第64話 戦場を観測するだけの簡単なお仕事でした
□凪の平原・西部□
「召喚部隊3は南側に移動中。おとりっぽいですね。4と7は後方に下がり、残りは徐々に南に移動していると思われます」
俺はそんな単純な話をすっかり忘れていて、唱えた瞬間知覚した戦場の情報にめまいを覚えてよろめいた。
気を付けないと意識から零れ落ちて認識することすら出来ないであろう情報をまとめ、敵と味方を区別して状況を整理すると、戦場が手の取るようにわかる。
「召喚士はサウザント級、護衛は数百G級っぽいですね。部隊3に2体のサウザント級がいるっぽいですが、片側は護衛だと思います。召喚速度が合いません」
話ながらテーブルの上に置かれたコマをひたすら動かす。
見た目はリアルタイムのシミュレーションゲームのようだが、ひたすら盤面を見てその情報をマップに表示するユーザーインターフェースの代わりをさせられている状況だ。
INTやDEXが上がっているから何とかなるが、めっちゃキツイ。
「ではそちらに2次職を含めた部隊を当てよう」
西側防衛隊の指揮陣は門の外100メートルほどまで移動し、
平原にテーブルと照明だけ並べた簡素な本陣だが、結界のおかげで中の様子は見えない。
「これはこっち、これはこっち。向きはこう。あ、魔物が3体増えた。こここ2、ここ1……」
西側防衛隊は攻勢に出て、敵の弱い所から順にピンポイントでの撃破し、敵陣は崩れ始めていた。
「第12小隊、10時方向50メートルに敵、13部隊、2時から接敵!」
「第4、第5、第6部隊はそのまま北へ。敵の召喚部隊の頭を押さえろ!」
盤面を見て領兵の魔術士が
「この部隊はこっち。あ、撤退した。こっちの部隊がこう来そう……。街から再出撃来ました」
「だいぶ広がっているな。召喚部隊の引くのが早い」
ロッソ中隊長は盤面を見ながらどう敵を追い詰めるかを思案している。
「囲い込みは難しいですね。破城槌は後2機になったようです。この部隊、今こっち向き。ここはこっち」
優秀な領兵の部隊は必ず基準となる兵が1列に並んでくれるから、行軍中はそれで向きも分かる。
だからと言って向きまでこっちで描画するのは無理が無いか?盤面が広すぎて手で動かすだけじゃ届かず、カジノで使われるトンボみたいな道具――レーキというらしい――まで使ってコマを操作している。
このコマも職人が30分ぐらいで準備したのものだ。敵の強さと数に応じて色や大きさを変えて置ける。MPを使って物を加工できる生産職は凄いな。……感心している場合じゃない。
「南側の召喚部隊が吹き飛ばされたみたいです。敵軍が崩れてきましたね。こっちがこう動いて……いったん引いた方が取りこぼしが無いのでは?」
「こちらは数が少ないから取り囲むのは難しい」
アインス西門防衛隊は臨時参加の冒険者、南側から威力偵察に出ていた全力もを合わせて、今戦場に出ている800でほぼ全兵力だ。あとは門に残るおよそ100で、これ以上はつらい。
敵陣は攻勢に出たタイミングの約1600から900程度まで数を減らしている。
こっちもMPの節約やめて長期戦を捨てているから、相手の数は減っているが状況はちょっと有利くらいだ。
召喚部隊が撃破しきれれば作戦は成功したと言えるが、なかなかきつい。
「
「3次職ならこんなことせず範囲殲滅の方が効率良いですから。こっちの部隊が来た」
思いついたからやってみたら出来たけど、これができるINTなら普通は戦場に出る。高INTだけど戦場に出れないとか、普通に残念職だ。
俺の場合は職じゃなくて謎の異能の所為かな。
「ドロップ品の回収がうまく行っているならいったん下がるか……」
前衛部隊はこちらを攻めてくるが、召喚部隊はこちらが近づくと後退する。
召喚能力を持った魔物自体はそう強くないのだろうな。魔物の召喚は高コストなスキルと言われているから、サウザント級前半の魔物が単独で行うのは厳しいはず。それも結構な速度で再召喚しているとなると、こいつら事態の能力は100Gにも届かないかな。
しかし相手が弱くても兵力が少ない状態で逃げてる相手を追うのはなかなか難しい。
「隊長、いったん下がるなら試してみたい作戦があります。ワタルさんの協力が必須ですが、うまく行けば敵の数を大きく削ることが可能と思われます」
「ふむ。どうすればいい?」
「ここを起点として、魔物をこうV字に囲うように誘導してください」
「兵力の少ないこちらでは包囲戦の意味は無いと思うが」
「一時形ができれば問題ありません」
「なら検討の価値はあるか。よし、詳細を説明せよ。帰還前に敵兵力を削ぐ!」
俺のかかわらない所でどんどん話が進んでいる。こっちは盤面を動かすのが忙しくて話に混ざれない。
明るいから感覚がおかしくなるが、そろそろ日が変わる時間。破城槌を破壊して、休まないと事故が怖い。
俺も朝から働きっぱなしだし、少し休みたい。
「はい!ワタルさん、お休みください。
入れ替わりの斥候が来て、戦場の確認作業から解放される。
それと同時に副官たちは支持された通りに部隊に下がり気味に配置していく。
作戦立案は中隊副隊長の一人、魔術師系の2次職である炎の魔術師のタームスさん。レベル4でまだ2次職としての活躍は望めないが、それでも領兵魔術師の中では上位の能力を持っている。
「魔術師の覚える魔術の中に、風魔術の
旋風……風属性で2つ目の魔術。そのほか属性の派生は魔術師の中で最後に覚えていく系統の魔術だな。
効果はタームスさんが述べた通りで、範囲は広いが威力は低め。旋風の発生時間は約10秒ほど。魔術師のレベル50だと、この魔術のみで倒しきれるのは数十Gくらいまで。発動距離が20メートルくらいまでと比較的近くMPの消費が大きいのが問題点で、俺が覚える項目には入らなかった魔術だ。
「この魔術は重ね方によって干渉せず、威力を強化する発動ができます。さらに
半径はINT効率が悪いな。100割り当てて増える半径は10メートルだが、400割り当てても20メートルだ。
「ワタルさんには
発動距離が短いから防衛線では使えなかったが、ここで疑似撤収で敵をおびき寄せられれば効果があるか。
それにこの作戦なら俺も詠唱魔術で旋風事態を使える。
いいね。旋風は発動中にゆっくり動かせるから、発動時間の長さと範囲でアピールの機会も多そうだ。
「わかりました。協力させていただきます」
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