第38話 巣穴の奥に潜むもの

叫びも上げず襲い掛かって来るウッドゴーレムモドキを一刀のもとに切り捨てて、返す刃でもう一体を屠る。


「しかし、敵が弱くてもこう数が多いとうっとおしいな」


さらにもう一匹を盾で押しつぶし、別のやつには蹴りを加え、手近な奴をから竹割のごとく両断する。


「もう50近くなりますよ。しかも木人ウッドマンばかり」


回転切りの要領で同時に2体、最後に地面に転がっていた奴に剣を突き立ててひと段落。


「くっちゃべって無いで手伝ってくださいよ!」


何で俺ばかり戦わされているんだ!


「いや、お前さん一人で余裕だろ」


「すいません。サーチで減ったMPは回復しておきたいので」


魔力探信マナ・サーチをジャミングされた後、探索を強行しているのは良いが出てくるのは木人ウッドマンと呼ばれるゴーレムモドキ。凪の平原に自然発生してた藁人形ストロー・ドールの亜種ばかりだ。


能力的には10G前後だろうか。ドロップ品は村から奪われたと思われる薪ばかり。流石に全部は回収できないので、今は放置で先に進んでる真っ最中だ。

この先に奪った薪をモンスターに変えている魔物が居るはず。そいつを倒せば取りこぼしは問題なくなる。


そう考えて急ピッチで進んでいるのに、さっきから俺ばかり剣を振るう羽目になっている。


「使い減りしないって事を考えりゃ、ワタルが一番いいだろ。経験値はがっぽりなんだし良いじゃねぇか」


「もう流石にこいつらじゃ焼け石に水ですよ」


雑魚を数倒して簡単にレベルが上がるなら誰だってそうする。


「終わったなら次行くぞ。俺の索敵にはまだ……ん?」


その時足元が小さく揺れた。地震?


「今、揺れましたよね?」


「揺れたな。小さくだが……地震じゃないな。どこか崩れたか?」


「生き埋めは嫌ですね」


「宝珠がある。先に進もう」


洞窟をさらに奥へ。木人ウッドマンたちは5体から10体くらいのグループでこちらに向かってくる。

古びた魔法剣の一撃で切り伏せられるから雑魚だが、数が多いのはちょっとうっとおしいな。

ただそんなに広くない洞窟内なので、一斉に襲われることがなく戦い自体は余裕だ。


「先の広場、何体か居るが……ウッドマンより強そうだ。それに結構広いぞ」


すでにこちらには気づかれている。

盾を構えながら広場に飛び込むと、数体のウッドマンの奥に祭壇があり、杖を持ったゴブリンが居るのが目に入った。


「ゲギャ!オノレニンゲンドモメ!」


「わぉ、人語を話す個体ですよ」


「……ゴブリン・ウィザードか?数百Gクラスだな」


祭壇の上にはゴブリン・ウィザード。その下には長剣と盾を持ったゴブリン・ソルジャーが2匹。さらにその前に木人ウッドマンが7匹。なかなかの大所帯だ。


「僕はこのクラスは初めてですよ。大丈夫ですかね」


「たぶんな」


「ヤカマシイ!ワガナワバリニズケズケト!イキテカエレルトオモウナ!!ヤレ!」


その掛け声とともにゴブリン・ソルジャーが散開し、木人ウッドマンが一か所に集まる?


「ぉぉ?おおおおお!?」


そしてその木人たちは手を取り合って巨大な1つの魔物に変わる。


「気をつけろ!木人兵ウッド・ゴーレムに成りやがった」


「撃ちます!凍結矢フリーズ・アロー!」


「こっちもな!」


エトさんが放った凍結矢フリーズ・アローはウッド・ゴーレムに直撃し、冷気をまき散らす。しかし相性が悪いな。

そして最後衛のゴブリン・ウィザードを狙ったグローブさんのスリングショットは、正確に敵の胸板に吸い込まれて……直前で止まって転がり落ちた。


「っ!テレキネシスか!」


遠距離防御持ちかよ。うっとおしいな。っと、こっちもか。

動きの遅いウッド・ゴーレムの脇を抜けて来たゴブリンソルジャーと接敵する。


「こんにちわ、さようならっ!」


間合いに入ると同時に振りぬいた剣は、相手の盾に当ってそのまま敵を弾き飛ばした。さすがに防御の上からじゃダメか。


「クシザシニナレ!」


「うわっちょ!?」


地面が膨れ上がり槍となってせり出してくるのをステップで避ける。あぶねぇ、土槍アーススピアか!

