第20話 ふたたびのサンワサ
サンワサ村へは
街道が整備されているので、スキルの発動には問題ない。疲労も思ったほどではないな。実際ジョギング程度の間隔で走ってたけど……1時間ジョギングしたらもっと疲れる気がする。何気にスタミナもついているのかね。
「……勇者様?勇者様ですね。どうされたのですか?」
教会を訊ねると、シスター・グースはちょうど昼食の支度を始めた所だった。
「シスター・グース、ご無沙汰してます。スキルの訓練を兼ねてうかがわせていただきました」
簡単に事の経緯を説明する。
スキル定着は知られているし、意図的にやる人は少ないが居なくはない。主に行き過ぎた根気を持つ変態とか。
「そういう事でしたら丁度いいですね。村の樵に取り次ぎますね」
シスターの案内で、サンワサ村で樵のまとめをしている老人のもとへ案内された。50代くらいかな?あごひげが深くガタイの良いお……爺さん?
文明水準的に結婚年齢も老け込むのも早いとはいえ、おっさんかお爺さんかは微妙なところか。
「ちょうど間伐材で壁を広げようとしていたのでありがたい」
サンワサ村はいま、改修作業の真っただ中らしい。作業中の区画に来ると、若い男たちや子供たちが作業をしているのが見えた。
「「「大いなる光の神の聖名において、光の衝撃にて魔を撃ち抜かん。
……作業?
広場の中心に魔物の誘引剤となる1G鉄貨を置いて魔物を呼び寄せ、積んだ土嚢の裏から子供たちが魔術で仕留める。
「
討ち漏らしは強化魔術を使った大人直接狩って行く。
今のMPなら覚えられるはず。あとで教えてもらおう。
集まって来ているのは数の多い1G前後のモンスターだ。たまにゴブリンとか、もう少し強いのも沸くらしいがそんなもの。
防壁があって遠距離から仕留められるならそこまでの脅威にはならない。
「いい機会だから植林場を広げようとしておっての。ふいに襲われることが無いよう、森の魔物を減らしておる」
見通しの悪い原生林より、管理された植林場のほうがずっと安全だから、こういった取り組みはよくされている。
実際の戦闘では発動までの速度の所為でなかなか役に立てづらい詠唱ありの魔術も、こうした固定砲台としてなら十分効果を発揮するな。
「間伐材でここの防壁を長くしようと思っていてな。量が必要だから手伝ってもらえるのは助かる」
現在の広場は村の門に作られた奥行き3メートル、幅10メートルくらいの区画だ。横からの襲撃は材木の壁で防いで入るものの、奥行きがない。おかげで誘引材は10メートル先くらいに放り出してある。どの方向から魔物が来るか絞りづらいから、当然狙いもばらけるし効率も落ちるのだろう。
「キルゾーンにするんですね。どれくらいを予定ですか?」
「入り口を絞って、15メートルといったところかの」
結構大がかりだ。ほかの作業の片手間にやるとなると、かなりの時間が必要だろう。
「わかりました。とにかく雑多な資材を片付けていきますね」
作業現場に来ると、切り倒された原木や枝打ちで出た生木、刈り取られた下草や低木などが積まれていた。
「シスターからの紹介で、ちょいと手伝ってくれることになったワタルだ」
「
最後の一言で『マジか!』『根性あるな!』と声がかかる。やっぱ結構遠い認識なんだな。
「
スキルを使って雑多な素材を収納空間に収めていく。MPが100しかないから、一度にたくさんは運べないな。
伐採直後の材木だと入らないものもある。
MPを見ながら詰め込めるだけ詰めて、村へ戻って適当なところに種類順別に並べる。
あとは、回収して移動して種別ごとに並べての繰り返し。村の広場にはどんどん物が溜まっていく。
生物を取り込めない
村の奥様方に教えてあげたらとても喜ばれた。
「こんくらいで大丈夫か?」
「
「規格もあっから、とりあえずはこれで運んでくんろ」
「わかりました」
俺のMPだと直径10センチちょっとの材を運ぶのが限界だ。
ただ、それ以上大きな材木も枝打ちしたり、少し短く切ってもらったりすれば1本づつなら運ぶことができる。
村から現在の作業場までは片道10分弱。休憩をはさみながら何往復かすると、一通りの材木が片付いた。後はロバや牛などに運ばせるデカいやつが残っているが、俺のMPだと収納できないのでそっちは村人にお任せだ。
「
後はちょうどいいサイズの丸太をひたすら出し入れする。
「兄ちゃんのおかげで助かった……んだが、なんとも難儀な作業だな」
出してはしまい、出してはしまい。
しまってる間に最大MPに制限はかかるものの、特に影響ないから連続で訓練は出来る。ぶっちゃけ見ている方は気持ち悪いだろうな。
指折り数えているけど、回数を忘れそうだ。1回100キロだからな。10回づつ覚えていけば何とか。あとでメモは取らせてもらおう。
スキルを使うたびに体の中で魔力が動くのを感じる。
ちょっと不思議な感じだ。地球では魔力なんてものなかったのに、普通に自分の体になじんでそれを感じることができている。
繰り返すこと数100回。……飽きた。
1回出し入れするのは5~10秒とかそんなもんなんだけど、この単純作業をひたすらはつらい。毎回放り出される丸太に触れるため、ずっとしゃがんだ大勢なのもきつい。
かといって立つと強制スクワットだ。つらい。
「……よし、今日は上がろう」
陽が傾いて、おそらく3時前だろうというころ合いで切り上げることにした。
何も1日でマスターしなくてもいいんだ。
「助かりました、勇者様。……
シスター・グースは村のアドバイザー的なこともしているらしい。
「術者の経験者である程度MPが高い人が良いと思いますよ。MP補正が無いので、
術者が
明日もまた来ます、と伝えてサンワサ村を後にする
1時間ほどで帰りつくと、すでに何人もの人がいつもの場所で列を作っていた。
……これ、まじめに人が増えるようなら、誰かに治療法を教えるか本でも出した方がいいかもしれないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます