第22話 神の信徒に布教してみた
「裂傷は
「
「虫歯は欠損です。
「診察券とカルテの作成は継続治療の基礎です。いつ、どんな症状で、どこを起点に回復魔術を掛けたか。正確に記録しておいてください」
自分の魔力が足らないので、とりあえずルドルフさんとアッテナさんを働かせることにした。
俺の治療の仕方を肌で感じて体感してもらう、と言う名目でタダ働き。これまで以上に患者の数をこなせるので、ついでに呼び込みもしてもらっている。
……わはは、ぼろもうけだなこれ。
「そろそろMPが……」
「じゃあカルテを付けながら休憩してください」
「それ休憩って言わな……」
「おかげざまでいつもよりたくさん捌けてますよ」
「……患者を捌くとはこれ」
ああ、ルドルフさんの目から光が消えとる。
「すいません、教会で
「はい、患者さんの希望は聞かなくて良いです。問診してください。腰が痛い?動かすと?動かさなくても?なら内臓系の可能性がありますね。ブーストかけてから
アッテナさんは熱心に治療に励んでくれている。さすがは治療師。今までいろんな病気を見てきたのだろう。見立てもいい。
どれも初級魔術だから一つ一つの効果はそう大きくない。
適切に、患部に魔術を行使することで初めて効果が出る。だけどその知識はあまりなくて、基本的に全身にかける、が一般的だ。
細菌やウィルスによる感染症ならそれでいいんだけど、臓器の疾患なんかだと効果が薄まりすぎて回復に至らない。
「はいはい、うちは患者の希望は聞いてないの。そう言うのは教会に行ってね」
その上、治療は受ける患者の希望性みたいなところがある。
本人が受け答えできない急患を除き、どんな治療を受けたいかを希望して、治療師はそれを実施するだけだ。
これは、魔術一つである程度治療できてしまうお手軽さと、かつて『必要か不要か不明だから全部かけて全額請求』と言う荒っぽい稼ぎ方をしていた代償。
不要な、または効果の見えない医療費に不満を持った市民と教会の闘争の末に、今の状態に落ち着いていた。
まあ、俺ははじめっからスルーだけど。
「動かすと?炎症も起きてるだろうけど、多分関節の軟骨異常だから
アッテナさんは俺の使えない術まで使えてありがたい。
老化による関節痛とか、変形による麻痺とかって
しばらくすると患者さんも一通り片付いた。
ルドルフさんが問診している数名で今日は終わりだろう。
「お疲れさまでした。おかげでたくさん診ることができましたよ」
今日の稼ぎは500Gを超えている。見た人数も4時間ほどで80人以上になってる。ほくほくだな。
「慌ただしくて……こんなにMPを使ったのは久しぶりです」
アッテナさんは30代くらい、西洋人的な堀の深い顔立ちの女性。教会で専任の治療師として働いているらしい。今日は俺をスカウトする前に、能力を見るために連れてこられたらしい。
「実際、私の治療を見てどう思われましたか?」
「……治療師の方で患者に対する治療方法を選ぶのは珍しいです。ですが、的確だと感じました。特に患部と対応する魔術の選択は、これまでになかった概念です。これも賢者様の教えですか?」
「ええまあ。ただ、バノッサさん以外にも、いろんな方の知識を借りてやってますよ。こういうやり方を続けている治療師もいますから、独自というわけでもないですよ」
実際、貴族や王族の間では知識のある治療師が選んで治療を実施している。
民間が患者の自己判断に任せているのは、主に患者側の金銭的な問題が原因だ。
「
今は集合知の情報と、地球でのあやふやな知識をもとに魔術をかけているだけだ。
「名前だけは聞いたことがあります。上級なんて、夢のまた夢ですよ」
「詠唱があるので、教えてくれる人さえいれば広まるんですよ」
まあ、使える職業が限定されすぎてる上に、自分の売りである魔術をほいほい教えるバノッサさんみたいな人がそうそういたりはしないが。
「そういえば、あのカルテというのは?」
「ああ、俺のINTとMPだと一発快方とはいきませんから、どの部位にどんな治療をしたとか。どんな症状の相談を受けたとか、そういうのを残しておくんです。まあ、今日始めたばかりですけどね。こんなに人が集まると思ってなかったので」
「なるほど、良いやり方だと思います。ですがよかったのですか?教会が同じ方法を取り入れないとは限りませんよ?」
「いえ、むしろ取り入れてくださいっていうか、俺がこの街を立つときには引き取ってください」
病人を放り出していくのもアレだしさ。教会が引き受けてくれた方が楽でいい。
「ついでに俺が知ってる治療手順とか、病状の見分け方とかも教えますよ。時間があれば書籍でも起こそうかと思いますが……どうです?貴女も始めて見ませんか?
「うちの治療師に怪しげな勧誘をするのはやめてもらえませんかね!?」
「おや?ルドルフさん問診は終わりましたか」
「……視察と勧誘に来て使われる羽目になるとは思ってもみませんでしたよ」
うちの国のことわざには、立ってるものは親でも使え、というのもあるしね。
「別に損にはならないでしょう?俺はしばらくしたらアインスを去ります。患者さんのことを考えれば、ここで稼ぐより教会で引き受けてくれた方がいいです。それに、治療じゃレベルは上がりませんから、拘束時間は少ないほうがいいんですよ」
「……稼ぐために回復屋をやっているわけじゃないと?」
「生活するうえでは困らない稼ぎになってますけどね。それが目的ではないですし、この稼ぎじゃ剣一本買えませんよ。言ったでしょう?やらなきゃいけないことがあるって」
今使ってる古びた鉄の剣だって1000Gは下らない。まともな防具なんてもっとする。
今の稼ぎ方じゃ魔王を倒す足がかりにすらならない。
「俺を勧誘するより、俺のやり方を学んで教会で広めたほうがメリットが大きいでしょう?」
「こうもたやすく手の内を明かすとは思ってもいませんでしたよ」
「初めから隠してませんよ。……まぁ、できればもろもろ資金援助をお願いしたいですけどね」
「……私のできる範囲でなら、その話、乗りましょう」
「じゃあ、できる範囲を増やせるように頑張りましょうかね」
病状と治療方法の編纂、カルテや診察券の使い方、俺が治療してきた人たちに対する教会への紹介を担保に、必要経費あちら持ちで買い取ってもらうことになった。
本としてまとめるのに1~2週間ほど、さらに数週間は研修を兼ねて教会の治療師を数名当ててくれる。研修は診療報酬は総取りでさらに1日1000Gの報酬。原書は5000Gで買い取ってもらう契約だ。
ついでに冒険者をするなら教会の装備も融通してくれるとのこと。これはまあ、後々広告塔にするつもりなのだろうが、ありがたい話なので受け取っておく。
使えるものは使わないと、魔王なんて倒せやしないからな。
さて、明日からさらに忙しくなりそうだ。
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