第294話 6階層とレベル上げ計画

「皆、無事ですか?」


陸竜が完全に消滅したのを確認してから周囲を見回す。

俺はダメージをもらわなかったけど、跳ね飛ばされたバーバラさんは大丈夫だろうか。


「私は治癒ヒールで回復できる程度だったので問題ありません」


バーバラさんはダメージはあったが、しっかり吹き飛ばされたので問題無かったらしい。

みんなにはヒールが発動できるアイテムを渡してあるから、それで回復すればそうそう大事には至らない。


「……某は着物がダメに成ってしまったのである」


「いつやられたんですか」


コゴロウは陸竜と走竜からそれぞれ一発づつもらっていた。しかも爪と走竜の牙。

身体の方は治癒ヒールがあるので傷は回復しているが、服の一部がざっくりやられてセクシーな感じになっている。直撃は少なそうだが、かすめた攻撃は多そうだ。


「すいません、私は背中に尻尾を受けまして……大丈夫なのですが見てもらえますか?」


「……大丈夫ではないですね。背面の鎧は作り直しか」


ずっと陸竜の前に立ち続けたアル・シャインさん。

長い尻尾の巻き込みをもろに受けたらしい。亡者でなければリタイアだっただろう。頭に受けたら即死していてもおかしくはないダメージに成って居そうだ。

身に着けていた鎧は外してから、義体アーティフィシャル構築ボディ・リ・ビルドで修復する。アルタイルさんは無傷なので、とりあえずの回復はこれで完了だ。


「……レベルは……上がってないか。さてドロップは……あ~……」


残念。ドロップもハズレ。

落ちていたのは槍と杖が1本づつに腕輪が一つ。そして金貨が数枚。魔力の大きさから推定3万Gのドロップなら結構な装備になるかと思ったが、価値が分散していてどれも1万Gは超えないかな。


「皆MPは大丈夫ですか?」


俺の問いかけに一様に首を振る。

俺もMPは半分を切っている状態。さすがに休みたいが、6階層の様子は見ておきたい。ここで帰ってまたボスが沸いたら面倒だ。

魔石とポーションでMPを回復し、防具が無くなったアル・シャインさんの代わりにスコットさんをメンバーに加えて先に進む。


5階層のボス部屋を抜けると、その先には螺旋階段があった。

ん~……一方通行タイプの罠は無いかな。ロープを張ってタラゼドさんに先行して確認してもらうが、問題ないとのこと。

30メートル以上下る螺旋階段を降りると、その先には円形のホールがあり、道は5つに分かれていた。


「最初から5分岐とはなかなかに複雑な階層であるな」


「いや、これはシンプルに面倒なタイプの最下層ですね」


このタイプのダンジョンは記録にある。

今先5つの部屋は全てボス部屋でありしかも極めて短いスパンで復活する。

この5つのボス部屋を同時に制圧すると、どこかの部屋にダンジョンコアが現れるというものだ。

それまでコアはどこにあるか不明であり、やみくもに戦った所で意味がない。


各部屋のボスはどの程度の強さだろうか。

5階層の陸竜は単体で強いタイプだったが、同じのが5体いるなんてことは無かろう。強い魔物を出すより長い迷宮を作ったほうが安全性は高いのだ。このタイプの部屋割りは苦肉の策でもある。


「6階層の始点が分かったので、5階層の通路とつないでショートカットを作成して、いったん引き上げましょう」


「先は確認しないのであるか?」


「コゴロウは服を尚さんといけないし、魔石の消費も激しいしね」


トラップがある可能性もあるし、第一陣は亡者にお願いするつもり。

そうなるとMPが減っていてかつ5階層で損耗した状態で戦うのはよろしくない。


「壁をぶち抜いて上への道を作ります。バーバラさん、変成を手伝ってください。後のメンバーは湧いて来る魔物の対処と、切り出した石材の運搬です。穴掘りをサポートできる人はこちらに」


「わかりました」


ダンジョン壁を魔素吸収マナ・ドレインで壊死させて、迷宮壁を回収。すでにこの深さだと岩盤だ。変成て形を変えて石を切り出しながら、上層目指してトンネルの作成を始める。