そしてそれを避けている間にウッド・ゴーレムが攻撃モーションに入っている。


「このっ!」


グローブさんのスリングが命中して炎槍ファイア・ランスが発動するが、一撃で倒し切れるほどではない。

そのまま放たれた一撃もAGIを駆使して何とか避ける。

空を切ったゴーレムの拳が地面を打ち付け、洞窟が揺れた。


多重詠唱マルチ・キャスト火矢ファイア・アロー!」


「ちょ!火は勘弁!」


2つに分かれた炎の矢がウッドゴーレムを燃やして、いやな煙が発生する。

洞窟内で火魔術とか、こっちだけ酸欠で死ぬ!


「分かってます。水散弾ウォーター・スプラッシュ!」


今度は水の弾丸が雨あられと降り注ぎ、燃え上がったウッド・ゴーレムを鎮火する。

水散弾ウォーター・スプラッシュは水の弾丸をぶつける魔術。非殺傷に分類される魔術で、威力は低いが範囲が広く避けるのが困難。火事の鎮火にもよく使われる。

そして魔術で生み出した水だが、しばらくは濡れたままになる。


封印解除レリーズ!大盤振る舞いだ!」


収納空間インベントリから取り出したのは、一握り分の雷槍サンダー・ランスの封魔弾。

魔物に当れば発動するのだ。指弾で狙う必要もない。


向かってくる2匹のゴブリン・ソルジャーとウッド・ゴーレムに向かって、思い切り投げつけてやる。


「ギャッ!!」「グギャ!!」


まばゆい雷光が走り、熱によって水蒸気が上がる。

一瞬後にはウッド・ゴーレムもゴブリン・ソルジャーも残ってはいなかった。


「ふぅ……あとはあんただけな」


「バカナ!」


部屋にいた魔物はゴブリン・ウィザードを残してすべてドロップに姿を変えている。


「……今の、絶対大赤字だぞ」


「すごいですね。生産者だからって大盤振る舞いも良い所です」


「後ろうっさい」


こういう時のために作ってるエンチャントアイテムなんだから好きに使わせろ。


「さて、お前がこの騒ぎのボスか?ほかに仲間は?戦力はこれで一杯?」


向うは話す気なんて無いだろうけど、一応聞いておこう。


「ヤケシネ!」


やっぱないよね!


魔術無効化ディスペル!」


ゴブリンの放った火矢ファイア・アローが、エトさんの魔術無効化ディスペルでかき消される。おお、早い。いいなぁ、やっぱり詠唱してると今みたいなのは無理なんだよな。

魔物側は無詠唱で好き勝手魔術を使ってくるし、俺も戦闘向きのスキルが欲しい……っと、そんな事考えている場合じゃないか。


「ワタル、ちゃっちゃと片付けるぞ。エト、防御に徹しろ」


「了解」


「わかりました」


グローブさんと足並みをそろえて突っ込む。これなら狙いを定められないうえ、魔術はエトさんがキャンセルしてくれる。

そう思って高さ数十センチの祭壇のふもとへ踏み込んだ瞬間、ゴブリンが両腕を突き出した。


「ぐっ!?」


「おお!?」


構えてた盾からシールドが発動する。テレキネシスか!忘れてた!

威力は大したことないけど、踏み込む瞬間に放たれたからそれなりの衝撃。実際グローブさんの方は足が止まっている。


「だけど残念、二人いるんだよね!」


ステータスが高い俺を止めるのにはちょっと足らない。


「クワレロ!ヤケシネ!」


その瞬間、足元からゴブリンが湧き出してきた!

こいつ、群体持ちか!

