第250話 試作刀と侍のスキル
立春の休みと祭りが明けた翌日、俺は一人ソウエン工房を訪ねていた。
「おう、よう来たな。準備は出来てるからあがんな」
ゲンジュウロウさんに案内されて、店舗から奥の工房へ入る。
今日は注文した刀の調整の日。何度目かになる共有スペースで待っていると、お弟子さんと思われるドワーフが二振りの太刀を持ってきてくれた。
「握りはまだ仮で、刃も入ってねぇ。まずは振って重心を見てくれ。よけりゃ、また魔力通しだ」
「わかりました」
庭を借りて、形だけで来た太刀を抜く。
刃渡りは想定90センチほど、握りは30センチと言ったくらいになるだろうか。折れたバスタードソードより短く、打刀よりは長い。重さは1キロ半ほどだろうか。短くなった分、前の剣より少し軽い。
上段から振り下ろすと、ビュッと風を切る良い音がする。ステータスのおかげで重さは苦にならない。
そのままいくつかの型で振ってみるが、特に違和感は感じない。振るえる力を考えると、こんなに軽くてもいいのかとむしろそっちが心配になる。
試しにステータスを抑制して振るってみる。
これはさすがに重さを感じるな。でも、
一本目を追えて、二本目へ。どちらも同じ造りとのこと。これも違和感はない。
元々違和感を感じられるほどの腕が無いというのもある。こればっかりは致し方ないね。
「良いと思います。細かい所は、すいません、俺には見極めが尽きません」
振るった時の安定感は、前の剣より高いかも知れない。物は切っていないが、ステータスを制限せず全力で振るっても違和感がない。握りはまだ仮の物だと言っていたが、十分に使えそうだ。
「何とも張り合いのねぇ話だな」
「俺の剣の腕は駆け出しみたいなもんですからね」
「お前みたいな駆け出しが居る物か」
二人でニヤリと笑う。
これで刃が入れば結構な一品になるだろう。今から楽しみだ。
「せっかくだから二刀とスキルも試してみろ。空撃ちでも発動すんだろ」
「そうですね、お言葉に甘えて」
侍のレベルがようやく99まで上がって、すべてのスキルが定着した。桜花斬はいらんけど、いろいろ試してみよう。
刀を上段に構えて
……スキルの発動が軽いな。
魔術にしろスキルにしろ、発動の際には頭の中にあるスイッチを押すと発動するわけだが、その感覚はどうしてもワンテンポずれる。そのずれがこの剣は少ない気がする。感覚としては半テンポくらい。
「ずいぶんスムーズにスキルが乗りますね」
「自分に合わせたいい武器ってのはそう言うもんさ。だがそれを感じるって事は、感覚にどっかが追い付いてないってこった。武器か、身体か、それとも心持ちかは分からねぇが、もっと慣らせるはずだぜ。ぁあ、一朝一夕になるもんじゃねぇけどな」
「……ふむ」
ベテランになれば、みんな
この辺の個人技は体系化されてないせいで、集合知に編纂されてないっぽいんだよな。スキルのモーション乗せを研究しているらしい情報があって、勝手に
「じゃあ、次は二刀で……
同じモーションで振ると、倍のMPを消費して両方の剣に発動した。
連続で振るうと片方だけ。なんだろう、ちょっとおもしろい。
「
二刀で同時に剣を剣を振るうと、縦斬りと横凪に同時にスキルが乗る。
縦、横の順番で剣が変わってもOK。横から入ると、縦にスキルが乗ってもう一回横凪が必要。二刀とも縦斬りで振り下ろすと、片方にスキルが乗って、左右どちらかの剣で横凪に行ける。
これはバリエーションが広がるな。
「二刀良いですね」
「だろ。お前さんの
「ちょっともう一つ試してみます」
使うのは桜花斬。8方向からの斬撃を振りぬき、とどめに突きを放つ連撃。
連撃系のスキルは不思議な感じだが……斬撃はどちらの武器でも行けるな。スキル発動中、同じ方向からの斬撃は放てない。選択肢に無くて突っかかる感じ。キャンセルできるかもしれないが、ちょっとやっただけでは無理だった。
十文字斬りのように多方の斬撃を同時に放つのは可能。右手と左手で斬撃の回数がずれてもOK。右、左、右、左と交互につなげたほうが発動が早い。最後の突きは片手でも両方でも行ける。……二刀だと隙を減らせてありかもしれないな。
「ありがとうございます。なかなかおもしろくていいですね。完成が楽しみです」
「おう。任せとけ。……ところでお前さん、侍のスキルを使っていたようだが魔術師職じゃなかったか?」
「……それは言わぬが花でしょう。ってか、スキルを使ってみろと言ったのはゲンジュウロウさんじゃないですか」
「別にとやかく言う気はねぇよ」
くっ……これは俺たちがレベル上げで色々やってるのをある程度察してるな。
この間の裁縫師たちのレベル稼ぎの話が、こっちにまで回ってきたか。
「んじゃ、調子をみっからその前に魔力を満タンまで注いでな」
「そっちは任せてください」
それから30分ほどかけて、慎重に魔力を注ぐ。
銑鉄の時は力業だったけど、玉鋼になってからはずいぶん勝手が違う。素材の時はゲル状何かに押し込んでいく感じだったけど、今は細い管に少しずづ注射していく感じ。
魔力感知で見ていると、剣全体に葉脈のような魔力回路が広がっているのが見える。その回路によって隅々までむらなく魔力が浸透し、それ以上注げなくなったところで完了だ。
「持ってるだけで魔力を奪って強化されるのはいい武器とは言わねぇ。それは使い手が武器を越えた時に、伸びしろが無いって事だからな。武器は成長はせんが、枷に成っても行けねぇんだよ」
なんでも切れるというだけでなく、斬りたくないものは斬らない剣。
錬金術を刀匠の技術の粋を集めた武器の本質は、思い通りに扱えることにあるそうだ。
……それなら両刃でも良いんじゃないとは言わない。野暮だから。
一通り魔力を注ぎ終えて、ゲンジュウロウさんと世間話に興じていると、息子のアラタさんもやってきた。
「アーニャはまだ戻ってねえか?」
「あ~、はい。なんか結構遠くまで遠征したみたいなんですよね」
アーニャはギルドランクを2に上げるため、カサクで知り合った新米冒険者と臨時パーティーを組んで、稼ぎの良い地域まで遠征をしている。
春祭りの直前に短い手紙で「もう少しかかる」とおおざっぱな連絡をくれたんだけど……様子を見に行ったほうが良いかなぁ。あんまり過保護なのはよくないと思ってるんだけど。
「まあ、後2回も処置すれば完成まで持って行けるから問題はねぇが……早いとこ試したいんだよなぁ。還ってきたらすぐこっち顔出すように言ってくれ」
アラタさんの作っている双剣もだいぶ気合の入った者らしい。
打ってる本人が仕上げたくてうずうずしている感じだ。
「戻ったら伝えておきますよ」
とりあえず俺のやるべきことは飛行船づくりの仕上げだ。
搭乗部を仕上げて、さらにモーターの性能をもう少し向上させたい。
再誕日程から足は出ているものの大きな問題は起きてないから、このまま順調に行く事を期待しよう。
---------------------------------------------------------------------------------------------
□あとがき
不定期更新ですが、スピンオフ側もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます