第75話 秋魔の森にとばりを降ろす
□秋魔の森□
翌日、ところ変わって秋魔の森。
こちらのサーチに反応してたまに魔物が突っかかって来るが、そいつはサクッと撃ち落とすなり切り捨てるなりして奥を目指す。
今日はタリアのレベル上げが目的なので、他の人に迷惑が掛からない所が良い。
「……すでに足が痛いんだけど」
「靴がまだよくないからね。よさそうな場所まで着いたらヒールを掛けるから頑張ってくれ」
秋魔の森は針葉樹と落葉広葉樹が入り混じる雑木林のような環境だ。
低木も生えており、今は獣道を広げながら奥へと進んでいる。細い木や草は耐久力をあげた剣でステータスを生かして薙ぎ払えるので、進むのにそう苦労は無い。
「そういう事じゃなくてね」
「ここまでは背負ってきたんだから、贅沢言わない」
アインス周りは平原だからな。森にたどり着くまでに結構な距離がある。
ステータスにモノを言わせてタリアをここまで背負って走ってきた。これ以上望むものも無いだろう?
彼女のペースに合わせてゆっくりと、だけど着実に奥へと進む。
そうして1時間も歩くと、周りに冒険者の反応が無くなった。浅い所は担いで駆け抜けたから、木々が茂り始めるエリアからだと2時間分以上は奥に入っていることに成るかな。
「さて、この辺でいいかな。戦いやす用に広場を作るから、
良さげに平たい所を見つけて、スペースを確保するため、いったん彼女を安全地帯に退避。
エリュマントスの大剣を取り出して、細い木も太い木も根こそぎ切り倒していく。うん、便利。
薪や建材に使えそうな太めの木は枝打ちした後に
「……風と炎の
INTを継続時間に極振りした
森の中で火呪文とか山火事どうすんだって突っ込みをされそうだけど、今の俺なら
環境破壊?気にすんな。
「……300年の時を越えて尚わかるわ。恐ろしく非常識な力業ね」
「やる気があれば2次職ならもっとひどいよ?」
最大MPが普通考えられないほど伸びてるから出来る芸当だけど。
「魔力操作のレベルが上がって、さらにやりやすくなったね」
連日の封魔矢の作成で、魔力操作のレベルはついに3に上がっていた。感知も西門防衛後に2に上がっていた。
操作で籠められるINT量が300くらいに上昇したので、魔術がよりコントロールしやすくなっている。
「とりあえずこれ被って、100G銀貨で敵を寄せた後、
タリアに渡したのは頭がすっぽり入る籠。虚無僧スタイルだ。
彼女はレベル1状態、
封魔弾を打ち込んでも良いけど、そもそも戦うという行為を思い出してもらう必要がある。
「……うん、やってみる」
なんだかんだで緊張しているらしい。
聞いている範囲だと、
100G銀貨を放り出すと、近くにいる魔物が反応した。数は2。
先に来たのはネズミの魔物。その後ろに猿の魔物が見える。
「
後ろの猿の魔物を迎撃し、ネズミを拘束する。
「はい、どうぞ」
後はメイスを振り下ろすだけの簡単なお仕事だ。
一発では倒せないが、何回か殴ると良いのが入ってネズミはドロップへと姿を変えた。
「……レベルが上がったわ。
無抵抗なネズミを袋叩きにする感触に嫌悪感を覚えたようで、彼女は渋い顔をしている。
「お褒め頂き至極恭悦。さて、どんどん行こうか」
倒してはよせ、寄せては倒し、秋の味覚を回収していく。
二桁オーダーに成り、俺のMPが半分ほどになった所で休憩。すでにレベルは10を超えている。
こっちも戦士のレベルが10を超えた。
「ステータスポイントは予定通りMPに振っちゃっていいんですよね」
「うん、
とりあえず
丁度いい重さなので、エリュマントスの大剣を出し入れしていてもらおう。それをしている間に、今度は次の実験の準備をする。
タリアのラウンドシールドを借りて、
地面に押し付けて解除すると、触れている部分の石や土がすごい勢いで収納されていく。最大MPを圧迫するので一気に大量には無理だが、土や石は1つの物体として固まっていないからこれでお手軽に穴が掘れる。
そうして直径1メートル、深さ3メートルくらいの穴を掘ったら、100G銀貨を改めて用意。
「とばりの杖を使うのね」
「今のMPが500ちょっとだから、一回500までなら召喚できるはず。1日に回復するのが1500ちょっとだから、1000とか消費すると辛いけど……まあ、おためし」
最大でどれくらいの価値の魔物を召喚できるかもわからないしね。
「……サモン、ゴブリン!」
エリュマントスがそうしていたように、“力ある言葉”を唱えてコインに振れる。
そして穴の中へと投げ落とすと、あの時と同じように魔力が集まり、魔物へと姿を変える。
「
封魔弾を落とすとはじけて消えた。
「これはひどい」
「……タリアって日本への留学経験無いよね?」
なんでネットミームに汚染されてるんだろう?翻訳の所為か?
「とりあえず、減っているMPは100。次は500G大銀貨でやってみる」
同じようにゴブリンを召喚して、封魔弾で瞬殺する。
減っていたMPは変わらず100。そしてレベルは上がった。
「変化させた価値に対してMP消費が変わらないという事は、固定MPで高価値のコストを軽減しているタイプかな?」
錬金術製のアイテムにはこの手の動きをするものがある。
1Gの魔物を作りだすのにMP100は無駄遣いもいい所だが、少なくとも1000Gまでは100で行けるのだろう。多分だけど。最低100で、一定値を超えると増えるとかもあり得る。
「残りMP量的に後1回。1000G金貨で試してみるから、ちょっと
「……うん。いいんだけど……召喚するのはゴブリンなの?他の魔物も召喚できるか試したら?」
「ああ、そうか。……集合知で細かい魔物の名称は分かるけど、それと魔物側の呼称があってるか分からないな。……試してみるか」
何事も実験って大事。
「……サモン、トロピカルサマーバケーションオーク」
「ナニソレ」
突っ込みは気にしない。地面に落ちた金貨は、こん棒を装備したオークに姿を変えた。
どこにもトロピカルもサマーバケーションもなさそうだ。オークにだけ反応したかな?
「存在しない魔物は、一部だけの名称が有効かな」
ほんとに居ない魔物の名前を叫んだらどうなるんだろう。むしろそう言う名前の魔物を生み出したりしないか……怖いな。トロピカルサマーバケーションオークが生まれなかったから平気か?
「1000Gってかなり強い魔物よね」
穴の中でコインに変わったであろうオークに、タリアは憐みの表情を向けている。
無防備な状態で上から高威力のランス系呪文をくらえばね。1000G程度じゃ耐えられる理由はない。
「さて、MPが怪しいから、後はスキル定着のための、タリアはトレーニングに移ろうか」
その日はタリアが
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