第14話 天啓様と交渉してみた
「すいません、こんな遅い時間に押しかけて」
「いえいえ。神の住まいたる教会は、いつでも迷える子羊を受け入れておりますよ」
冒険者ギルドから教会へ。
たどり着いたのはすっかり日も落ち、もう皆が家路についた頃だった。
幸いにして信仰深い司祭様が残っていたので聖堂は開けてもらったけど、もう少し遅かったら明日になっていたな。
別に急ぐ話でもないんだけど。
「祈りが終わりましたらお声かけを」
お布施で10Gも渡したからこの間よりは多少愛想がいい。
滅びてたアンカー村とは比べるまでもなく、サンワサ村と比較しても段違いに豪華な聖堂だ。凪の平原を平定した後の開発で町全体が潤っているからだろう。
小さな村だとどちらか1つしか無いことの多い男神像、女神像が揃えて置いてある。
「さて……天啓を始めよう。キーワードは、集合知」
『否。何を問いたいのかを問う』
さっそくシステムメッセージが流れる。機械応答にしては自由度高そうだから、きっと裏に知的生命体が居るんだろう。
「集合知が290年版で、現在と13年乖離があって、人の世の移り変わる速度からすると困ることが多い。何とかならないんですかね?もう神の知識をいただくとか、せめてアップグレードするとか」
『……前半は否。神の知は人の器には膨大。脳の容量、人格的にも扱えない。後半は可。ただし最新のものは編纂中』
「アップグレードは可能なんですか?どれくらい新しくなります?」
『300年版。ただし更新にはそちらの時間でひと月かかる』
……ひと月。地味に長いな。
「神様なんだからサクッと出来たりは?」
『リソース不足。作業膨大。ここ最近、アトランテの呼び出し回数が上昇傾向』
光の神の?……復唱法の所為?まさかね?
「じゃあ、それで。ちなみになんで13年もずれたんです?」
『リソース不足。位置精度にリソースを割いたため、時間精度が多少適当に』
多少適当で10年ずれるのかよ。
「分かりました。2つ目、ステータスの伸びが集合知の情報と合わないのですが、理由が異能なら分かっていることを教えてください」
『是。異能:
……んん……解析が進んでるっぽいけど、イメージが湧かない点がちらほら。
最初の累積上限撤廃ってのはそのままの意味だろう。1日に一定以上過負荷な訓練をしても体を壊すだけで成長しない。その上限を取っ払ってる?
2つ目の低下量0。これはさぼった時の衰えが0って事かな。今の年齢だと微々たるものがけど、時間経過で衰えないのはいいね。
んで3つ目が良く分からん。その文面通りの解釈するなら……。
「生きてるだけで熟練度が上がる?」
単に歩くといった行為でも肉体は行使されている。
STRを上げるなら筋トレ、つまり体を動かすことで熟練度が溜まるわけだが、熟練度を上げるしきい値が0ってことはどんな動作も常に熟練度が上昇することに成る。
重力に耐えてるからVITとか寝てても上がるんじゃね?
『否。貴方が努力として労力を払ったもののみに効果。小さな努力の積み重ねが本質。ただし上昇量はお察しください』
ん~……『
どうやらこの異能ってのは、パッシブ系の経験値ブーストアイテムみたいなものらしい。ブーストされるのはレベルじゃなくて俺の素の身体能力とかの方っぽいけど。
まぁ、ちゃんとトレーニングしろってことだな。
「
『否。不確定要素あり』
まだ何かあるか。解析が進めばまた何かわかるかもしれないから気長に待とう。
「後は……紅蓮のバノッサが何を考えているかはわかる」
『是。しかし否。きわめて個人的な情報については開示不可』
ん~、やっぱりその辺は回答してくれないか。
目下、バノッサさんに付きまとわれているのが大きな問題。彼が魔王討伐まで付き合ってくれるならいいんだけど。
「じゃあ、ここ10年ほどで起こった氷竜・フロストドラゴン・フェンリルの討伐について。集合知で教えられる限りの内容を」
『是。クロノス王国歴292年2月。中央大陸南部のいくつかの地域で氷竜による被害が発生。討伐隊が編成され同7月より氷竜への攻撃が開始。討伐の功労者となる冒険者集団、
波状攻撃にて氷竜を巣穴にくぎ付けにするも決定打にかけ長期戦の様相を見せ始めた同年8月、少数精鋭にて巣穴へ侵入し、飛行能力を生かせない洞窟内にて仕留める作戦が立案された。
その攻撃部隊として選ばれたのが当時新進気鋭の炎の賢者であった紅蓮のバノッサ有する
バノッサさんは相性の良い高火力魔術を用いて、氷竜を追い詰めていった。
吐息があたりの物を無差別に凍り付かせるフロストドラゴンの前に、サポート部隊は負傷者を出して脱落するも、最深部である竜の巣において、
『死闘の末、紅蓮のバノッサは最大火力の魔術で氷竜を撃破。しかし、その際氷竜の最後の一撃からバノッサをかばったバーナード・ウィルスが“永久の氷獄”により封印。今なお解放には至ってい居ない。その後、各メンバーは……』
ん?……いま気になる情報があったな。
「質問。
『是』
「……ギルドで聞いた話だと死んだことに成ってるって感じだったけど」
『是。“永久の氷獄”により見た目上氷漬けにされており、多くの書籍、物語においては死んだとされている』
「……バノッサさんはそれを知っている」
『回答不可』
「……バーナード・ウィルスが生きている事を、炎の賢者クラスの職業で知ることが可能?」
『是。一般的な魔術師、医学知識のある者ならば類推可能。ステータス状態の確認ができるアイテムやスキルを有していればなお容易い』
なるほど。つまりバノッサさんの目的は……。
「その“永久の氷獄”を解くこと、か」
『回答不能』
「いや、今のは問いかけじゃ……あれ?今俺の脳内の声に答えなかった?」
『……否』
何で間があるんですかね!?
このシステム怪しいぞ!?声を出して問いかけてる俺はもしかして馬鹿?
「ちょっと
『……システム負荷増大。通信不安定』
「あ、こら待ちやがれ!答える気ないってか!」
『不安定、不安定、不安定……』
くそぅ、まともに答える気無いな。
しかし大まかな話は見えてきた。やはり多少でも神様たちと情報交換できるのはありがたいな。
ええっと……“永久の氷獄”、ある。今の集合知でも知っている人がいたらしい。
しかし……これは……なるほど。
バノッサさんの目的は大体わかった。そして、彼のやり方じゃうまくいかないことも。
……さて、これを交渉材料に、ことをうまく運べればいいんだけど。
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