれば考えても構いません。ただ、一度課税すると減税は難しいので、他の項目も合わせて、なぜ必要なのか、他に方法はないのか、それでうまく行くのか、現実に出来るのかあたりを考えてみてください」


これで提案しなければ成らない事は一通りかな。集合知の情報を使っているとは言え、こういう話はかなり頭を使うのでしんどい。

村長をはじめ数人は、最初から村の運営にかかわる想定で準備してもらっているから大丈夫だとは思うが……まぁ、一つ一つ相談に乗って行こう。


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設定厨的趣味のシーンに時間をかけ過ぎました。村のお話はあと少しで終わりです。


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