第48話 最善の一手
『ワタルさん!聞こえますか?聞こえていたらなんでもいいので返してください』
「エトさん!?」
『ああ、よかった!ワタルさん、繋がりました!』
『おう、無事かワタル!』
「グローブさんも?ちょっ……そんなに近くに?」
INTの高いエトさんとの通信ならともかく、グローブさんに繋がるって事は街の外壁よりももっと近くにいることになるぞ。
『ああ、
「ああ、なるほど。それにしても近くないですか?魔物の包囲は!?」
『包囲されてるんですか!?』
「絶賛!今どこです?」
『こっちはいましがた凪の平原に出たばっかだよ。照明弾が見えたんで、お前さんだろうと思って警戒しながらそれを目指してた。つながったのはドックタグのおかげさ。そいつはクラン向けの改良品だ。宝珠とのリンクのほかに、持ってる者同士の
なるほど。
集合知の知識だと、クラン向けのドックタグは
「そう言うの説明ないんですかね」
『今回はばらけて行動する予定がなかったからな。余計な機能を説明すると、たまに無くした言って持ち逃げする奴が出てくるんだよ。安くねぇのに』
……ギルドの懐事情など知らねぇよ。
『状況を教えろ。悠長に話せてるって事は
「その通りです。100を超える魔物の群れに囲われてて、おそらく捕獲専門の状態異常を得意とする魔術師タイプが居ます。それだけなら各個撃破か走って振り切るんですけどね……エリュマントスが居ます」
『エリュ?……オークの化け物か!』
『オーク
「街からの『逃げろ』の指示に従って助けられました。まだその辺ををうろついてますよ。大丈夫だと思いますが、見通しの良い所は注意してください」
ドッグタグの効果がグローブさんの言う通りなら、さすがにまだ二人は索敵には引っかかっていないだろう。
それでも危険であることに変わりはない。
「その宝珠の効果範囲はどれくらいですか?」
『こいつは普及品だから50メートルってとこだ』
「……全然足りませんね」
俺が二人に合流するのはきついし、二人がエリュマントスに気づかれないように50メートル以内に来るのも困難だ。
グローブさんとエトさんの組み合わせだと、状態異常持ちの捕獲部隊よりエリュマントスの方がよっぽとやばい。当たり前だけど。
しかしこれはチャンスでもある。
危険は変わりないが、合流さえすればこの窮地を脱出できるのだ。ただ魔物に囲まれるのを待つよりずっといい。
……それに、集合知の情報が事実なら、エリュマントスは比較的戦いやすい性格の相手だ。やってみる価値はある。
魔物は5メートルから10メートル単位で点在。飛行部隊もいるな。エリアに対してはまだ数が少ないからボスが居なきゃ走って抜けることも可能かもしれん。
問題のボスは高台のこの周囲だと一番の高台の上か。ここから肉眼だと陰に成って見えないが、離れる方に動けばまず見つかる。
そしてグローブさん達はまだ見えない。
「……ちょいと無茶な作戦があるんですが、お願いして良いですかね?」
『……ちょっとかどうかはこっちが判断する。言ってみろ』
「現在、俺が真上に打ち上げた照明弾の位置からおよそ南西500メートルほどの林の中に居ます。魔物の群れはそれよりちょい北の高台を中心に、直径4キロぐらいの範囲を中心に向かって反時計回りに円を縮めていっています。中心にはボスのエリュマントス」
『だいぶ厄介な布陣だな』
「ええ。でもこの布陣は相手にとっても負担です。俺の所為でおそらく北門側の兵力は減少。それを西と東から少し補ってるみたいですが、その分東西の攻撃の手が緩みます。相手としては、チャチャっと片付けたい処でしょう」
魔物の目的は、人間の捕獲と金品の略奪だ。
破壊するだけなら、エリュマントスが門に突っ込めばそれなりの確率で破壊できただろう。
それじゃあ意味がない。ただ破壊すればいいと言うものでもないから、こんなめんどくさい状況に成っている。
なら、その性質を利用させてもらう。
「今から俺がエリュマントスに仕掛けます。それで少なくとも北側の敵戦力は街攻めに戻るでしょう。その間に合流してください」
『……いや、何言ってんの?』
「言葉通りの意味ですよ。おそらく指揮官でもあり、最大戦力がエリュマントスです。まさか負けるとは思ってないでしょうから、あいつと戦い始めりゃ魔物は通常の作戦に戻ります」
一連の連携具合を見ると、もしかしたら南側にボガードかルサールカが居るかもしれないが、まぁそれはそれ。今は関係ない。
今回の陽動に蜂起した魔物の群れがアンデットだったから、ブギーマンは王都だろう。
「エリュマントスは武将としての誇りを重んじるタイプです。一対一で戦いを申し込まれたら、間違いなく乗ってきます。そして俺一人なら、他の兵力はアインスに戻すはずです。俺たちが合流するなら、その状況しかありえない」
一番最悪なのは、俺が状態異常で倒れ、グローブさん達がエリュマントスと戦うことに成る状況。これははっきり言って手の打ちようがない。
『そもそも五秒と持たないだろ』
「全力で行けば多分生き残れはします。逃げられないですけど」
『正気か?』
「だからあんまり全力で戦っているところを誰かに見せたくないですけどね。どっちにしろ、これ以上に安全な策は無いです。時点、それで俺が捕まったら輸送しているところを回収って事で」
『最初からそれではダメなんですか?』
「エリュマントスがサモナースキルを持ってないと良いですね」
たぶん無いと思うが、隠していた場合にはそれが俺にとってもアインスにとっても致命傷になりかねない。
それにこの手はアインスの状況を打開するためにも有効だ。取り囲まれているアインスにただ逃げ帰るだけでは意味がない。やるなら状況を打破するための一手を打つ。
『……最悪死ぬぞ』
「死ぬ方がマシな事もあります。それに、こんなところで中ボスに負けてるようじゃ、魔王は倒せません」
俺は帰らなきゃならない。
地球に、それもあいつが居る現代に。
もう二か月以上だ。こんなところで立ち止まっている時間は無い。
『……わかった。こっちは出来るだけ早く合流する。無理も無茶もして良いが、死ぬなよ』
「……了解」
さて、方針は決まった。あとは準備。
特に盾の方、これは切り札だ。うまくすれば、エリュマントスを倒す武器になる。
「あとはうまく挑発に乗ってくれるかだけど……男は度胸!」
こればかりはやってやるしかない。
異界に着て初めての大勝負、勝ってあいつへの愚痴の一つにでもしてやるぜ。
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