第405話 陸竜の行方

本隊からロックドラゴンを引き離すように振り切って1時間。

5キロほど南方に対象を捕捉したままま、俺達は一時の休憩がてら情報の整理を行っていた。


「30メートル級ロックドラゴン。カトプレパスとは別個体なので、仮称カールと呼びましょう。表面的な能力は次の通りです」


全長は尻尾の先まで入れて32メートル。高さは6~8メートルほど。移動速度は時速20キロ弱。最大速度は恐らく秒速45メートルほどだが、10秒ほどしか継続しない。また加速にも減速にも多少の時間がかかる。


攻撃手段は噛みつき、爪、尻尾による打撃と、石投槍ストーン・ジャベリン相当の砲撃。砲撃は装軌車両自動車と同等程度のサイズがあり、初速は恐らく音速を越えている。発射間隔は5秒に1発程度。中級の盾では俺のINTでも1枚で防ぐのは不可能。下手に砕くと音速を越えた散弾となって酷いことになる。


「脳みそが足らないので、殆ど曲射をしないのが救いですね」


初速から言えばキロ単位で砲撃が可能だろうが、あいつが狙ってくるのは精々500メートルほどだ。

代わりに速度が落ちないので、砲撃されると地形が変わるレベルで地面がえぐれる。


「どうする?このまま目標の誘引を継続するか、それともカトプレパスの探索を行うか?」


そう問いかけてきたのはジェイスンさん。

クラン・アース狂信兵団をまとめてくれている3次職守護騎士で、今回も俺に変わって3台の装軌車両を率いてくれている。


「どっちも悩ましいですね。巫女が見つけた個体はカールであってるでしょう。おそらく見間違いが原因だと思います」


カトプレパスの特徴が共有できているわけでは無い。

あれだけ巨大なロックドラゴンだ。巫女が間違えて陸竜だと思っても仕方ないだろう。


「ただ、問題はアルヒェの民が見たのが、カールなのか、それとも本当にカトプレパスなのか分からない点です。もう一匹、アレよりバカでかいのが居るとなると……」


「挟まれたら地獄だな」


まさしく。単なるロックドラゴンですら脅威なのに、あんな化物を何匹も相手していられない。


「本隊との連絡は取れないのであるか?」


「こっちから向うへは、巫女が千里眼で見てるから伝えられるかもしれませんが、向こうからこっちへは手立てがないですね」


100キロ単位で離れている場所と連絡を取る術は限られる。

ギルドや国が管理している通信魔道具も持ち運べるようなサイズではないし、念話チャット魔術師の目ウィザード・アイの様なスキルも範囲外だ。


「もしカールとは別にカトプレパスが居た場合、本隊の方が襲われないとも限りません。巫女がカールに集中して観測を行っていれば、今本隊の索敵は手薄です」


バーバラさんの懸念ももっともだ。

こうなって来ると、もうアルヒェの民やエーデに帰還したグループを気にしている余裕はない。


「……まず、殿下たち本体に、対象がカトプレパスでない事を伝達しましょう。その後は部隊を2つに割って、片方は本体への合流を目指すのが良いと思います」


バーバラさんの提案に従って、狂信兵団の3車輛が北側回りでカールを引き付けながら西へ。俺達のメルカバーMK-3が南西の本体へ合流を目指す方針が決まる。


振動を感知するロックドラゴンの特性から、合流組は車両が少ない方が良い。かつ、『貴族の相手をしたい奴がここに居ると思うか?』というジェイスンさんの愚痴からそう言う割り当てになった。解せぬ。


「状況を上手く伝える手がありませんから、照明弾を上げます。ただ、細かい情報は伝えられないので、後は車両に大きな看板でも掲げるくらいしか……」


「少しだけ資材が残ってるから、そっちは俺がやるよ」


バーバラさんが騎士団で使われている色つき照明弾を打ち上げる。

こっちは予備のキャタピラ用木版に、簡単なメッセージを焼きつけて、4つの車両の目立つところに掲げた。


・遭遇したロックドラゴンは陸竜カトプレパスではない可能性が高い

・状況確認のため、リターナー以下3名が本隊と早期合流を目指す。誘導されたし


こんなものだろう。


「後は……いざという時のために、こちらの装備をいくつか提供しておきますね。場合によっては装軌車両は捨てることになると思いますので」


行軍マーチの腕輪、偵察機を兼ねたウィングビットと対になる制御リング、それに形態用の小型テント。ここにいるメンバーは個人の能力的には十分なので、支援できるものも限られる。

