第380話 開拓村の整備を始めた

「おはようございます。昨晩はゆっくり休めましたか」


「……本来なら我々が問いかけるべき質問なのでしょう。申し訳ない」


二日酔いの所為か顔色の悪いペール村長に解毒キュア・ポイズンをかけて体調を戻す。

うちのメンバーはさすがにもう二日酔いでダウンするものは居ないのだが、開拓団は上手い飯と酒にたがが外れたようで……。


「さて、気を取り直してさっさと働きましょう。当面やらなければ成らない作業がいくつかあります」


昨日の会議の後でまとめた作業項目は三つ。


1.森林部に食い込んだ城壁周辺の木々の伐採

2.飲料水、農業用水確保のための浄水設備の製作

3.汚水などを処理する下水処理施設の建設


一つ目の伐採作業は、いつも通り魔物を一早く発見するための広場の作成だ。

今の城壁の前は堀に成っているけれど、その先は深い森であり城壁から森の魔物を撃退するのはまず不可能。


「木々の伐採は指揮をする領兵と冒険者から人手を出して実施してください。伐採のための斧や鉈は、品質の良い物を持ち込んであります」


ここに来る前、ボホール伯爵に開拓村の状況を聞いた俺達はあらかじめ農具を仕入れてきている。

基本的には市販品に魔鉄を混ぜて切れ味強化を永続付与した安価品だが、無加工とは比べ物に成らない切れ味と耐久度が出せる。

更にバーバラさんに頼んで作ってもらった剣先スコップも数本。これもエンチャントを施してあり、地面を掘り返すのに使い勝手が良いはずだ。まだこの世界では地面を掘り返すのは鋤がメインだから、効率は上がるはず。


「飲料水の確保ですが、これは温泉を浄水して利用可能な水に変えます」


錬金術で作成可能なマジックアイテムの中に、水を浄化するものがある。

水から有害物質を取り除く魔術回路だが、応用すれば温泉水を浄水と過剰なミネラルに分けられるだろう。ここの温水は典型的な硫黄泉で、不要なのは硫黄化合物を始めとする比較的希少な元素なので、浄化後の不純物も利用価値がある。

湯の華でも作って、美容と健康に良いと広めてみるかな。


「設備はバーバラさん、設計をお願いします。最終的には村全域に水を引きたいので、北側の一番高い所に浄水場を作る形で設備ごと設計をお願いします」


「はい。……どれくらいの浄水設備が必要ですか?」


「……1日に使う浄水量を1人10リットル。塀のサイズから1000人が暮らすと考えた場合、1万リットルなので、1時間で必要な量は400リットルちょっと……でも、制作の際は時間当たりの計測は面倒ですね。なら、1分で10リットルの浄水が出来ることを目指してください」


それで1日1万4千4百リットル。温泉は別にあるし、規模の小さな農業と畜産を行っても問題無い量だろう。


「それだと錬金窯が必要ですね。考えてみます」


バーバラさんは機械も設計できるようになっているから、うまく組み合わせて形にしてくれるだろう。


「浄水場の建設は領兵団と村人で協力してお願いします」


領兵の仕事は開拓で、この場合土建屋に近い。

一部の村人力を併せれば、バーバラさんの手助けになるだろう。


「わかりました。詳細はドッド嬢から支持をお願いします」


バーバラさんは王国騎士扱いだから、領兵の指揮官としても申し分ない。


「俺は街の最も南、低くなっている位置に汚水・汚泥の処理施設を作ります」


これはぶっちゃけていうと糞尿の廃棄施設である。


「まとめて森へ捨てるのでも良いのでは?」


「量が増えた場合、廃棄した糞尿で地下水源が汚染される可能性があります。清潔クリーンを使ってもイタチごっこになるだけなので、適切に処理できる施設をあらかじめ作っておきたいのです」


清潔クリーンは基本的に汚染物質をどこかに転送する魔術だ。それによって人に有害な汚れは除外されるが、じゃあどこに行くかと言ったら……まぁ、地中とか人の目の付かない所に飛ばされているらしい。

