第418話 ボガードの能力
「おっと、動かない方が良いよ」
倒れ伏したゴールドスタイン卿の傍らで、ボガードはこちらに向けてそうのたまった。
「HPが無くなって虫の息だけど、ダニーはまだ生きてる。オイラとしたら首を撥ねるくらいは余裕だけどね。せっかくの4次職だし、どうせなら殺さずに捕らえたいじゃない?君らだって、死ぬ前に助けたいでしょう?」
……よく言うぜ。
既に観客だった周りの魔物が俺達を囲うように動き出している。殿下の所に向かうようなら待つ選択肢はないが、ゴールドスタイン卿を見捨てるのも流石に心苦しい。
「にらみ合う理由はないと思うが?」
「オイラにとってはそうでも無いよ。さすがにダメージを受けすぎたからね。ちょっと回復させてもらいたいな。ああ、キミたちにとっては何のメリットも無いだろうから、代わりに質問にくらいは答えてあげるよ?どうしてオイラが勝ったのかくらいは知りたいだろう?」
……面倒な奴だ。
闇払いの効果が続いている所為で、
しかしなんで卿が負けたか知りたいのは事実。
「どうやって避けた?」
「……ふぅん。避けたって思うんだ」
考えられる方法としては回避したと考えるのが妥当。しかしながらそれだと問題がある。
高速移動スキルはただでさえコストが重い。
こいつの高速移動スキルは
「魔物の生態についてもそれなりに詳しいんでね。能力が上がる程“価値”に対するリソース占有量が上がる群棲に、縮地と
そう言うとボガードは嫌そうに顔をしかめた。
「いやいや……キミ、何者?いくら何でも詳しすぎでしょ。『リソース』とか群棲の特性とかどっから知ったの?魔物に協力者がいる?ダニーだけ攫って逃げてもいいかと思ったけど、ちょっとそうも行かなくなるじゃん」
「おっと、こっちが質問する側だぜ?」
「……ちっ、与太話をするくらいなら見捨ててもって顔してるね。それが一番おいしくないか。いいよ、教えてあげる。使ったのは
最初に話しかけてきたこいつの分体は、
「3つ目の高速移動スキル?それもリソース不足だろ」
「キミ、やな奴だね。オイラが影に潜むのは別のスキルだよ。縮地と
……影に潜むのが別のスキル?
思い当たる情報は……あるな。人類には使えないスキルだが。
「
「……ああ、マジで面倒くさいね、キミ。そんなに殺し合いたい?」
魔物側の呼び名が人類側に名前まで知られているとは思っていなかったのだろう。
恐らくは邪教徒の知識だが、挑発しておくに限る。
「死にたい?とか聞かないとはずいぶん弱気だな」
「結構な価値だった子たちをほとんど無傷で倒されて、ドロップ品も回収できない。この回収妨害って何のスキルだっけ?なんにしても、ダニーを倒したから楽勝って感じじゃ無いくらいは理解したよ。……街の方も押されてるようだしねぇ」
先ほどまでの戦闘で倒された魔物のドロップ品は、アーニャのスキルである
『ワタルさん!闇払いがもうすぐ切れます!』
『……殿下、ありがとうございます。皆、動きに出さない様に準備を』
「オイラも本気で行かなきゃね。まぁ、そっちもみたいだけど。これだけ囲まれて、4人で、一件不利に見える状況なのに、隠し切れない殺意があふれてるよ?」
「ああ、そうだな。俺はお前にうらみは無いが、人類の記憶はお前を殺せとうるさく叫んでるよ」
ネームドと相対するとダメだな。どうしても集合知に刻まれた憎悪に引っ張られる。
ダンジョンの
『後30秒ほどで切れるそうです!』
『アリッサさん、早めに切れて良いのでタイミングのカウントを!』
『……は、はい。……18、17……』
仕掛けるのはアリッサさんの集中力が切れて、闇払いが解けた瞬間。
ボガードはゴールドスタイン卿にとどめを刺すことにメリットがない。つまり、卿を奪われない様に
『13、12、11……』
「質問させて時間を稼ぐつもりが、こっちが聞きたい事が増えちゃったよ。ただでさえ普段しないタイマンの後だってのにさ。働きすぎだと思わない?」
