第251話 同心・コゴロウの捜査術

「ん~……金がない」


タリアとバーバラさんがそれぞれの仕事に向かった後、帳簿とにらめっこして日々の稼ぎと売り上げを見ながら、思わずうなる。

正確には余剰金が不足がちなだけだが、ない物はない。

王都から送ってもらった100万Gは飛行船の建設費用で吹き飛んだ。俺、アーニャ、バーバラさんの武器はの製造費はどれも一つ10万Gを切らないだろう。これは魔結晶と封魔弾の卸売り、それに冷蔵庫の売り上げで賄えるが数を抑えているためギリギリだ。


「金欠であるか?」


「余剰金が無いだけですけどね。手持ちが10万G切ってるので、ちょっと少ないなと」


「……桁が二つほどおかしいのである」


いやいや、剣一本そのくらいの値段するのよ。

日本円にすると1500万円とかそれくらいだろうけど、そろいもそろって2次職のパーティーがこの所持金では物足りないだろう。稼ぎの多い冒険者は出費も多い。


「こういう話を口に出すのもどうかと思うのであるが、タリア殿の懐が温かかったのでは?」


「あれ、全部タリアが自分の家族や村人を探すための懸賞金にしましたよ」


想起リメンバーで村人を思い出せるだけ思い出して、ギルドに人探しの懸賞金をかけてたからね。

一人1万Gで、かなりの金額が飛んで行った。残りも人相書きを作るのに使ったから、お小遣い程度しか残ってないはずだ。


「俺の商会の稼ぎはペローマのギルドに送るようにしちゃってますし、サクッと10万ほど稼ぎたいですね」


「……あえて言わせてもらうなら、サクッと稼げて溜まるか、なのである」


コゴロウはあきれ顔だ。

経済活動の総量が地球とは比べ物に成らないほど小さいから、大きく稼ぐのはなかなか難しい。

庶民は100G程度の買い物でもなかなかしないし、ギルドだって自由に動くお金は限界がある。俺の商売はギルドや商会が無理なく動かせる程度のお金を回収する形で成り立っているからな。吸い上げすぎるとすぐに限界が来る。


