第370話 混沌の獣・プリニウス9
プリニウスが地面をけると、加速して一気に目の前に迫る。
筋骨隆々の腕から振り出されるパンチ。縮地を使って距離を取ると、突き刺さった地面が割れた。
……大きさが大きさだけあってえげつないな!
「いい度胸だ、おらっ!」
気合一声、飛び込んで切り付ける。浅い!防御力も上がってる!
身体に巻き付こうとした
「こういう事も出来る」
尻尾だけが長く伸びると、数十メートル離れていた軍の集団を薙ぎ払う。
その一撃は軍の兵士たちにはほとんどダメージを与えなかった。ただ、幾人かが武器で防御した。それは長く細く伸びたプリニウスの尻尾の薄皮を削る。
その瞬間、肩からさらに2本の腕が生えた。
「ずっるっ!」
「もはや能力を隠す意味も無いのでな!」
まずい、手数が追い付かない!
『ワタル!手伝うか!?』
『それじゃジリ貧!』
攻撃を避けながら打開策を探す。自傷や防御での強化をされたら手が付けられない。
その時、上空を飛び回っていたカラスの魔物が魔術によって撃墜される。
それと同時に、プリニウスの身体に発生していたパーツが減っていく。なるほど、魔物による自傷はあくまで場繋ぎか!
『っ!召喚された魔物を倒してください!敵が死ねば即座に能力が落ちます!』
その念話に応じて、宙を舞う魔物たちに攻撃が飛ぶ。
「気づいたか!だが無駄な事よ」
プリニウスがお代わりの魔物を召喚する。こいつ、反撃でやられてLPが一気に減らないよう、こっちを圧倒できるギリギリの顕現数を維持しているのか。
「こんにゃろ!轟け!
「抜かったな!」
雷撃を帯びた魔力の刃を、プリニウスは無効化を発動した腕で防御する。
その一撃は腕の肉を深くえぐり奴の身体の動きを止めるが、致命傷には至らない。防御される可能性は見越しているから、縮天で鼻先へ飛んだ。
「
青白く輝く火球はプリニウスの口の中へと吸い込まれ、爆発によって頭を綺麗に吹き飛ばした。
これで1回死んだか?
……MPが無いのが見透かされている。
「おのれ小癪な!」
あおむけに倒れて盛大に水しぶきを上げたプリニウスは、ぐるりと回転してその身を起こす。
頭はトカゲ……おそらく竜を模倣した物に戻ったようだ。
「てめぇ、ほんとに何度死ねるんだよっ!」
この一夜で何回死んだ?
大物、つまり軍で対処していた時は撃破まで至っていないとしても、減ったLPは100以上になるはずだ。にもかかわらず、こいつは焦る様子もなく再誕の際の魔力も尽きる様子が無い。
「クククっ、答えてやる義理は無いがな……ふむ。だがキサマに絶望を与えてやるのも一興か」
……だいぶ余裕そうだな。
「今でようやく半分に届くか、と言った所か。軍の一斉攻撃時に顕現していたのがおよそ200。あの時に『朕』を殺しておければな。さすれば、さすがに今ほど余裕はなかった」
だから伝説級スキルを反射で防いだのか。
「『儂』は混沌の獣。666の力を身に宿し、凶兆をもたらすモノ。すなわち
「……666って……獣の数字かよ」
黙示録だっけか? この世界の文化じゃねえだろうに。
「……キサマ、その呼び名をどこで?」
「おっと……そいつはナイショだ」
……地球の伝承とこっちの世界の魔物には類似点が多いな。これは一体どっから発生したんだ?
こっちの世界で魔物の登場は1000年。地球の伝承は2000年以上前から変遷してきている物もあると考えると、時間が合わない。浦島太郎は嫌だぞ。
「どちらにせよコロスまでか」
……悠長に考えている場合じゃなかった。
残りLPは300ちょっとか?それだと今の形態なら30回ちょっと殺せば倒せる?
……きっついな。MPが無い。
「ついでにもう一つ、キサマに絶望を与えてやろ」
「サービスか?」
「土産だよ。『自分』の力は、太陽と月によって変遷する。新月か満月、それが我が力を最大に引き出す日だと、キサマらも気づいているだろう?それは正しい。だが見落としがある。日が昇れば自分が力を失うと?そうではない。昼の姿に生まれ変わるのだ」
「……なにが言いたい?」
「ふふ……わかるだろう。リセットだ。タイムリミットはもう半時も無いぞ?そこまでに『私』を殺し切らなければ、全ては振り出しだ」
……日の出と共にLPが回復する?
ハッタリの可能性もあるが……かます意味がない。毎昼夜LP回復は強すぎる。おそらく満月後の日の出、新月後の日の出に合わせて回復、と言った所か。
「なら、それまでに殺しつくす」
「出来るものかっ!」
そう言うと、プリニウスの胴体が膨れ上がり、側面から象の頭が生えて来る。
「キサマらが作った地の利も使わせてもらおう」
泥沼に突き刺さった鼻が、まるでカトゥーンアニメのように大きく膨れ、水を吸い上げる。
地面が急速に乾いてひび割れていく。吸った量より乾いた範囲の方がでかいんだがっ!
