第141話 人形遣い、始動!

陛下との謁見から10日ほどが経過し、商会絡みの手続きや、健康増進軒の仕事を雇った社員たちに任せて、タリアとアーニャ、三人で森へと繰り出していた。


「いやぁ、久しぶりに羽根を伸ばせる」


大分気温が下がるようになってきたが、天気のいい日は気持ちがいいね。小鳥たちのさえずりも聞こえるし、おっと魔物だ死ね。


「なんかろくでもない事考えてる顔してるわよ?」


「そんなこと無いさ。弾の休みを満喫しているだけだよ」


飛んできた昆虫系の魔物を切り伏せて伸びをする。ドロップも拾わなきゃね。


「姉さん、ワタルっていつもこんな感じなのか?」


「大体こんな感じよ」


どんな感じだろう。


結構森の奥まで進んで、周りに人の気配が無い所を探す。その後で周囲をさらっと切り開いたら、いつも通りの実験場の完成だ。


「無意味な森林破壊って感じがする」


「下草が短くなってる分まだましだよ?」


「以前、アインスって街に居た時は焼き払ったから、それよりはましね」


あの頃はまだ緑が深かったからな。


「まずは今日転職した人形遣いのレベルを上げよう。タリア、とばりの杖を。まずは自分でやるから警戒をお願い。アーニャ、よく見てて」


「了解」


なんだかんだでこの杖を使うのも久しぶりだ。錬金術師アルケミストのスキルは定着していないから、今日は魔物を捕まえてくるのがめんどくさい。


「サモン、ゴブリン精鋭騎士。……あんど封印解除レリーズ


逃げ場のない穴の中で生まれたゴブリンは、状況を把握する事無く上から降ってきた封魔弾に焼かれて死んだ。

よし、これでレベルは30手前。あと3回ほどで50くらいまで行くだろう。


「……今生まれたのって、すごく強い魔物だよな?」


「まぁ、ぼちぼちかな。俺なら一人で殴り合えるよ」


ゴブリン精鋭騎士は高速移動系のスキルこそ使ってこない物の、攻撃力も防御力もそれなりに高く、剣タイプでも槍タイプでもなかなかの強敵だ。少なくとも、ブギーマンが呼んでた雑魚共よりよっぽど強い。

そんな調子でレベルを50まで上げる。


「それじゃあ、次はアーニャの番かな」


「……うっす」


「そこは素直に『はい』で良いよ。確実に倒せる1000G級をだすよ」


穴の中に魔物を召喚して、それを封魔弾でアーニャが倒す。


「どう?」


「……何かが変わった感じはしない。でも……魔力が流れてくるのを感じた」


「魔力が?」


「倒した瞬間、魔物から魔力がこっちに向かって流れ込んでくる感じ。今も身体の中で落ち着かずにうごめいている。ちょっと気持ちわりぃ」


「それ大丈夫か?」


「多分。操作が難しくなってる感じがするけど、体調にどうのって感じじゃない。違和感はあるけど平気そう」


魔物を倒した瞬間、魔力が流れ込んでくる……か。

魔力感知を凝らしてみるが、アーニャの体内の魔力の動きまでは上手く感知できない。

魔物を倒した後の魔力の動きなんて気にしたこと無かったな。


アーニャは無属性魔術である魔弾マナ・バレットを覚えた後、ずっと魔力操作と魔力感知のトレーニングに重点を置いていた。

おかげで今朝がた、双方ともにスキルのレベルが2に上がっている。

そのおかげで感じたのだろうか。ステータスに変化は無いし、様子見をするしかない。魔力だったら場合によってはMPタンクで吸収できるかもしれないし、不調が続くなら対応を考えよう。


