第117話 廃孤児院に侵入した

暗く深い闇が辺りを支配する深夜。闇夜に紛れるように貧民街歩く。

向かう先はグレイビアード孤児院。孤児院内に残っていた魔力反応の理由を確かめる。


忍び足スニーク小音化サウンド・ラウワーを発動させ、魔力探信マナ・サーチを使って人目を避ける。こんな時間にうろついているところを見られたら通報案件。

6層と7層を分ける門が無くて良かった。

コスト削減のために見回りだけに成っているので、6層までなら闇に紛れて動き放題だ。


「さて、ここまではOKだけど、どうしようかな」


孤児院の横の雑木林に身をひそめる。

中の魔力反応は増えていて8人。明らかに子供が4人。新しく増えた魔力の内一つは成人くらいの大きさだが、それ以外はやはり小さ目。

さて、不法侵入しても良いけど騒ぎになるのは困る。


「……万物に宿る命の欠片よ。契約に基づいて、仮初の体に宿りて我が手足となれ。小精霊召喚サモン・リトル


闇夜の小精霊はうすぼんやりと光る。まずは様子見をして貰おう。


魔術師の目ウィザード・アイ。中の様子を調べてもらえるかな」


視界を共有した小精霊が、壁を越えて敷地内に入る。

魔術師の目ウィザード・アイは、現実の視界と魔術を視界を切り替えるようなイメージだ。

鷹の目ホークアイは上下二分割だったが、こちらは移動中や戦闘中に使うのは難しいな。

小精霊に掛けると、ふわふわしたゆっくりな動きと相まって、ホラーゲームをやっているようだ。


昼は地下に居る様だったが、今は全員一階にいるらしい。

敷地の裏に回り、煙突から中へ。真っ暗で俺なら壁にぶつかりまくるだろうが、何かを感知しているらしい小精霊はぶつかることなく降りていく。


魔力反応のある方へ小精霊を誘導すると、外に漏れないようにか、小さな明かりがともった部屋が見えた。

暖炉から部屋へ出ると、数人の子供たちが身を寄せ合って眠っていた。見つけた、予想通り子供たちだ。

起きている子はいないか?小精霊に様子を確認確認させていると、小さな子と目が合った。


「あ、見つかったか」


どうだろう?小精霊なんてそうそう見たこと無いだろうから、光虫のたぐいと思われるかな?

捕まらない様に部屋の隅に飛ぶように指示を出した瞬間、視界が途切れた。


「っ!潰されたか……」


小精霊の防御力なんて無いに等しいから、子供に叩かれただけで消えるけど……攻撃した相手は見えなかったな。

魔力探信マナ・サーチの方では、子供たちが動き出した事が確認できた。

ふむ、地下に移動するか。7人が地下に移動して、一人があたりの様子を窺うように移動している。


状況を整理しよう。

グレイビアード孤児院が閉鎖されたのは2か月ちょっと前、院長のおばあさんが無くなった後だ。

当時いた子供は10人ちょっと。今は8人、少し足らない。


孤児院は国営なので、本来は院長が体調を崩した時点で別の人が着てしかるべき。

来ていないという事は、上に報告が上がっていないか、、そもそも上が噛んでいるかの二択か?

報告を上げるのはドーレさんの仕事のはずだ。


2か月以上生活できてるって事は、事件性があるわけじゃ無い?

もしくは支援者が居るのかな?とにかく直接聞いてみるしかないか。

穏便に……ん~……眠りの霧スリープ・ミストでも覚えておけばよかった。俺のスキルだと束縛糸バインドで拘束するくらいしか手が無い。


「……すぐに対処する必要が無いなら、むしろ接触しないほうが良いか?」


顔を合わせない様に侵入して、部屋を清潔クリーンできれいにして、食料と書置きを残しておく手もある。

問答無用で制圧するより穏便な手法だし、数日で炊き出しが始められれば、そこでの接触の機会はあるだろう。


「……まあ、ひっ捕らえるか」


わざわざ穏便に済ます理由も無い。状況が分からないし、当人に聞くのが早い。

幸い、近くに人の気配は無いから少々やり合ったところで問題ない。一番問題は、街の大人たちに見つかって騒ぎになった場合だ。

まあ、その時にはドーレさんに穏便に済ませてもらおう。今のところどこに問題があるか分からんしな。


昼間もやった棒高跳びの要領で、塀の上に飛び乗り、そこから飛び越えて庭先に降りる。

雑草が酷いな。棒で振り払うと、カラカラと音がした。おっと、鳴子に引っかかったか。


魔力反応は……二階に行ったな。高い所から確認?

ガラス窓が無いからなぁ……中からこっちが見えて居るのか分からん。


裏の勝手口に回る。封印されてはいないが……鍵はかかってるな。

開錠の魔術とかないからなぁ。錬金術師なら変成で鍵を潰せたのだが。

……斬るか。


「セイっ!」


甲高い音がして、扉が壊れる。……しかし開かない。あ、これ中からはさらに大きな閂がかかってるタイプか。

仕方ないので剣を差し込んで上から下まで滑らせると、途中で引っかかる。そこに向かってもう一度剣を振るうと扉が開くようになった。

ダイナミック不法侵入、よし。


「さて、下に居るのが子供たちで、上が保護者なら……とりあえず保護者の方かな」


二階に上がったのは、いちばん魔力反応が大きかった人物だ。


「お邪魔しま~す。……暗いな。松明トーチ


懐中電灯型に加工した松明トーチ用のハンドキットに明かりを灯す。

磨いたアルミを円錐状にして、松明トーチの明かりを収束光変換するようにしてみた。

松明トーチはINTが時間にしか乗らないので元の明るさはぼちぼちだが、この形にすると結構明るい。トーチライトと言う名前で呼んでいる。

タリアに閃光フラッシュ音噴射サウンド・ジェットの精霊魔術を説明するために作ったが、こんなところで使うことに成るとは思わなかった。


「夜分遅くに失礼いたします~。わたくしワタル・リターナーと申しまして、孤児院の支援事業を行っております。少しお話伺いたいのですがよろしいでしょうか」


階段の下から二階に呼びかける。

言っててなんだが、ザ・不審者。ちなみに話を聞くのに拒否権は無い。

上からこっちを伺ってることはもろバレなんだよなぁ。魔力探信マナ・サーチをスキルで検出するのは3次職のスキルが必要だから、多分バレている事にも気づいていないだろう。


「こちらに住んでいる方、いらっしゃいますよね~。出てきてくださいませんか~?」


声を掛けながら2階に上がる。廊下の奥に置かれた木箱の陰から魔力反応がある。


「そこの木箱の陰にいる方?魔力が隠せていないのでバレバレですよ。自発的に出てきてくださいません?」


トーチライトを向けるが反応が無い。さて、どうしようか。

そう一呼吸置いた瞬間、陰から何かが飛び出してきた。


束縛糸バインド


「っ!」


即座に魔術を発動させる。それと当時に、相手も何かをこちらに投擲。

頭を狙いすましたそれを摘まんで止める。あぶね、刃渡り20センチほどの投擲用ナイフじゃねぇか。


「くそっ!離せちくしょうっ!」


光る帯に絡めとられていたのは、赤毛の短髪の……。


「……少女?」


「てめぇぶっころしてやる!」


どうやら少女であってるらしい。暗いし分からんよ。そんなに睨まんでくれ。


「えっと、ワタル・リターナーと申します。とりあえずお話伺っても?」


「死ねっ!」


さて、どうしたもんかね。

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