第45話 アインスの様子を確かめた

 アインスから北東に5キロの地点。

 小高い丘の上から鷹の目ホークアイを使って平原を見渡すと、街の城壁に群がる魔物たちの様子が見て取れた。


「3部隊での波状攻撃、その後ろに陣取る本隊……かなり統率されているな」


 魔物たちは部隊を入れ替えながら城壁に向かって波状攻撃を掛けている。

 それに対して街側は魔術と弓矢で迎撃をしている状態だ。なだれ込まれていない所からすると、防衛機能は生きているらしい。


 すでに壁が壊されているところがいくつか見えるが、そこに魔物が集まらない所を見ると小結界キャンプの防壁が機能しているのだろう。

 継続時間は8時間。入れ替わりの隙をつかれなければ維持は出来るだろうが……防戦はつらいな。


「敵の軍勢は200Gクラスが主流か? こっからじゃさすがに見えんな」


 ちまちま攻めているところを見ると、バノッサさんの乱獲で魔物が減ったのは事実なのだろう。

 魔物側の戦術は、継続攻撃をしながら街の攻撃力、防御力を削いでいき、崩れた所で一気に本隊を押し込むといったところか。


 城壁への攻撃をずっと継続してるって事は、防御力の高いドロップ回収部隊攻撃隊と、回収されたドロップから魔物を生み出すサモナーが本隊に居るな。

 本隊のサモナーを叩くために打って出たいところだけれど、それができないってのは……いや、街の中にも侵入した魔物が居るのか。煙が城壁の中からも上がっている。


 ロジャースさん達の話からすると、西側にも別動隊が居るはずだが……そちらから破られたわけじゃないな。大崩れにはなってない。

 そうすると魔物たちのよく取る戦術は……屍食いの大ガラス、大蟷螂キラーマンティス辺りの飛行部隊をけしかけたのだろう。

 厄介ではあるが、100Gクラスの魔物。そっちは街の方で対処できたと見るべきだ。


「さて……どうしたものか」


 こっからは見えないが、アインスの街はおそらく東と西から挟撃を受けている状態だろう。

 魔物側はドロップを回収できれば兵力はほぼ無限に生産できるから、それを生かして持久戦。魔物は食料も水も必要としないから持久戦は大得意だ。

 街側は城壁を盾に防衛線で手一杯。城壁の外で倒した魔物のドロップを回収したいけど、それができない状態で矢や弾と言った消耗品を削られている。


「少なく見積もっても敵は東側だけで2000。いくら一体一体の価値が低くても、1次職や2次職が相手にするには数が多すぎるな」


 広域攻撃魔術を持つ上位魔術師が居ればまた変わって来るが、アインスには居ないのだろう。

 襲撃の連絡を受けてクロノス王国軍が動いたとしても、アインスまでは数日かかるだろう。その間の被害は甚大だ。


 がら空きな後ろから襲撃してやりたいところだけれど、ステータスが高いだけの俺じゃさすがに無理がある。

 街と連絡を取ろうにも、これ以上近づけば敵の索敵に引っかかるから動きようがないな。


「当初の目的は果たしたし、戻ってグローブさん達との合流を目指すか……んん?動きがあるな」


 本隊にから離れた10体ほどの魔物の群れが、街を迂回するように移動していくのが見える。

 丘の陰に入ってしまって見通せないが……北か西に向かったか?


 アインスの街に地上水路は無いから、侵入を狙うなら東西南北に設置された門が妥当だ。それ以外の城壁は厚過ぎてサウザント級の魔物の攻撃でもびくともしない。

 西側にどれだけ魔物が居るか不明だが、魔物の軍は完全包囲するには兵力が少ないのだろう。となると、あいつらは伝令……は群体・群棲持ちの魔物が居れば事足りるから、南北の警戒要因か。


「……つぶせるか?」


 行軍マーチを使った俺の全力疾走について来れる魔物はそう居ない。

 南北を回っている魔物の撃破、ドロップの回収。敵の撹乱もできるし、経験値も稼げる。一人なら隠す必要なく全力で戦える。MPもボルツマンさんに譲ってもらったMP回復ポーションで補ったから足りてる。


 それに、運が良ければ北側からなら街の誰かと話せるところまで近づけるかもしれない。

 幸いにして、異能のおかげか20キロ近く全力疾走しても体力的に問題は無い。


「それじゃ、一仕事やりますか」


 そうと決まれば早い所追いかけよう。


 アインスから5キロほど離れた所を北に進む。このあたりは既に刈り取りの終わった農地で見晴らしもいい。

 敵の集団とは2キロほどの距離。鷹の目ホークアイを使わなけりゃ見失ってしまう。


 凪の平原も完全な平たんではなく、ところどころに丘がある。

 低い所には用水路や、深さがくるぶしまで無い程度の川が流れていて、これが一帯を潤している。そう言ったところには背の高い木や草が生えるもので、身を隠すのには最適だ。


 たまに平原に生息する魔物が襲ってくるけれど、初心者ノービスのころにも倒せた雑魚ばかり。集団をつくる知能も無い1G級など相手に成らない。


「魔物は街から3キロ以上離れた所を移動か……」


 弓や攻撃魔術なら1キロも離れればまず届かないが、索敵魔術には引っかかる。

 魔力探信マナ・サーチは距離がINTに比例するから長距離探索向きではないが、俺も使っている鷹の目ホークアイや、視覚・聴覚の強化系スキルを回避するなら妥当なところだ。


