第106話 互いの一日を報告した
「おかえりなさい」
ウル・アインス男爵との終えて借家に戻ると、すぐにタリアが迎えてくれた。
「特に何事も無く?」
「出てないし、起こる要素も無いわね。夕食の準備は、頼まれていた通りトマトを軽く茹でて、皮は向いてあるわよ」
「ありがとう。じゃあ、夕飯の準備を始めようか。お二人はどうします?」
今日は付き添いばかりだった二人に聞くと、ご相伴にあずかれるなら、と帰ってきた。
「それじゃあ、時間がかかるので、
そう言うと顔を見合わせた。
目が泳いでいる二人を、タリアがさっさと行って来いと送り出すとしぶしぶ走りに行く。
さて、こっちはまじめに準備だ。
「昨日のハンバーグをトマトソースで。それからコンソメスープを作ろう」
まずスープストックをら弱火で焚いたカマドで程よく温め、次にタリアに作ってもらった鳥ミンチと野菜、卵白の混合物を別の鍋に移し、そこに温めたスープを少しづつ加えながら混ぜる。
少しづつ温めて程よく混ざり、アクが浮いてひき肉が固まり始めたら、表面に浮いたミンチの真ん中に穴をあけて、対流が起こりやすくする。こうすると透明なスープに成るのだとか。
そこまで作業したら後は煮込む。
卵白が不純物を取ってくれるとかあるらしいが、原理はよくわからん。
コンソメを煮ている間に、タリアに皮をむいたトマト、玉ねぎ、にんにくを刻んでもらう。刻み終えたら鍋の監視と交代して、フライパンでひたすら痛めてトマトソースを作る。ローリエを入れると風味が良くなるらしいが、よくわかってはいない。
「話は順調に進んだの?」
「とりあえずはね。国に縛り付けられるのは避ける方向で。だけどどんな手を使ってくるか分からんから注意は必要かな」
横柄な貴族、と言うのは実際に処ほとんどいないが、全くいないわけでもない。
国とガチでもめると、本気で山越えして国外逃亡しなければならなくなるから、そう言うのは避けたい処。
男爵と話したことを簡単に共有。エンチャントアイテムを売り込んだと話したら、ご飯がおいしくなるわねと言われた。飯のために稼いでいるわけではないんだがな。
「タリアの方は?」
「今日は出なかったから。簡単に掃除をして、後は
精霊魔術を作るためには、精霊と対話するのが一番だ。
「この間は余裕が無かった音の精霊、光の精霊、土の精霊。あと、ワタルが砂にした石塊から砂の精霊や、水瓶から水の精霊とも話したわ」
庭に置いておいた石は、昨日の夕方に錬金スキルで粉にしておいてある。
あれから砂の精霊が出たか。砂と言うより粉だと思うが。
「結構いろいろだね」
「ええ。水の精霊に頼んでワインを冷やせないかと思ったんだけど、ちょっと難しそうね。冷やすのは水の精霊の特性じゃないみたい」
発想がどうかと思う。
「冷やすなら氷の精霊かなぁ。水を生み出すなら泉の精霊。水の精霊は……湿度を上げる、渇きをいやす、高温を冷ますとか、そんな感じかなぁ。ああ、後は溺れさせる」
「凶悪だけど、それ魔物に効果あるの?」
「……HPダメージと言う意味ではありそうだけど」
あいつら純粋な意味での窒息死するのかな?
生きるのに呼吸は必要か?
「精霊が存在する基準がいまいちわからないんだけど、ワタルは分かる?」
「ん、集合知では自然物とその概念って言われてるね。人工物、例えば武器や防具、道具、ほかにも家具や建物なんかの精霊も居ない」
そっちにはどうやら神が宿るらしい。
タリアは混乱しそうなので説明は省く。
「自然物って事は、例えば獣の精霊とか、もっと言えば人の精霊とかも居るのかしら?」
「ん~……居るかいないかは分からない。呼びかけには答えてくれないから、いないのではって言われている。その境界はなんだろうね。自我の有無とかそう言ったものかな」
「ああ、確かに人は自分で考えるけど、大地も風もそう言うのなさそうだものね」
「集合知は神様の知識を参照するわけじゃ無いから、推測の域を出ないけどね。検証をしてみた人はいるみたい。ちなみに
世界の根幹にかかわる情報は、基本的に教えてくれないらしい。
「精霊って、内包する概念が大きいほど大きな力が振るえるのよね?」
「そう言われている」
「世界の精霊に呼びかけたら応えてくれるかしら?」
「それはもう神なのでは?」
「……なるほど。じゃあ、魔物の精霊は?」
「あれはモノだから多分居ないね」
一応、あんまり変なものを呼び出さないようにと言ってあるのでこんな話をしている。
精霊についてはイメージは分かるけど、実際何かはよくわからん。
森は植物の集合で概念。炎や風は燃焼や流動といった事象。水は物体。
光は光子だとすると、闇はなんだ?光が無い状態?人に見えないだけって事を考えると、闇と言う事象の精霊か?
とりとめが無さ過ぎる。
「魔物がモノって感覚は良くわからないんだけど、例えば死の精霊を呼び出しても、魔物は倒せないかしら?」
「ああ、魔物が死ぬかは微妙だな。あと、死の精霊ってどうやって呼び出すの?」
「鶏でも絞めれば出てくるんじゃない?飯にもなるし」
「……さすがに生け贄の鶏を連れ歩く冒険者はヤダヨ」
「言っててなんだけど私もよ。どうしよう、だいぶワタルに染まって来てる気がするわ」
食い物絡みは素の方だろう。
「その手の話なら、生命の精霊、命の精霊みたいなのを呼んでみればいいんじゃないかな」
森の精霊の循環のように、命の精霊も居れば似たような動作をするだろう。
「命の精霊ね。確かにそれならどこにでもいるものね」
「そもそも呼べるかも分からないけどね。……精霊魔術による回復魔法は……エルフの禁呪に成ってる」
「……触らないほうが良さそうね」
「精霊使いの方だから、精霊魔術でどうにかなるとも思えないけど……注意が必要かな。理由は良く分からない。恐ろしいことに成るらしいけど、具体例がないな。病になるとか言われているけど、検証されてない感じ」
集合知に抜けがありそうだな。
エルフの寿命は2~300年と言われているけど、それより長く生きている、俗にハイエルフと言われる種族が居るの分かる。ただ、それらのモノと思われる知識がなさそう。
理由が分からないから、そこは神様に聞いてみよう。
「精霊魔術を作るのも難しいわね」
「そうだね。基本的に知識が必要だし、想像力も必要。先人からの継承と検証が重要になって来るから、人間の間で流行らなかったのも分かる。俺も手伝うから、時間をかけて試行錯誤だね。さて、こんなもんかな」
ソースが煮込まれたので、ハンバーグを火にかけ、タリアに見てもらっている間にコンソメを仕上げる。
綺麗な布でこすと、黄金色のスープができた。うむ、ぼちぼち。うまく作ればもうちょっと透明になるかなぁ。
一通り準備を終えた所で、ちょうど二人が帰って来る。
今日の夕飯はトマトソースのハンバーグに、バジルを散らしたコンソメスープ。
どちらも好評だった。ハンバーグはトマトソースがあったほうが良いとのこと。今日も今日とてワインが良く空いた。
しかし料理は時間がかかるね。効率が悪いしレシピを起こして誰か雇わないとダメかなぁ。
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