軍隊蟻アーミーアントの“群棲”と同じく、コア無しで分身を生み出す能力。“群棲”ほど数は生み出せないが生み出すのが早いというメリットがある。


そして杖に灯したのは炎剣ファイア・ソード。付与魔術……多彩だな。あれは魔術無効化ディスペルじゃ打ち消しにくい。消えるまで数秒、俺と一戦交えるには十分な時間だろう。

……単なる1次職じゃやばかったかもしれない。それぐらい多彩なスキルだ。だけど……。


「スキルに振りすぎだ」


動きが遅い。

盾と剣を収納空間インベントリにしまうと、大口開けてとびかかってきた2匹のゴブリンを鷲掴みにしてゴブリン・ウィザードへ投げつける。


「グゲ!」


それは見事に命中して、ゴブリン・ウィザード祭壇を転げ落ちる。

起き上がる暇はない。


ザクッ!と骨と肉を貫く衝撃を残して、頭を剣で貫かれたゴブリン・ウィザードはドロップ品に姿を変えた。

ほい、お疲れさまでした。


『レベルが1上がった。HPが5上がった。MPが3上がった。INTが4上がった。DEXが1上がった。スキル:炎剣ファイア・ソードを習得した』


おっと、レベルが上がったらしい。

そして目の前の敵が使った魔術を覚えるとは、なんとも運命的だな。……まあ、レベル的に予定通りか。


「さて……グローブさん、大丈夫ですか?」


「あ~……すまん。問題ないが、今の立ち回りはちょいしくったな」


「大丈夫なら何よりです」


テレキネシスはゴブリン・ウィザードのメジャーなスキルじゃないし、大して威力が無いから気にしてなかったが……うまい使い方をされたな。

やっぱり知識で知ってるだけじゃ危ない橋を渡ることになりかねない。もっと経験を積まないと。


「お疲れ様です。魔力探信マナ・サーチを再開しましたが、周囲に魔物は居ないみたいです」


「了解。あー、くそっ……ワタル、そいつのドロップは?」


「っと、そうでした……結構多いですね」


銀貨、銅貨、鉄貨……貨幣だけで682G。それにメジャーな薬草と……日用品だな。木のお玉、鍋、調理用ナイフ。


「なんだかんだで1000G届きそうですよ」


「マジか」


「サウザント級の討伐ですか!?」


「さすがにそこまでは」


「いや、しかし俺たちのレベルなら大金星だな」


「……それだけ危ない戦いだったって事ですよね」


ゴブリン・ソルジャーのドロップは2匹で328Gとダガー,それに古びた鍬が1本。

木人兵ウッド・ゴーレムは薪の山だ。あれは木人ウッドマンから作られた急造品だから、多分イレギュラーだろうな。本来のゴーレムは数百Gの魔物だから、もうちょっと“価値のあるモノ”じゃないと生まれない。


まあ、なんにせよこれまで戦った中では最も強い相手であったことは間違いない。


「この部屋で行き止まりみたいですね」


そこから更に周囲を探すも、めぼしいものは無い。わかったのは、どうやらここは蟻の産卵場の1つであったであろうことくらい。


「ああ、そうみたいだな。……めぼしいものは無いし、引き上げよう」


「この大量の薪はどうしましょうか?」


「さすがに持ち運べないから、明日にでも村人に回収に来てもらう。もともと彼らの物だし労力に見合わん。封魔弾だけ拾い忘れが無いようにすればいいだろ」


「わかりました」


「了解っと」


発動していない封魔弾は残ってるかな?鉄球も再利用しないとね。

収納空間インベントリから取り出した分が回収できたのを確認して、俺たちは意気揚々と洞窟を後にした。


………………


…………


……


□蟻の巣穴□


「……行ったかな?いやぁ、やばかったね。気づかれないかとヒヤヒヤしたよ」


洞窟内に甲高い声が響く。

それと同時に複数の影が湧き出して、音もなく動き始めた。


「うんうん。なんか妙に強かったね。それに、変な感じだった。稲妻のアレとか、最近出回り始めた新兵器かな?」


声の主が誰と話しているかは分からない。

洞窟内に響くのは、気に障る甲高い声だけなのだから。


「彼には悪いことしちゃったね。撤退くらいに追い込めると思ったんだけどさ。いくら“でくの坊”が弱いからって、あの数を捌いて倒しちゃうなんてね」


「まあでも、こちらの偽装には気づいてないみたいだし、多分初級のパーティだろうね。調査遠征を始めたらしいし、タイミングもあってる」


「うん、問題ないよ。ここは潰されるだろうけど、まあ、ほかにも隠れ家はあるしね。それにもう始まるから」


「そうだね。確かにちょっと気になるから、伝えておくだけ伝えるよ。気取られない程度に薪を回収して、撤収をお願い」


そう言うと声の主は地面に溶けるように消えた。

後には形状不明の黒い影たちだけが残っていた。

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