なので個人で使う分には問題無いのだけれど、大規模に使うと土壌汚染を引き起こす。はっきり言って意味がない。


「こちらも試作が必要になるので、これは私が実施します。我々が持ち込んだ食料と今回の伐採で出来る燃料、それに浄水場があれば、次の帰還は半数でも回る様になります。頑張っていきましょう」


………………。


…………。


……。


「それで、なんで私が糞処理施設の建築補助なのよ」


飛行船場のさらに南まで着いてきたタリアは、二人きりに成って口を尖らせた。


「下水処理場ね。名前を選んで」


糞処理施設……なんか別のものを暗に指してる感じがしてさらにいやだ。


「バノッサさんとコゴロウが意気揚々と逃げて魔物狩りに行った。アーニャは最近鼻が良すぎてこの手の仕事は辛そうだから伐採に回すと、他に人手が居ない」


「……二人の居場所見つけられるわよ?」


「どっちにしろバノッサさんには見せられない術がありそうだし、生産系に全く興味のないコゴロウは役に立たない。使い始めなきゃ臭くないから」


文句は言うものの、俺に一人でやれとは言わない。

まぁ、一人でやってあかん物が出来上がる場合も多々あるので、それを理解してのことだ。要はツッコミ役だね。


「人に任せて望まぬ形に成ったら嫌だし、しっかり作っておきましょ。一般的な下水処理は肥溜めだよね」


「……農村部はそうだけど、正直ハエが湧くから嫌よ。穴掘って雨が被らないように屋根だけ着けて放置だから、においも気になるし……私は別にこの村を生まれ故郷の寒村にしたいわけじゃないわ」


「同感だね。虫と臭い対策は当然する」


都市部では錬金術による処理も行われているけれど、清潔クリーンを使わないとなると……あまり効果的な物がないな。

乾燥焼却という手もあるが、この地域だと人糞も貴重な肥料だろうから、供給しないと住人が勝手に肥やしを作り始める可能性がある。


「加熱と発酵は促進するとして逐次処理する方法が思いつかないな」


「一定温度で発行が完了すれば、においも虫も落ち着くから……密閉複数タンクを作って処理と発酵をするのは良いかも知れないけど……出し入れの問題があるわね。それに燃える空気ガスが発生するんでしょう?」


タリアは今は神凪に成っていて、発酵・腐敗知識や毒・病原知識などを参照できる。アイデア出しに選んで正解だ。


「投入は手動にして仕事を生むかな。水分は除湿で除去できるからエンチャントか錬金。除湿で生まれた水は正常な清浄なはずだから下流に流す。発生したガスは燃すことにして、発行した泥土はポンプか何かで押し出せる様にだけするか。地下に立てれば投入時のにおいも大丈夫だろうし」


「地下だとガスが怖いわ。ついうっかりで吹き飛ぶのは嫌よ」


「地上でも大差ないと思うけど……多少はリスクは低い。けど、風向きによっては臭いがね」


「消臭の魔術で何とか」


「あれも清潔クリーンと同じだから。臭いとか空気だけを阻める結界みたいなのがあればよかったんだけど」


残念ながらそんな便利な魔術は無い。


「いつも通り試作して、運用して問題無かったら施設を地下化するでもいいじゃない。どうせ作った後で気づかなかったことがあるわよ」


使い始めたら近寄りたくないんだが、手直ししなきゃダメかな?


「……改修は人を雇うことを考えたいけど……皮だけ作っちゃうか。念動力で運ぶの手伝って」


土人形クレイドール変成トランスミュートを駆使して石のタンクを作成していく。

適当に作った割にはぼちぼち使える処理施設が出来上がるのだが、使用済み温泉水の処理が出来ず、結局大規模な地下施設を作り直すのは、それからしばらくしてからの事であった。


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今回は開拓に付きまとう与太話回でした。

仕事の関係で今週は出社率が高く、終末まで不定期の投稿に成りそうです。


現在5話まで公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!

アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

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