ウィングビットはホバリングが出来ないが、操作は通常のビットより簡単だ。装軌車両が使えなくなった時には、行軍マーチの腕輪やテントも役に立つだろう。

テントは断熱魔術を付与して在り、寒さにも暑さにも強い。日陰が無く、夜は冷え込むこの死の大地では重要な機材になるだろう。


……やっぱり収納空間インベントリの定着方法を教えてしまうべきか?

一人10キロ、水と食料を持てるだけで生存率が大きく変わるけど……これを俺が広めたと知られると、さすがに王国も黙ってはいない。


「それじゃあ後ほど。予定の合流地点で」


「ああ、気を付けて」


既に日が傾き出している時間だが、動き出すなら早い方が良い。

本隊の位置も速度と時間からおおよそしか分からない。時間が経てば経つほど、予定地点以外で合流するのが難しくなる。

俺達は影渡しシャドウ・デリヴァーで距離を稼ぐと、メルカバーを起動させた。

……何事も無く合流できることを祈って。


………………。


…………。


……。


□ザース攻略部隊・本体□


「……おとり部隊と陸竜が接敵しました」


巫女からその報告が入ったのは、出発して3度目の休憩の最中であった。


千里眼の能力制約で、動いている時には陸竜の位置を確認する事が出来ない。上空から見下ろす形でならかなりの視界を確保できるが、装軌車両はともかく、保護色のロックドラゴンを捕らえ続けるのは困難であり、こうして休憩の度に予測位置を探索する必要があった。


「状況は?」


「……動きが悪く、背中に乗り上げたようです」


「埋まっていたのか?」


「はい。原理は分かりませんが……」


「おそらく、泥沼と同系統のスキルであろう。ロックドラゴンは地中を進む際、周囲の岩盤を溶かして掘り進むという。進んだ後を再度岩盤にする分、デスワームミミズ共よりよほどマナーが良い」


「南の竜の話は今は良い。それより、おとりが接敵したなら速度を上げよう。こちらが予定位置につかない事には始まらない」


集まっていた全員がうなづき、即座に車両が再起動される。

出力を絞っていた蒸気タービンに魔力を注ぎ、大地を切る音を響かせながら車両の群れが走り始める。


移動を始めてしまえば、ワタルたちの様子を見ることは出来ない。

『このロックドラゴンはカトプレパスではない』。ワタルたちが掲げたそのメッセージに気づくことは無く、車両は死の大地を疾走する。

車体を揺らす振動が、自らが走るが故か、それとも地面が揺れている為か判断できぬまま……。


だから気づいた時には遅かった。


『……っ!?地面が!?』


ソレは進軍する一団の真下から現れた。

地面が急速にせり上がり、巻き込まれた装軌車両やゴーレム騎兵が足を取られて転倒していく。

それは鯨が行うブリーチングのように、硬いはずの大地を貫き、巨体が砂塵を巻き起こしながら巻き込まれた車両をなぎ倒す。


「グォォォォっ!」


その咆哮が天を衝く。

陸竜・ロックドラゴン・カトプレパスの襲来であった。


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□ウィングビット

飛行船エンタープライズに搭載された有翼ドローン。中に小型の人形が乗っていて、それを操作する事で間接的に機体を操作する仕様となっており、マルチコプタータイプのビットに比べると操作難易度が低い。機体の90%は木製。機体のプロペラでは離陸できない為、落下による加速か、カタパルトでの射出が必要。投擲でも何とかなる。


□あとがき

コロナ後遺症の咳が長引いたり、インターン生が来て仕事が増えたり、AC6傭兵稼業忙しかったりしていますが、少しづつ進めていきます。

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