「水芸かよ!?」
身体のいたるところに現れた口から、圧縮された泥水が打ち出される。
交わし切れなかった軍の術師が腕を吹き飛ばされて運ばれていくのが見えた。これでプリニウスと対面してるのは俺一人?人を追加するか……これ以上能力が上がられたらやってられんぞ。
「そろってあらがうか、一人ずつ殺されるか選ぶと良い!」
「その前にお前を殺す」
これは時間稼ぎも厳しい。殺し切るにも、まともな方法ではもうMPが無理。
……つまり、奥の手を使うしかない。
軍の目もある。おそらくこの戦いを観察している魔物もいるだろう。
だけどそれを気にしている余裕はない。
俺へ向けて、水砲が殺到する。
「とっときだ!受け取れ!」
空気の壁をぶち抜く轟音と共に、音速を越えた砲弾が顕現する。
それはプリニウスが防御する間もなく、その硬い皮膚を易々と打ち破り、その胴体に風穴を開ける。
大穴からは、夜明けの陽光に照らされた山脈が望めた。
「ぐぁ!?」
プリニウスが動きを止め、身体が崩壊を始める。
声を発する余裕があった……体に大穴が開いても即死はさせられないか。死んだのはスリップダメージの所為。
奴の反応から、そう分析した。……時間効率が悪い。
「キサマ!何をした!!」
「答える義理は無いね!」
今度は岩のように固く変化したプリニウスの身体を、再度打ち込まれた大口径ライフル弾が粉砕する。
……後4発。
今回準備できた発射済みライフル弾は7発。1発はウォルガルフに、そして今2発撃った。
もっと準備できればよかったが、打ち出すために試作した銃身が保たず、7発しか準備できなかったのだ。
この弾丸で即死してくれれば楽だったんだけどな。
プリニウスは弾丸を打ち込まれても、死ぬまでに十数秒はかかるようだ。
ウォルガルフも即死しなかった。
あいつは追加で胴体を縦に2分割しても即死しなかったから、そう言う意味では異常に強かった。こいつも似たようなんか。
「バカなっ!今の今までこれだけの力を隠して!?」
「お互い様だろう!」
ライフル弾の攻撃は純物理。反射スキルをもってしても対処は出来ない。そもそもプリニウスには何が起こっているのか分からないだろう。
『ダメだ、溶ける!』
復活したプリニウスに4発目を打ち込もうとしたところで、バノッサさんからストップがかかった。
プリニウスん身体がどろりと溶けて、黄色の粘菌へと姿を変える。
スライム形態!?
「ほんと多彩だな。
伸びて来る触手を、
「さっきまでの威勢はどうした!あと何回で死ぬ!?」
『キサマァァァアァ!』
奴の身体が振るえる。口を失ったから会話は念話だのみか?
復活したプリニウスに向けて4発目。
しかしこちらの予想に反して、砲撃よりも早くプリニウスが空へと飛びあがった。
『当たらなければどうという事は無い!』
昆虫の身体に、複数の生き物のパーツが生えている。クワガタの様な大あごの在る頭には、人の顔が生えていた。大きさが2~3メートルほどまで縮んでいる。ここにきてサイズを捨てた形態か。
「出し惜しみしていたという事は、どうせ数に限りでもあるのだろう!?」
「ご名答っ!」
昆虫特有の嫌な羽音を響かせながらプリニウスが飛び回る。
黒光りするその身体はそれなりに硬そうだが。
……潮時だな。
『準備完了』
地平の向こうに太陽が顔を出す。タリアが終了を告げた。
「ははははははははっ!時間切れだ!無駄だったな!」
勝利を確信したプリニウスが高笑いを上げた。
「……最後の姿が虫けらとはな」
「何っ!?」
『……すべての始まりにて有の概念、原初にて根源たる光の精霊さん。今契約に基づいて、ここに顕現せよ。
タリアの詠唱が念話を介して響く。
「……そこは出口無き白き部屋。光よ、収束せよ!
周囲が暗くなったことに、プリニウスは気づかなかった。
小さくなったその身体を熱線が貫き、その命を一瞬で刈り取る。高熱によりイオン化した空気が、プラズマとなって発光現象を引き起こした。
『ぁ?』
プリニウスは自動的に再生する。タリアの魔術によって、収束した光が無限折り返すその空間に。
光と同じ速度で進む死を防ぐ術はない。
プリニウスの身体は、白き球体に包まれて、原形なく崩壊していく。
……きっと、どうして死んだかもわからないのだろう。
『タリアが初めて精霊使い65レベルに到達しました。ワタル・リターナーが初めて魔剣士67レベルに到達しました。アーニャが……』
闘いに参加した者たちのレベルが上がり、2次職の
クーロン皇国で数多くの破壊をもたらした七魔星、
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ようやくプリニウス戦が終わりました。
ノリと勢いだけで書いて居たら3章が長くなり過ぎたんで、いろいろ見直したいところですね。
明日、明後日は所用により更新が難しいかもしれません。
次話は最悪2/27(月)の更新に成りますがご了承ください。
現在5話まで公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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