「お前らの労働環境なんか知るかよ」
にらみ合ったまま、じりじりとカウントが減っていく。
向こうもこのままにらみ合いですむとは思っていないだろう。後はタイミングしだい。
「どうせだったらついでに教えてくれ」
『5……4……』
「待ち構えていた割には魔物の数も戦力も少ない様だけど、ほかの奴らはどうs……」
『1……切れます!』
その瞬間、全員が同時に動き出した。
「
俺の
それは最善の布陣に思えたが……。
ゴールドスタイン卿が影に沈む。けれどそれは俺のスキルの為では無く……。
影から飛び出したボガードの分体がスキルを阻み、またスキルに打倒されて消えるが……。
「甘いよ。その程度の奇襲で、オイラをどうにかできると思わないでほしいな」
ボガードがスキルで距離をとる。
即座に縮地を発動し、攻撃の手を緩めにままに念話で叫ぶ。
『っ!ゴールドスタイン卿が持っていかれました。多分奴の影の中!安全でしょうが、倒さないと回収は無理です』
『むぅ、ますます逃がすわけには行かなくなったであるか』
『アリッサさん!闇払い再度行けますか?!』
『……は……はいっ!30秒下さい!』
『了解!みんな、全力で押し切るよ!』
全員が一斉にボガードに向かうと同時に、周囲の魔物たちが輪を狭めるように動き出した。
「悪いけど、数で押しつぶさせてもらうよ」
「雑魚をどれだけ集めても無駄なんだよ!」
「それ、負ける悪役の台詞だよねぇ」
ほんとにヤカマシイなこいつは!
しかも体捌きが上手い!4人での連携が完ぺきとは言えなくても、一人一人の攻撃は見て躱せる速度じゃないってのに!
『闇払い行きます!!』
そして二度目の影の無い世界が訪れる。
「神薙か。頑張るね。……仕方ない」
「引かせないぜ!」
「ここまでやって引かないよっ」
ボガードが魔物の集団の中へ飛ぶと同時に……近くにいた2体の魔物に腕を突き刺した。
突然の行為に驚いたのは俺達だけでなく、魔物が苦しみに声を上げる。
「!?」
「影を封じられると、分れるのがちょっと遅いんだよね。だけど、身体の中は互いに不可侵でしょう?」
貫かれた魔物が動きを止め、それをぶち破る様にボガードの分体が生み出される。
……それも結構な力を秘めてやがる。本体の魔力量も揺らいだ雰囲気が無い。
「さて、オイラの増える速度について来れるかな?」
そう言って余裕の笑みを浮かべた。
……さすがに
『……皆、露払いをお願いできる?奥の手も使って、全力でやる』
『……わかったぜ』
『サポートします』
『任されよう。大鬼斬りも同胞の活躍の場を奪う真似は控えろと言っているである』
三人の返答にうなづく。
俺の全力は、ちょっとサイズ的にあれで、近接がメインの3人とは連携しずらいんだ。
『文月、如月……弥生、全力で行くよ』
『任せとき!』
『いつでも大丈夫です!』
『う~!がんばります!!』
自我が成長した付喪神姉妹との連携。
「ボガードッ!」
「……?おっと、どうしたんだい?」
「全力で、お前を滅ぼす!」
息を深く吐き、静かに吸う。
息を併せろ、呼吸を併せろ。
4つの意思を一つにまとめろ。
「いざ……勝負っ!!」
スキルの発動度同時に、視界がブレた。
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感染経路不明の胃腸炎を発症して数日寝込んでおりました。
が、しっかり休むと筆が乗りますね。年末に向けて頑張ります。
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進みは遅いですがスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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