第181話 海の異変と商隊の行方

「このところ、海の魔物たちの動きが活性化している」


調査のためにギルドを回っていると、冒険者ギルドでそんな話を聴いた。

海の魔物……海洋動植物や、遥か昔に沈んだ船の宝などをベースにして生み出された魔物たちだ。


「どこの海域ですか?」


「近海ではどこもだな。この群島全域でその傾向が高い。幸いにして近海では魚人、人魚たちが対処できるレベルだが、大陸とこの島々を結ぶ航路でも襲撃の頻度が上がってい。今月は中型輸送船2隻が沈められた」


年間の被害は10隻前後のはずなので、偏りがあるにせよ被害の頻度が上がっているな。


「船乗りたちの間で、深い所を通るルートを控えるべきではないか、と言う話が出ている。ライリーや、その先のペローマに渡るつもりなら早めに船を確保したほうが良いな」


「他にも船が出ている航路は有りますよね?」


「他の航路は分からんが、船乗りたちが同じことを考えているなら大分遠回りになる。魔物が活発に動き出した時、危険なのは魚人や人魚たちが潜れない深い海だ。ここからだと一回、東のウリュウを経由して東へ回らなければならない」


「まだ船は動いているんですよね?」


「ああ、すぐに止まるということは無いと思うが、もう1~2隻大きな被害が出るようなら、狩りが終わるまでは幾つかの航路が運休となるだろう」


「原因は分かって居るのですか?」


「いや、さっぱりだ」


説明してくれた親切な担当官は、魚人・人魚向けの調査依頼が出ていることも教えてくれた。

海中の魔物は手に負えないからな。スルーだろう。


「ところで、どのくらい滞在するのかね?クロノス最新のエンチャント装備と言うのをもう少し聞きたいのだが」


「新人育成頑張ってくださいね」


ヤイーズの冒険者ギルドに、MP回復向上やステータス向上の腕輪などを少し卸して路銀を稼いだ。

別段金に困っているわけじゃ無いが、クロノスだけにアイテムを撒いても目的から外れる。

あちらには開発トップランナーの方々がそろっているはずだし、輸出された時の価値は下げて置いて良いだろう。


東群島の国家には封魔弾の卸売りは見送り中。

水中では役に立たない、まきこみで酷いことに成るという未来が見えるので、一応大事を取っておく。


港で漁師たちから話を聴いていたタリアを回収し、再度街の入場者を管理している詰所へ。

バーバラさんとアーニャが、ここ一週間ほどのリストをあさってくれているはずだ。


「お邪魔します~」


「ん……ああ、お連れさんなら奥だよ」


「ありがとうございます」


休憩していたらしいバードマンの門番に挨拶して、詰め所の奥の部屋へ。

入るとバーバラさんが帳簿とにらめっこしていた。


「おつかれさま」


「あ、ワタルさん。いかがでしたか?」


「冒険者ギルドは魔物の情報くらいです」


「港の方もダメね。個人で輸送船を出す人は居なそうよ」


「アーニャは?」


「ミミズの踊りとにらめっこするくらいなら、門を見てた方がまだ有意義って出ていきました。一理ある意見だとは思います」


「なるほど。読めなかったか」


たしかに書き文字も大陸と比較すると大分癖がある。


「やはりそれらしい組み合わせはありませんでしたか?」


昨日の夕方は直近2日分くらいを流し見していた。

今日は他に手がかりが無いかと、商隊がハリスを出たと思われる1週間ちょっと前から見返してもらっている。


「それらしい集団は見られませんね。想起リメンバーを使っているので、おそらく間違いないかと」


「そうですか……少なくともこの街に入って居ないですかね」


「リストを見る限りはそうですね。……一つ、気に成る人物が居るのですが確認しますか?」


「どんな人です?」


「この方です。職業は強襲兵。4日前の午前中に入って、午後に出発していました。リストの位置から大勢時間はそう長くありません」


「気になった理由はそこ?」


「はい。強襲兵は斥候系2次職ですからね。ほかに同じ記録を残している人は居ませんし、気になります」


「ん~……この名前、ハリスのリストにあったな」


「本当ですか?」


「うん。追いかけてる商人と思われる奴らのすぐそばだ」


