第217話 船上の攻防
『それじゃあ全員、持ち場について。基本的には船の防衛を最優先でヨロシク』
魚人、人魚たちが海中へと飛び込んでいく中、船上組の俺たちは船の縁をぐるっと一周するように陣取る。
左舷が目標の船の墓場なので、左前方に俺、左中央にタリアとアルさん、左後方にバーバラさん。右前方にハオラン、右中央にタラゼドさんとアルタイルさん。そして右後方にスコットさんの配置。
アーニャは中央に置いた浮遊船の上だ。
タリアはシーサーペントが海面に顔を出したら
守護戦士であるアル・シャインさんを守りに付けているのはそのためだ。
術を完全にコントロールできる範囲はそう広くないから、狙えるかどうかは運しだいである。
「さて、こっちも集中しないとな」
甲板はそれなりに揺れている。なれない足場での戦いは気を引き締めなければ成らない。
いつものトレーニングと違って、他のパーティーも近くにいるしな。ついうっかり大きな魔術を放って、それに巻き込んだら洒落に成らない。
魔物の数は100を超えるな。様子見せずに突っ込んでくるのは、精々100Gちょっとの雑魚共だ。問題はなさそう。
俺が
『タリア、吊り上げたらこっちに流して。飛び出してくる奴が居ないと多分暇だ』
『私の方にもお願いしします』
『了解。始末は任せるわね』
船上からの海中の魔物を相手するのが最も得意なのはタリアだ。
念動力で捕まえて、放り出してどつく。これで雑魚は倒せる。念動力は俺もバーバラさんも使えはするが、戦闘に活用できるほどレスポンスが良いのはタリアだけなのだ。
数分で魔力反応が近づいてきて戦闘が始まる。
飛び込んだ魚人たちもまだ船の近くにいる。船の航路は深場の上に向けて進み始めているが、まだ遠いのだ。
近づいて来る魔物を、タリアが引っ張り上げて俺とバーバラさんで処理する。バーバラさんはそのまま殴り倒している模様。俺は
上がって来るのはおおむね1メートル以上ある魚や海獣などの魔物なので相手はしやすい。群れてる魚は掴みづらいらしいので、そちらの処理は水中班に任せている。ただ彼らのスキルでめっちゃ波打ってて、船の揺れが酷くなっているのは何とかしてほしい。
戦闘が始まって15分ほど、包囲は完成していないが既に狭めつつある。一番遠方をふさぐ予定の船が多少手間取ってるが、今も所魔物が逃げ出す様子はない。
ほんとに雑魚は落ち着いた。ここからは1000G級も出てくるだろう。っと、そんなことを言っていたら、海面下に大きな魔力反応だ。
『船長!おそらくシーサーペントと思われる反応が800メートルほど先、海中30~40メートルほどに浮上!向かう先は旗本船です』
俺の
この位置だと索敵範囲ギリギリだな。
『了解だ!狙い通りの方向に行ってんなら、このまま包囲を狭めるぞ!』
今のところ戦場は上手くコントロールできている。
既に海中で戦っていた魚人、人魚の中には負傷者も出ているが、引き上げてアーニャが回復を行った。問題はこの後どれくらい大きいのが来るかだけど……。
『タリア!深い所に大きな魔力反応!』
かなりの速度でこっちに向かって来ている。数は……7体か?。
『前に見たイッカクの群れね』
『厄介だな。今度は釣り上げられる?』
『やってみるわ。ダメでも雷撃で何とかできるかも』
魔力反応から行って価値は1000G越え。今、この船の周りで水中に居るのは17人なので、最低でも1体、出来れば2体はこちらで引き受けたい。
『水中に壁を貼って進路を妨げますよ!』
100メートルほどまで近づいたところで鼻先に
衝突する奴は居ないか。海流の変化で上手くかわされてしまうな。
『一匹ライダーが居る!それに、海面の方からも来てるわよ』
『見えてる。ありゃメタルライダーだ』
銀色に輝くフライ・マンタに乗ったサハギンが5匹、編隊を組んでこちらに向かって来ている。
メタル・マンタと呼ばれる亜種で、名前の通り防御力が高い。ライダーを
……しかもコバンザメ装備か。
『防御はこっちでやる。イッカクは後部甲板に放り投げて!バーバラさん、スコットさん、対処よろしく』
『『了解です』』
メタルライダーに向かって迎撃魔術を連射する。不可視のそれはまっすぐ魔物に向かって飛ぶが、魔力を感知された結果かほとんどは避けられ、当った者も盾によって阻まれてダメージに成らない。
ちっ!INTが高くても貫通力が足りない。
相手が打ってきた
このまま船の周りを飛びながら攻撃されると厄介だな。
『落としますよ。
アルタイルさんの魔術で一匹が水面へと落下する。倒せてはいないが、飛んでる数が減るだけでもありがたい。
『戦いでもいいとこ見せねぇとな!
タラゼドさんの放ったスリング弾が、途中で弾けて散弾となり先頭の一匹を捕らえる。
盾で防がれたが陣形が崩れたな。
「……
その集団に向かって、荒れ狂う氷の旋風が襲う。
海面下に影響のない魔術だと、これ位の威力が限界。倒せはしないが、強風にあおられたメタル・マンタたちが制御を失って海に落ちる。
とりあえずダメージは与えたけど、また来るか。
『船上!聞こえるか!サハギン共が飛び乗るつもりでそっちに行った!数は20以上!大きいのも行った!』
っと、激しいな。こりゃ数千G級の魔力反応だぞ。
「ギョォォォォ!!」
独特の雄たけびを上げながら、サハギン共が海面から飛び出してくる。同時に馬鹿の一つ覚えの
「
魔力を奪う影の壁が水の槍を防ぎきり、ついでに戦闘の何匹かにダメージを与える。
『雷撃!』『ビット!』
続けてタリアの念動力とアーニャのビットが、飛び込んでくるサハギンを迎撃する。
『私も良い所を見せねばなりませんね。
背後から伸びた白刃が、まとめて数匹のサハギンを切り捨てた。
ハオランのスキルか。珍しいタイプだ。武装商人は一般職である商人と、1次戦闘職を納めた場合になれる2次職で、取っている戦闘職によって覚えるスキルが変わる。彼の1次職が何か聞いていなかったな。
俺も
更に飛び乗ってきた奴の影に飛ぶと、一刀のもとに首を撥ねる。さらに
こいつら自身はそんなに強くない。しかし数が多いと船に穴が開く!
「ガハハ!威勢のいいのが居るな!こちらに来て正解だ!」
ちっ!もう来たか!
海に視線を戻すと、大きく盛り上がった並みの上に、大きなトライデントを持ったサハギンが立っている。短い襟の有るトカゲ頭で、前身を背を青、腹を白の鱗に覆われている青魚カラーの魚人。こいつ、さっき
「こんにちわ死ね!」
即座に
「そう急くな!こちらの世界に招待しよう!」
魔槍が敵の居た海面を吹き飛ばしたその瞬間、突き出した腕にピンク色の触手がまとわりつく。
「っ!?のぉぉぉぉ!?」
気づいた時には、俺の身体は船上から宙へと放り出されていた。
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□雑記
海戦に置いて人魚や魚人と言った水中戦を得意とする種族が存在しますが、陸から遠く離れた深い海で戦い続けるのは、肉体的にも精神的にも負担が大きく敬遠されます。理由は幾つかありますが最も大きなものは、海流によってろくに休めない――
なので休息地点、また移動手段としての船が必要であり、ワタルたちはそれを守っています。
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