第47話 包囲された小結界
凪の平原が平定されるはるか以前より、クロノス王国に暗躍する4体の魔物が居た。
一つ、影に棲むモノ、
一つ、惑わす悪夢、
一つ、不死者の王、
そして……猛き暴虐、オーク
時に街を滅ぼし、時に国を傾け、時代時代を暗躍する魔王の部下。
クロノス王国で最も重要な討伐対象であり、最も力を持つであろう四体のうちの1つが、丘の上からこちらを見下ろしていた。
ヤバイ。
まだ数百メートルは離れているのに、感じる危険度はラルフさんの
クロノス王国で四魔将とか四幹部とか呼ばれる魔物。推定でも10000Gクラス……集合知の情報からすると数万Gになるだろう。見ただけでわかる程に差があるか。
「……くそ、どうしたものか」
けれどその間は移動することができないし、この距離じゃ
そうでなくても魔物が集まってくれば、ここに
……あいつなら岩やそこら辺の木だって投げてこれるだろう。
エリュマントスは残っている情報から完全な近接戦闘タイプの魔物だ。4メートル越えの巨人と追いかけっこする気にはならないし、相手のスキルの情報から、あちらさんの方が速いと思う。
正面から戦っても勝負にならない。
近接戦闘を得意とする3次職を含む冒険者の一団を打ち負かしたという話もある。ステータスだけの俺じゃ足元にも及ばない。
……クロノスのネームドの中じゃ、今の俺との相性が2番目に悪いな。
強力な状態異常や洗脳が武器のルサールカじゃなかっただけましか。
包囲をしている魔物は北よりに向かって進軍を進めている。
街からの照明弾の指示でルートが変わっているためすぐにはここに来ないだろうが、
この動きに乗じて街のほうが攻勢に出れば状況も変わるだろうけれど、こっちの状況が分かっていない以上、期待するのは難しいだろう。
それでもあの化け物を引き付けているのは観測されているはずなので望みはゼロではないが……。
どうやらエリュマントスはこちらが
移動できないことを知っているな。辺り一帯をゆっくり探すつもりらしい。信号弾を上げた位置からこの茂みはだいぶ離れているから、すぐには見つかることはないだろう。
「……落ち着いて考えろ……敵は大ボス一体か、100体を超える魔物の軍勢のどちらか。エリュマントスは近接タイプで、威力の高い攻撃と素早い動き、そして高いHP。代わりに状態異常のような技は使った記録がない。包囲に出てる魔物は未知数。俺に致命的なスキル持ちが居れば、そっちはそっちで危険度が高い」
倒す手段がないことを除けば、無数の魔物と戦うよりエリュマントスを相手にする方がましだろう。
「……あの剣は……あれ魔物の一部じゃないな。アイテムか」
エリュマントスが持っている大剣。
巨大な生き物の骨とミスリルを含む鋼で作られたであろうそれは、その身体から離れると消える魔物の一部ではない、純然たる武器だ。
「鎧の方は体の一部か。……あの剣だけでサウザント級の魔物が作れるだろうな」
ベースがどれだけ高価かは知らないが、取り込んでもそれなりに能力は強化されるだろうし、魔物を作るのも有効だ。
それをしないってことは、よっぽど自信があるのか……。
あれでの攻撃は
安全な脱出方法……
エリュマントスを今のレベルで倒す方法は……なくは無いが実現は不可能。
HPを削り切るなら手持ちの封魔弾とMPをつぎ込んでも足ら無い。クリティカル狙いもこっちのATKと相手のVITに差がありすぎて攻撃がほとんど通ら無いし、そもそも当てるのが難しい。
魔物の力を弱める結界が張られた街中ならまた違うのだが……。
……くそ、決め手に欠ける。
緊急脱出用の宝珠を借りてくるべきだった。サウザント級が来ても逃げ切れると思っていたのはうかつだった。
こうしている間にも、包囲は徐々に狭まってきている。
向こうはこっちが
探索に時間をかけている分進軍が遅れているけど、日暮れ前に見つかるのは確実か。どっちも見えない状況ならまだ勝機はありそうだけど……。
「……日暮れまではまだ2時間以上ある。
相手が慢心して一部の魔物以外を引き上げてくれるのを期待するしかないか。
こっちの兵力をどの程度か把握されていないだろうが、100を超す魔物で
エリュマントスも帰ってくれれば万々歳だ。
MP回復上昇を覚えていないのが悔やまれる。あと2レベルなのに……。
林の中から魔物の影が見え始めたのは、それから30分ほどたってからの事だった。
エリュマントスの姿はまだ見えない。
後は天に運を任せるしかなくなったその時……
『……タルさん!ワタルさん!聞こえますか?聞こえていたらなんでもいいので返してください』
耳元で囁くように、仲間の声が響いたのだった。
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