第419話 完全体
縮地を発動した次の瞬間、ボガードとの距離はほぼゼロに縮まった。
まさか捻りなく突っ込んで来るとは思っていなかったのだろう。驚いた表情を浮かべる1体に、交差する×字の斬撃を放つ。
「っ!?」
捕らえたのは分体。回避しようとボガードが発動させた縮地は、如月の雲散霧消によって打ち消され、その分体はあえなく身体を4つに分割された。
「「「まっすぐ突っ込んで来るとは思わなかったよ!しかも縮地を打ち消した!? なにそれ、どうなってんの!」」」
ボガードが若干楽しそうな声をハモらせながら、一斉にこちらに躍りかかって来る。
「答えてやる義理は無いね!」
相手の装備は……六角棍、短剣、素手に……ショートボウの分体が生み出された。手にしているのは魔物武器だろうが、使うレパートリーは集合知に在る通り若干珍しいものが多い。
矢は身体を捻って直撃を避ける。リーチの短い素でと短剣のやつは横薙ぎを避けて距離を取った。必然的に相対するのは六角棍持ちの一体。突きを躱して、一歩踏み込む。
『うちに斬れない物はないで!』
僅かに斜めに振るった文月は、相手の持つ六角崑ごとボガードの分体を二つに切り裂いた。
「オイラの装備を切った!?ほんとどうなってるんだい?」
文月の出力は80%ほど。それでもボガードの魔物武器を切り裂いて、分体を一撃で屠る能力を発揮している。
分体の消滅が早いのは、ボガード自体のHPが減っているからだろう。ゴールドスタイン卿の闘いは無駄では無かった。
「でもね、それじゃあ遅いよ?」
更に2体、ボガードが増える。杖と手甲。すでに防御は難しいと判断したか。
アーチャーに向けて
繰り出された拳を膝で受ける。ゴインッと金属音がして、衝撃が駆け抜けた。
「ハッ!」
驚いた表情を浮かべたまま、格闘家の首が宙に舞う。何が起き得たか分からなかったのだろう。
「うそでしょ?」
ボガードの一撃が比較的軽いと言っても、こちらを吹き飛ばすのに十分な威力がある。
物理限界を突破出来ていない状態では、防御でダメージを防ぐことは出来ても、姿勢を崩したり吹き飛ばされたりするのは防げない。
こいつはそれを前提に、こちらの耐性を崩すのを狙って来ている。防ぎきって意表を付ければ仕留めることは可能。
本体に向けて縮地を発動。ボガードは生み出した分体を置いて逃げると、近くにいた魔物を使って分体を生み出す。
倒すより産み落とす方が速い。そう思っているのだろう。
そして俺を取り囲むように分体を配置し、一斉に襲い掛かる。
……それが狙われたことも知らないで。
「戦い方が雑だねぇ!」
飛び掛かってきた分体は全部で10体。一人でさばける量じゃない。
……だけど、一人じゃないんだよな。
『行きます!』
弥生の音にならない声が響いた。
次の瞬間、背中から伸びた
更に閃いた
そして一体は蹴りを叩き込まれて、今は左手の中にいる。
付喪神・弥生の完全体。
エルダー・ムネヨシ氏が描いたあるべき姿。
鎧だった時の追加武装である
その動きは俺に縛られる事無く、自らの身体の一部だけを収納することにより、外装のみとなった手足すら自在に操る。今、俺たちは16本の手足を有し、各所にちりばめられた魔結晶から
「な、なんだよ、それ!っ!!壁になれ!」
一瞬で分体のほとんどを失い、不利と悟ったボガードが魔物たちに指示を出す。
背後に回ろうとしていた奴らは3人が相手をしてくれている。気にすべきは防御魔術を展開する、目の前の魔物たち。縮地の失敗を狙って密集している。無駄な事を。
「ビットッ!」
32機のビットが一斉に舞い上がり、
空にいる魔物をウィングビットが蹴散らし、続く爆撃機が封魔弾をバラまく。発動するのは
うちのパーティーの大物ハンター・最大火力がタリアなら、俺のコンセプトは一人で統率された大多数を殲滅すること。
圧倒的な燃費の割悪さで足らなくなる魔力も、こうして俺は素手で相手を掴むなんてことも出来るわけで。
「
ボガードの分体から俺へと魔力が流れ込む。干からびるまで吸わせてもらうぜ。
「コノバケモノガッ!」
オークが、コボルトがさらに虫や鳥を模倣した魔物たちが、雄たけびを上げながら突っ込んでくる。
「そっくりそのまま返すぜ!」
そして魔物の集団に突っ込んだ。
……ちなみにこのモード、俺のメインの役割はMPタンクなので、ビット出していないとできることが極端に少ない。何せ蜘蛛タコのほうが射程が長いうえ、両手両足も外装だけで勝手に動くため、睦月、如月もそっちに持っていかれる。たまにたこ足から供給される魔物からMPを吸収するのがメインのお仕事である。
まぁ、術師の完成形は砲台だから良いんだけど。
「
側方から迫ってくる一団を中級魔術で吹き飛ばす。
前方にボガードの本体をとらえた。
「今更逃げるなよ、ボガードッ!」
「想像の100倍厄介だねッ!キミはッ!!あの時全員で殺すべきだった」
「いつの話かなっ!」
「こっちの話しさ!ぐ!?」
複数の砲撃がボガードを取られえる。
ボガードの分裂は、あいつの二つ名通り影をベースにしないと速度が著しく落ちるのだろう。ゴールドスタイン卿は闇払いでやつの能力を抑えたのに、そのメリットを
今この状況なら、あいつは全能力の半分も出せていないだろう。このまま技の関与する余地なく力で押しつぶす!
「……このままじゃ……厳しいねっ!」
ボガードから放たれる魔術を盾で防ぎきる。おそらくアロー系だろうがこちらの防御を抜くには火力が足らない。
最高速はこっちのほうが早くて、縮地による回避・追撃の差は生まれない。周囲の取り巻きの数も一気に減った。これでっ!
ビットが爆撃によって視界を多い、きしむ駆動音を響かせながら回転する
三又の爪先に
「……オイラも……奥の手を使うよ」
そのつぶやきは、いやにはっきりと聞こえた。
甲高い金属音が響いて、
切られた!?弥生の防御を易々と!?
『弥生!』
『っ!大丈夫、ですっ!』
こっちの防御を易々抜けるだけの攻撃手段を、この段階まで隠してたってのかよ。
「キミたちは後ろの3人を防いでよね。倒さなくていい。じゃまさえ入らなければね」
砂塵舞う中、ボガードの声が響き、その姿が現れる。
その手には不釣り合いな一本の大剣が握られていた。
「……ゴブリンの王剣。これを抜くのは100年以上ぶりかな?」
ボガードが静かに語る。
……こけおどしじゃない。放たれている魔力の量が異常だ。普通、魔物を探知したときの魔力量は変化しないはずなのに……これは……エリュマントスやプリニウスを軽く超える。
「……数で押すお前の奥の手が、古式ゆかしい大剣とはな」
「オイラは数でら戦うんじゃないよ。可能性で戦うのさ」
そう言ってボガードが剣を掲げると、上空から忍び寄って居たビットが爆散した。
「さて、この剣を出したからには、少し話に付き合ってもらうよ」
「こっちはその気は無いんだけどな」
「……死合ながらでいいさ」
ボガードが大剣を構えた。……ヤバいね。
「すぐに決着、なんてつまらない事には成らないでくれよ」
ボガードの言葉と共に、奴の姿が掻き消えた。
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書いてなんだけど、完全体触手モードとか魔物の取るべき姿なんよ。
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