「この作業もなれましたね」


「だいぶやったからね」


4階層からこうして裏道を整備しながら5階層までを攻略した。

変成、粉砕、念動力辺りを使って穴を掘るのもなれた。


たまに噴き出す地下水も編成で処理できるし、INTが高いので粉砕を使えば一気に結構な量を進める。

背後では戦闘が始まった音がするが、呼ばれるまではこっちの専念だ。


上までは踊り場ありの階段を作る。1メートルで60センチちょっと上昇するとして、9メートルほどで6メートル上昇。折り返しを計4回行えば5階層と同じ高さになるはず。

二人でがりが岩盤を削りながら15分ほどで1回折り返し。MPが足りないので戦闘班に合流して魔物からMPを回収。さらに掘り進める。

3時間ほどで5階層までつながった。後は守護兵ガーディアンに任せれば、迷宮の一部として補強してくれるだろう。


………………。


…………。


……。


「それで、みんなトレーニングの進捗はどう?」


6階層への通路を通すだけ通したその日、5人で集まって状況を確認する。

6階層がボス部屋集だったので、ダンジョン攻略はめどが立った。コゴロウの武器強化は終わり、俺の鎧ももうすぐ完了する予定。後はどこまでここでトレーニングをするかによって、ダンジョン攻略に掛ける時間が変わる。


外はもうすぐ4月。なんだかんだでコクーンに来てからも良い日数が過ぎている。

コクーン経由で大陸に移動するルートが確保できるはずなので、出来ることがかなり増える。いつまでもここにいるのも勿体ない。


「あたしは一通り必要な事は教えてもらったから、後はどこでもトレーニングできる。最下層の攻略するならそっちに参加するぜ」


アーニャは呪法を一通り体得して、魔術刻印の基礎知識を得た。

後は日々体得するまで訓練を続けるだけだ。数日でどうこう出来るものじゃない。


「私も理論は教わったから、後はトレーニングだけね。旅をしながらでも問題ないわ」


精霊同化を体得しようとしていたタリアも同じく。

彼女も魔術刻印のレクチャーを受けているので、後は時間が必要だ。


「某の武器強化は終わっているのである」


コゴロウは大鬼斬りの付喪神化が完了している。

ただ、何が変わったかはまだ良く分からないこと。共に戦ってみない事にはという事らしい。


「……すいません。私はもう少し時間が欲しいです」


魔導刻印の基礎を学んでいるバーバラさんは、まだ少し時間が欲しいとのこと。

とにかく詰め込みで魔導回路から魔導刻印への基礎知識後技術を詰め込んでいるが、まだ時間が足りない。

間違いなく実力は上がっていて、亡者の装備修復はかなりの速度と腕前になった。でも納得がいくところまではもう少しと言うところらしい。


俺は……刀の付喪神化が可能な域までまだかかると言われているし、少なくとも今回は難しいか。

後は……レベルだな。現在48レベル。今日の戦いでコゴロウ、バーバラさん、アルタイルさんの3人はレベルが上がったが俺は上がっていない。

後2レベルですべてのスキルが習得できる。あげてしまうのも手だ。

……魔術制御は練習はしている。まだ2面には行けていない。


「……よし、ダンジョン攻略の前に、6階層のボス部屋でレベル上げをしましょう」


あのレイアウトを見て思いついた提案を行う。


「……ボスで……レベル上げ?」


「うん。6階層はボス部屋が5つ、リポップが早いタイプで、多分とばりの杖よりは強い魔物が出る。だから調査して問題無ければ、ひたすらボスを周回して経験値を稼ぐ」


5階層のボス部屋はおそらくしばらくリポップしない。

それに陸竜が出てくると倒すのはしんどい。勝てない相手ではないが、もう少し楽がしたい。


「ふむ。確かにここなら歯ごたえのある魔物で経験値を稼げるであるな」


「たぶん、2次職レベル50は狙えると思う。まずは1週間。場合によっては1次職の追加も考えながらレベル上げ。1週間後に1回目のダンジョン攻略。ダメなら1週間ごとに再挑戦。ダンジョン攻略が終わったら、ボラケに戻って飛行船を回収。ここからクロノスの時間迷宮に飛んで、その後はアース狂信兵団と合流。次の行先を決めよう」


クーロンへの魔物の進行が始まって3カ月以上。

たまに外には出ている物の、大陸の情勢がどうなっているか詳しくは分からない。クトニオスまでのルートはザース経由も考えているが、クーロンの情勢も気になる。

いくら防御可能でも、飛行船で敵陣の真上を飛んでいくのは怖いからな。進行ルートはあるに越した事は無い。


「バーバラさんは魔導刻印作成の手がかりをつかんで。場合によっては、ボラケには戻らなくてもいい」


「……わかりました。何とか形にしてみます」


方針は決まった。

まずは6階層のボス部屋とレベル上げからやっていこう。


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現在4話公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!

アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

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