第330話 闇夜に飛ぶ者たち

□ホクレン西部・用水地


西の戦場での治療を終えた俺は、飛行フライで飛ぶバノッサさんに背負われて空の上に居た。

暗闇の中、バノッサさんに背負われた状態で山陸亀の1体を目指し運河の上を飛んでいる最中だ。


『……まさかお前さんがああいうキレかたをするとはな』


『さすがにアレは許容できません』


患者たちの応急処置をして、見つけた37人はギリギリで一命をとりとめる事が出来た。

全員を安全地帯である街中に転送し、動けない患者からMPを回収したところで、軍のお偉いさんがやってきた。副領主についていた人では無く、あの門を任されていた大隊長らしい。


「うちの商品を自爆装備として使った奴に、必ず落とし前はつけさせてやる」


やってきた3人を即座に叩きのめし即座に癒した後、上官にそう伝えろと言って追い返した。

あの発想が誰の出所なのかもハオランに調査してもらわないと。……ぶちのめした大隊長が彼の派閥でない事を祈ろう。


それはさておき。

目下の問題は山陸亀だ。分水地の端で何とか足留めしている状態。

あの馬鹿でかい亀の周りを土櫓で囲んで、小結果を代わる代わる貼って何とか動きを抑えているが、流石に丸見えなので魔物から波状攻撃を受けている。

たまに上がる火柱や閃く雷光は、おそらく防衛側の反撃だろう。


「それでどうやって倒すのであるか?」


俺と同じくバノッサさんに抱えられたコゴロウが問いかける。

俺とコゴロウはアルタイルさんの質量軽減で自重を減らして運んでもらい、それ以外の亡者は収納空間インベントリの中だ。


「背中に取り付いて魔素吸収マナ・ドレインでMPを吸いながら、ひたすら泥沼マイァで沈めます。それでだめなら高火力魔術を打ち込み続けます」


生物タイプの魔物を倒すには、HPを削り切る方法と、致命傷部位破壊……俗にいうクリティカルの二通りの戦法があるが、あのサイズだとクリティカルは無理だろう。

魔物の身体は致命傷でなければHPがある限り形は再生していく。つまり時間をかけて首を落とす、みたいな戦法は取りづらい。石斬りがいくら鋭くても、斬ってる間に俺が魔物に埋まる。


「そんなわけで、それ以外の人は背中の上で露払いですね。きっとそれなりの数の魔物が乗っているでしょう」


「また無茶なことを考えるな」


「飛行が使える賢者が居るなら、あんなデカ物は取りついてしまうのが一番早いです」


影渡りシャドウ・トリップ影渡しシャドウ・デリヴァーでも出来なくはないが、甲羅の上を観測しようとするとスキルが足らない。鷹の目ホークアイの高度もさすがにアレの全体を見下ろせるほど高くない。


「さて、そろそろ射程だが?」


生命探査ライフ・サーチで敵の周囲に人がいない事は分かっています。このまま一気に攻め込みましょう。行きますよ、影の暴風シャドウ・ストーム!」


亀の背中に向けて魔術を放つ。巻き上がった闇が、背中に隠れていた魔物たちを吹き飛ばしていく。


「それじゃあ俺も!火炎暴風ファイア・ストーム!」


そこに合わせてバノッサさんの魔術が飛ぶ。

土櫓を巻き込まないように範囲を絞っているが、あの亀くらいならすっぽり覆うくらいの範囲はある。これだけでそれなりの数の魔物が落とせたはず。


「ちっ、やはり防御するな」


魔術無効化ディスペルで防御を突破っして取りつきましょう。突っ込んでください!」


「了解!」


周囲に展開された障壁を抜けて、亀の甲羅の上に降り立つ。

背中の上は大きな岩が転がる斜度のあるフィールド。普通に立っているのもなかなかに辛いが……。


斬撃スラッシュ!」


手近な甲羅の一部を切り落として平たくする。軽い足場があれば後は何とかなるだろう。


『コゴロウも同じ方法で!後は寄ってくる魔物をよろしく!』


魔力探信マナ・サーチによると、背中の上に1000Gぐらいの奴が20匹くらいは乗ってる。

それから地面に取り巻きも見えるし、1万G級も範囲内に3体ヒットする。昼に見かけたモドキじゃない奴だ。


『亀への攻撃はこっちでやるので、魔物を近づけないようにお願いします。ハオラン!転送するから下の指揮官と交渉よろしく!』


『今回私は損な役割ばかりですねぇ』


さぁ、準備完了。バノッサさんも定位置についた。それじゃあ、始めますか。


魔素吸収マナ・ドレイン!……よし!やっぱりこいつのINTは大したことないな!」


MPが一気に回復していく。魔素吸収マナ・ドレインは相手とのINT差がある程回復量が増える。

この量なら何も問題ない。


「不動なる大地の神のその身に、変幻自在なる水の神の力を宿し、二つは均等に混ざり合いてすべてを飲み込む!ここに顕現するは、底見えぬ悪路!泥沼マイァ!」


俺とバノッサさんの魔術によって、山陸亀の前足が沈んでいく。

揺れるっ!でも甲羅にぶっ挿した太刀がこの身体を支えてくれる。


ウォールで相手をしたときは複数人の術師で何とか生み出した底なし沼。

亀からのMPで作ることによって、今は立った二人で実現できる。


「グォォォォッ!」


足場が傾いたことに気づいた亀が暴れ始める。しかし遅い。動きが遅い亀では、泥沼から抜けるだけの速度は得られない。

取りついてからわずか1分足らずで、亀の身体が地面に伏す。こうなればもう動けない。


「んじゃ、HPも削ってみるか。炎の守りフレイム・ガード……灰塵へ還す手アッシュ・ハンド!」


「あっつっ!ちょ!もっと離れたところでやって!」


「あ、わりぃ」


バノッサさんから飛んできた熱風で焼けるっ!

熱で亀の甲羅が溶解し、赤くドロドロになったその中にバノッサさんが親指を立てながら沈んでいく。……親指は嘘だけど、あれ帰ってこれるのかな?


……気にするだけ無駄だな。こっちも亀のHPを削ろう。


多重詠唱マルチキャスト


「幽世より解き放たれし、暗き終焉のひとかけよ! 阻むもの無き影の衝撃にて、我が前に立ち塞がる全ての命に終止符を打て! 死の衝撃デス・ショット!」


防御力無視でHPダメージを与えられる上級魔術。こういう魔物にはおあつらえ向きの 死の衝撃デス・ショットを、とりあえず10発叩き込む。

流石にHPが削れたのか、亀が大きく身もだえするが……倒すにはまだまだ足りなさそうだ。


「っ!ちくしょう!これ息できねぇ!」


当たり前のことを叫びながらバノッサさんが穴から飛び出してきた。

何をやっているんだか。



しかし……ガンガンMPを吸っているのに、サーチの魔力反応は小さくなる気配がない。

死の衝撃デス・ショットは連発出来ないし、相手の回復速度が速いときついな。


『バノッサさん、沈め切りましょう。埋めてスリップダメージで倒した方が楽です』


『だな。後50メートルも沈めりゃ、頭が沼の底に沈む』


再度泥沼マイァで亀を地面に沈めていく。いやぁ、この魔術強いな。高速移動スキルが無い相手なら完封できるんじゃないか? 後始末は大変だろうけど。


それからものの数分で、亀の頭が完全に沼の中へと沈む。

よっしゃ、これで後は窒息ダメージで死ぬだろう。


亀の身動ぎが意味をなさない事を確認したのち、コゴロウ達に意識を向ける。

こっちに攻撃は来ていないけど、あっちの方は大丈夫かな。


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□雑記

明けましておめでとうございます。2023年もよろしくお願いいたします。

新年一発目の更新は0時を回ってしまいました。幸先悪いですねorz

明日は所用により更新が難しいため、次回は1/3(火)の夜となる予定です。よろしくお願いいたします。


現在5話まで公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!

アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

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