「んじゃ、トレーニングを始めようか。まずは俺とアーニャからでいいかな?」


「私の試したい精霊魔術は、ちょっとどうなるか分からないから、先にどうぞ」


タリアはずっと精霊と会話を続け、新しい魔術をいくつか作成している。

当人なりに色々考えて作った物らしい。いくつかアイデア出しもしたけれど、最終的な調整は本人しか知らないから楽しみだ。


「さて、それじゃあ身体を動かしますか。まずは……土人形クレイドール


土魔術の一つ、土の人形を生み出すスキルを発動すると、地面が競りあがって甲冑騎士の形に成る。

人形遣いマリオネッターで覚える魔術の一つだが、こいつ事態は人の形を模すだけのデコイだ。造形は術者のイメージ力とINTによる。


「そして、動け傀儡!人形操作ドール・マニュピレイト!」


スキルの発動と同時に思考が分割され、土塊人形が動き出す。

人形遣いの基本にして根本。人形を意のままに司るスキルである。


「おお、動いた!話に聞いていた通りだな」


「ん、こっちの操作感も問題無い。まずは人形vsアーニャで1回戦行ってみよう」


修練理解でのトレーニングや簡単な模擬戦は既に始めているので、今日はその拡張版だ。

俺が操作する土人形の騎士と、武器を抜いたアーニャが退治する。

土人形の武器は材質土のロングソードとカイトシールド。全部人形の一部だから、強度は俺の魔術しだい。


アーニャの武器はショートソードとマインゴーシュの二刀。それぞれステータス強化などのエンチャントは付与されている。魔鉄製のちょっと安上がりな奴だ。

防具は煮固めた革ハードレザーなめし皮ソフトレザーの合いの子で、急所と動かない所だけを覆っている。ハーフ獣人である彼女は身体が柔らかく、俺ではできないような動きをする。

最近練習しているアクロバットは俺より鮮やかだ。


「それじゃあ、お先にっ!」


流れるような踏み込みから盾の視覚へ。

彼女の動きはステータスに依存した物じゃない。一連の動きがなめらかで、気を抜くと意表を突かれる。高いDEXもあって、技術だけならロバートさんと良い勝負をしそうだ。


リーチが長いこちらが有利と見て、避けにくい横凪に剣を振るう。

人形操作ドール・マニュピレイトで操る人形のステータスは素材と術者のINT次第だ。土人形なのでHPやVITは高いが、STRは身体を動かすのに人より多く消費されるし、AGIはそもそも低い。

今はINTを抑えて人形を作っているので、トータル性能は1次職の剣士位だろうか。


「よっ!っていっ!硬ったいな!」


ショートソードが表面を削る。むぅ、STRをちょっとブートしたアーニャの攻撃でダメージを受けるか。思いのほか脆い。

1次職のスキルだと、俺のVITを人形に反映することが出来ないからかな。人形使いの基本的なVITより土人形クレイドールのVITの方が高いのだから、そもそも参照する意味も無いのだけれど。


「むぅ、人形動かすの結構難しいな」


自分からの視点、人形の視界のどちらかで操作することに成るのだが、人形の視界は少々視野が狭い。

魔術師の目ウィザード・アイが頭部についてる感じだ。視点は好きに動かせるようなので、人形の向いている方に意味は無いが、変に動かすと体と視界の関係が合わなくなって混乱する。


「せやっ!とうっ!」


土塊の剣を振り回している間に、ガリガリと人形のHPが削られていく。これ、剣を叩きつけても、盾でガードしてもHPが減るな。武器を作るのはリーチくらいしか意味が無いか。

と、いう事は無生物らしい戦い方をすべきかな。


振るった剣を捨てて、ダメージを無視して掴みにかかる。


「おっと!あぶねー」


ひらりと身をかわされると同時に、人形の指が複数回切り付けられて崩壊した。

ステータスオフでアーニャと追いかけっこをした時の感じに近い。これは難しい。

一撃でのHPの削れ方は微々たるものだが、どこに当っても均等にHPが減っていく。こりゃあかん。


「と、いうわけでもう一体。土人形クレイドール


「あ、ずりぃ!」


「ははは、誰も一体だけとは言っていないぞ」


人形の操作はINTの割当量に影響する。20で1体操れるので、今の俺なら動かすだけなら30体位は動かせるぞ。


「ちくしょう!捕まった」


二体の人形に挟まれて、アーニャはあっさり拘束される。危ない危ない。あのままだと負けるところだった。


「……大人げないわね」


「例えトレーニングでも、師匠が勝ちをゆずるわけには行けないのでね」


しかしまぁ、知っていたことだが土人形クレイドール人形操作ドール・マニュピレイトで操るのは効率が悪いな。

土人形は関節の無い粘土の塊のようなものだ。細かい粒子の粒が入った袋を動かしている感じで、人形のステータスの多くはそのコントロールに使われている。

形状を自在に変えられるという利点はあるが、攻撃力と言う意味では人形自体はあまり高くない。


「なんかいけっかと思ったのに」


「うむ。あのまま戦っていたら負けていただろうからな。いい動きだった」


ぴくぴく犬耳が動く頭をわしゃわしゃとなでてやる。


「頭撫でんなっ」


嫌がるふりをしつつも尻尾はぶんぶん振られている。愛い奴よ。


「……ロリコン」


「その概念はこの世界にゃねえだろっ!」


いつ口を滑らせたか覚えていないのだが、最近タリアは地球の知識に毒されつつある。マズイね。

あとアーニャはロリと言うよりボーイッシュ少女だ。そこは譲れない。


「さて、じゃあ、人形遣い第2弾いってみましょうか」

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