想起リメンバーを使うと、注視した覚えのある情報なら楽に引っ張り出せる。


「……俺たち追ってるの商隊なはずだよね?」


「そうなんですよね」


「さすがに気にしすぎだと思うんだけど」


……斥候系職が一人で先行して街の偵察してた、なんてことは無い気がするんだけどなぁ。

それはもう軍隊なんよ。


「……ちょっと考えていたのですが、何らかの理由があってウェイン少年を購入したと考えた場合、単なる商人でない事は考えられないでしょうか?」


「スキルや素質、もしくは種族目当てって事?」


「はい。そうです」


珍しいスキル持ち、または特殊能力のある種族の場合、国外からも勧誘されたり狙われたりすることが無いとは言えない。

ウォールまで追跡していた商人が、そこで国境越えの関係者と合流してタマットに入国した。ウェインは何か重要な資質を秘めた孤児で、それが狙われた?


「……漫画やラノベじゃないんだから」


「……らの?」


「確かにウェインは種族不明だったけど……可能性はあるの?」


「数パーセントは。国を跨いだ誘拐や強引な勧誘が、年に1件くらいは発生しているらしいです」


「……例えば、ウェインが彼らにとって重要人物だと考えると……この港街に寄らない可能性は……あるか?」


「ありますか?」


「ついさっき、ギルドで航路の魔物の襲撃が増えてるって聞いた。船が沈んでるから、海路を閉鎖するかもって」


「……クロノスだと、上位貴族や王族なら時間を気にせず安全なルートを取る可能性はあります」


「クーロンでもそんなもんだと思うよ」


「やっぱりないですかね?」


「……断言はできない。調べてみるか。バーバラさん、ここでアーニャと待ってもらえますか?」


「構いませんが、どう動きます?」


「東側にウリュウという街があるのですが、そこから群島を東に行くルートを取れる船が出ています。そのルートで複数の国を経由しても南に行ける。そっちを回ってこれまでと同じ方法を取るなら、きっと普段使われていない宿営地を使うことに成ってます。その形跡があるかを調べてきます。タリア、いけるよね」


「大丈夫よ」


「では、私たちはこの街で、ウェイン少年が来ないかを確認ですね」


「お願いします。見つけても接触しない様に。冒険者ギルドで小間使いを雇ってください。見かけた場合、ギルドで連絡を残して追跡するって事で」


「わかりました」


アーニャを門の中で捕まえて、バーバラさんと合流して街で待つように伝える。


「ウリュウってどれくらい遠いんだ?」


「ん~……多分、最速でメルカバ―走らせれば今日中に着く。アルタイルさんに協力してもらう」


質量軽減マスディクリースをメルカバ―のパーツにかけ続けることで、移動速度を倍以上にあげることが出来る。

MPの問題があって常時使うのは難しいけど、今日はまだ俺のMPも残っているし行けるはずだ。


街の外に出て、門から離れた所で軽量版メルカバ―を取り出して組み立てる。

アルタイルさんのスキルを当てにして、一つ一つのパーツが100キロ以下に収まるよう、分割の仕方を変えてある。組み立ての手間が増えているが、亡者たちに手伝ってもらうので割とサクサク進む。


「タリア、アルタイルさん、タラゼドさん、お願いします。ちょっと運転荒いですから気を付けてくださいね」


メンバーはタリアとアルタイルさんのほかに、斥候系2次職の一つである冒険家の亡者・タラゼドさん。

周囲の警戒や、商隊の痕跡を探すので今回は出ずっぱりに成ってもらうことにした。

釜に熱が入り、装軌車両が動き出す。アクセルを全開に踏み込むと、思ったより一気に加速する。


「っ!これは揺れますね」


「いい機械メカだ!飛ぶところもぜひ見てみたいな!」


「後部座席なしで飛ぶのはちょっと危ないですよ。舌をかまない様に!」


タマットの細い街道を、メルカバ―が軽快に走る。

ちょっと行き交う旅人を轢きそうになったりしたものの、大きく詰まることも無く……。


「……使われた痕跡があるな」


街を出て3時間後。ハリスとウリュウを結ぶ街道の普段使われない宿営地で、商隊の痕跡を見つけたのだった。

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