 本隊から十分離れたのを確認して、敵の部隊と距離を詰める。

 魔力探信マナ・サーチの範囲に入れば敵の能力と数が正確に把握できるんだが……こっちが見つからないかは運だな。


 この世界の住人は普通にスキル無しでも地球のマサイ族くらいの視力があったりする。

 魔物の能力だってそれ基準だ。異能のおかげで多分視力も上がっているのだが、おそらく相手のほうが上だろう。


「……あと1キロくらい……うん。これ以上は無理だな」


 視界が開けすぎていて、出ていったら確実に見つかる。

 敵の数は10体ほど。サウザント級は居ないと思うが、アレがもし1000Gクラスの集団だったら普通に死ぬ。


 ……不意打ちがだめならおびき寄せるか。

 幸いにして、目の前の部隊より大きな集団は近くには居ない。雑魚モンスターはちらほらやって来るが、大した問題にはならない。部隊全体がこっちに向かってくるようならさっさと逃げる。

 分裂するようなら魔力探信マナ・サーチで相手の能力を探って、行けそうなら撃破。ダメそうなら行軍で全力逃亡。それで行こう。


「すぅ、はぁ、すぅ、はぁ……うわぁぁぁぁぁぁぁ!畜生!!こっちに来るな!!」


 正面の部隊に届くよう、全力で悲鳴を上げる。

 普通は1キロも声が届いたりしないが、周囲を警戒している軍団なら気づくだろう。むしろ動きが無ければもう少し近づくことができるが……。


「よし、動いた」


 鷹の目ホークアイから見える視界で、魔物たちがざわめきだしたのが見て取れる。

 しばらくすると、一団は分かれて、半分程度の魔物がこっちに向かってくるのが見て取れた。成功だ。

 残りはゆっくりとだが、先に進むらしい。……内容まで聞こえていて、理解できる知能もあるか?引っかかってくれたのなら助かるな。


 敵が視認できるようになったところで、辺りを確認してから鷹の目ホークアイを切る。

 鷹の目はさすがにナッツの残りが減ってきたな。節約したほうが良いかもしれん。


 さらに相手の一団が近づいてきたところで、ナッツを使って魔力探信マナ・サーチを発動。

 ……引っかかった!この魔力反応だと100Gから200Gの間ってところか。見た目からゴブリン3にオーク1、それに死猟犬デス・ハウンドが1か。調教師テイマータイプの魔物が居るな。弓兵アーチャータイプは居ないように見える。多分何とかなるか。


 残り200メートルでこちらの隠れている草場と言ったところで、死猟犬デス・ハウンドが走り出した。

 噛みついたら死ぬまで話さない死の猟犬。バイタルゾーンが人型より狭く、初心者ノービスには恐れられているけど……まぁ、問題ない。


「畜生!見つかった!」


 わざと叫びを上げて敵を引き寄せる。

 死猟犬デス・ハウンドが早いな。ゴブリンが走り出した。オークが少し遅れているか。


収納空間インベントリ!」


 しまっておいたヒーターシールドと魔法剣を取り出して構える。

 うん。動きは速いが、見切れないほどじゃない。


「グルルッ!ガウッ!!」


 飛び掛かって来る死猟犬デス・ハウンドにシールドバッシュ。剣士や盾戦士のスキルとしてもあるが、動きだけならスキル無しでもできる。


「ぎゃうんっ!」


 跳ね飛ばされた犬っころが地面を転がる。

 手加減したから一撃で死んだりはしない。それで警戒されると困る。


「グルルルルッ!」


「ゲゲギャッ!!」


 先にゴブリンたちが来たか。よしよし、いい間合いだ。

 短剣を持っているのがスカウト、テイマーは杖、それにもう一匹は……メリケン、格闘タイプか。オークは剣士だな。


「ガッ!」


「もういいよ」


 飛び込んできた死猟犬デス・ハウンドを両断。そのままゴブリンたちの間合いに踏み込む。


「ゲゲルッ!?」「ギャ!」「ゲギャ!」


 一斉に叫びを上げるゴブリンたち。

 たかが1~2メートルの範囲にまとまったのがそもそもの失策だぜ?


 振り下ろした剣がゴブリン・スカウトを頭から胴体まで真っ二つにする。

 テイマーの杖は盾で防ぎ、同時に剣を収納空間インベントリにしまう。そして、飛び込んでくるファイタータイプに新しく取り出した剣を突き立てた。これで2匹。


 テイマーの上は盾に込められた魔術によって弾かれている。

 何とか持ち直そうとするが、力任せの横凪で杖ごと上半身と下半身が泣き別れ。これでゴブリンは始末した。


「ぐぉぉぉぁぁぁぁ!」


 オーク剣士は叫びを上げ、剣を振り上げて突っ込んでくる。それも遅い!

 持っていた剣を逆手にして投げつけると同時に、一度閉まった魔法剣を取り出す。振りぬいた時の力が手に伝わったが、気にするほどでもない。


「ここまでご苦労様でした!」


 どてっぱらに剣が突き刺さっても向かってくるオークが、自らの剣を振り下ろすよりさらに早く。

 踏み込んで横凪に振るった剣は、オークの体の三分の二を切り裂いて、そのまま背後へと走り抜けた。

 一瞬遅れて、最後の一匹がドロップへと変わる。


『レベルが1上がった。HPが4上がった。MPが3上がった。INTが4上がった。AGEが1上がった。スキル:魔法使いの目ウィザード・アイを習得した』


 天啓からのアナウンスが流れた。


 ……ふぅ。まずは半分っと。サクサク倒していきましょ。

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