「素直に冒険者ギルドで採取依頼を受けらた良いのではないか? タリア殿の周辺調査のおかげで、採掘や採取の依頼がそれなりに出ていたはずである」


「思いのほかお金が溜まらないってボヤいてたから、上前を撥ねるのもちょっと」


首都の周辺の魔物が予想以上に金にならず、目標の10万Gにはまだ届いていないらしい。


「ん~……となり街まで遠征するかなぁ。コゴロウ、アルタイルさん預かってもらえる?」


死体を持って街の出入りをするのは結構めんどくさい。

死体を連れてだったら気づかれなかったりするだろうか。


「……構わないであるが……御仁も難儀な星の巡りであるな」


違いないね。

収納空間インベントリからアルタイルさんを取り出す。いきなり戦闘中という事はそう無いのだけど、アルタイルさんは覚醒と同時に索敵魔術を発動する。


「おはようございます。緊急では無いので大丈夫です」


「む、おはよう。今日はいつかね?」


「昨日の今日です。申し訳ないんですが、ちょっと街から出ようと思いまして。コゴロウ預かりに成っていただこうかと。もしくは、亡者でも入出審査通るか試してみますか?」


「ばれはしないと思うが。ばれたらひっ捕まるのが目に見えているでしょう。わざわざリスクを犯す必要もないですね」


「ですよねぇ」


どうせ試すなら差しさわりの無い小さな町や村にしたい。


『……でも、ちょっとお待ちを。索敵で気になる反応が有りますね』


『ん?』


アルタイルさんが念話に切り替えて報告してくれる。


『む?先日から家の周りをうろついている不審者であるか?』


この部屋には小音化が付与されていて、斥候のスキルでも中の様子ははっきりとは伺えない。

外からでは会話が認識できないであろうことは、アーニャのスキルでも集合知でも確認済みだ。

それでもこういう時には大事を取る。


『ワタルさん、生命探査ライフ・サーチで確認を』


『そうですね』


今アルタイルさんが使っている魔術は、2次職で覚える敵に気づかれづらいタイプの索敵魔術だ。近くにいる俺でも、何かしたかな?くらいしか分からない。

俺の生命探査ライフ・サーチも同じで、索敵に引っかかったことに気づけるのは2次職後半以降の実職者異常だろう。

スキルを人サイズの対象にして発動すると、家の周りにはそれなりに人通りが見られるが……。


『怪しいのは?』


『先ほど、ちょうど折り返して戻ってくる人が見えました。近くに動かずにいる人物もいるようです』


こちらの家の前を通り過ぎる形で往復しているらしい。


『どうしましょう?』


『この手の輩は、真偽官引っ張り出すのでもなければ、捕まえたってしらを切られるだけですね』


『いつものように魔力探信マナ・サーチで脅してみましょうか』


魔力感知が上がっている人間なら、索敵範囲に入ったことに気づく。嫌がって逃げていくだろう。


生命探査ライフ・サーチと同時発動して、魔力探信マナ・サーチに反応して動いたと思しき人物を絞るのである。土人形クレイドールで小さな人形を作って、目視で確認することはできぬであるか?一度顔を見れば想起リメンバーで思い出せるであろう?』


『……いいですね。どうしたんです?突然そんな知的な』


『……某コレでも一応フォレスの同心であるぞ?』


そうでした。この人一応警察官だ。しかもそれなりの地位の。


土人形クレイドールで気づかれないだろうか?』


『魔術を使ったことは判るであるが、基本的に種類までは分からないのである。アルタイル殿のように探知しづらい感知スキルを使われて居れば分からぬが、こういう輩に2次職が混じることもそう無いのである。魔力探信マナ・サーチが使われて居ないなら、斥候系のスキルは直視されなければ問題無いのである』


『それなら、外で鷹の目ホークアイを使って視野を広げましょう。それで敷地外に土人形クレイドールが打てる』


コゴロウと二人で中庭に出る。ここは外からは見えない位置だ。ただし小音化を掛けた家の中と違って、会話の盗み聞きくらいは容易だろう。


「それじゃあ、トレーニングがてら実験をしてみましょうか」


何も話さないのも不自然なので、差しさわりの無い訓練をしている風を装う。

久々にナッツを使って鷹の目ホークアイを発動。さすがに直接見えるような位置には居ないか。多重詠唱マルチキャストを使って土人形クレイドールを発動、人形操作ドール・マニュピレイトで視界を確保する。1センチの泥人形じゃ視点が低いが……。


『見えた。何人居ます?』


『こちらで怪しいと思っているのは三人ですね』


『では、魔力探信マナ・サーチを発動します』


発動すると同時に、生命探査ライフ・サーチに引っかかっていた点群が動き出す。


『確認しました。わかるだけで3人、余り特徴が無い、全員男ですね。他に怪しい点が2つほど?』


『5人は多いのであるが、さもありなん。そのまま追跡は可能であるか?』


『このサイズの人形じゃ追いつけませんよ。影渡りシャドウ・トリップ追いかけられますけど』


『さすがに止めたほうが無難である。現時点では単なる言いがかりであるからな』


『難しいですね』


とりあえず顔は判った。

しかし今は遠出はしないほうがよさそうだな。ばらした飛行船の一部やバルーンが土間や2回に保管されている。

アーニャが戻ってくれば宝箱トレジャーボックスで保管の安全性を上げられるのだが……、


『せっかくだから様子見をするのである。アルタイル殿はおそらく斥候の索敵に耐性が高いのである。何せ心音がせず呼吸も不要で、その上からだが熱を発さないのであるからな。なのでアルタイル殿を家に残して、スキル効果範囲内で外に出るのである。侵入すれば捕まえられる』


『そんな手に引っかかりますか?』


『ワタル殿のスキル範囲が1キロもあると知っている人は居ないのである。商店エリアの飯屋にでも入れば相手も油断するであろう。某も着いて行くので、事が起きたらスキルで転送していただければ問題ない』


コゴロウが珍しくやる気だ。

微妙に懸念もあるし、それじゃあ案に乗ってみましょうか。


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□雑記

コゴロウの前職である同心は、警察に例えるなら警視か警部くらいの立ち位置で、現場指揮官になります。対人事件に置いて、警備や捕縛・討伐を担当する領兵、軍の小隊レベルの臨時指揮権を有するくらいなので、指揮や各職の知識についてはかなり優秀です。


不定期更新ですが、スピンオフ側もよろしくお願いいたします!

アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

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