第76話 戦士として戦ってみた
□秋魔の森□
レベル上げ開始から数日。
焼き払った広場を拠点に、目的とした秋魔の森での経験値稼ぎは大詰めを迎えていた。
「はひ……はひ……はぁ……はぁ……死ぬ……」
行軍を使ってのアインスからここまでのランニングは、タリアにとっては相当応えるらしい。
革のジャケットを脱ぎ捨てて、滝のように汗を流しながら肩で息をしている。
「……なんで……あんた……そんな平気そうなのよぅ!」
「なんでって言われてもね」
なんでだろう?
元々日本でも本格アスリートほどでは無いが、高校生の中では体力はある方だったと思う。
それにしたってと思うところはあるが、きっと異能の所為だろう。よくわからない能力は大体それの所為だ。
「とりあえず、しばらく休憩しているといい」
タリアがダウンしている間に、弓を取り出して練習を始める。戦士のレベルは37に達しており、無事に修練理解を習得した。
なのでこれまで手を出していなかった弓――標準的なショートボウだ――を購入して練習を始めていた。
「修練理解は良いな」
弓を構え、矢をつがえ、弦を引き、放つ。
この一連の動作のどこが悪かったのかを、修練理解は感覚で教えてくれる。構え方、手や足の踏ん張り、位置や角度、手を放すタイミングとその後の動き。ダメだった個所を一つ一つ修正していく事で、短期間で大きな技術向上を得られる。
昨日始めたばかりなのに、すでに10メートル先の的に当てことができるところまで来ていた。
「やっぱり構えてから放つまでの時間を掛けるとマイナスか」
修練理解の評価基準は実践仕様だな。弓の場合、速射も評価に含まれる。
しばらく弓の練習をしてから、次は剣の素振りへ。こちらも戦士になってから得た剣術知識と修練理解を参考に、速さと正確性を高めつつ型を繰り返す。
両手持ちから盾を持って片手持ち。次に盾術知識の型と動きを交えて、さらに繰り返す。
戦士で覚える〇術知識というのは、分類的には加護に当たる能力。
棍術、剣術、槍術、弓術、盾術、体術の順で習得でき、この情報をもとに訓練を繰り返すことで技術が習得できる。
身に着けると身体が勝手に動いてくれるようなスキルは無いので、武器の扱いについては地道な訓練が必要だ。
「……ふぅ。とりあえず一セット」
休憩を挟み、体術までの型を一通り繰り返してトータル2時間ほど。
程よく疲れており、身体もあったまっている状態だ。一度は魔物が寄ってきたが、そちらは訓練にも成らなかった。
「それだけ動いてちょっと息が乱れる程度とか、やっぱりスタミナお化けね」
タリアはいつの間にかテーブルとスツールを出して、森の中でお茶をたしなんでいる。
二つとも彼女の
「型だけだと、すごく激しい動きても無いし」
ステータスの補正のおかげで身体は軽い。もう気温も下がって来る季節で、快適に過ごせるように服には除湿機能を付与してある。こんなもんだろう。
「
「……まだまだよ。地味にこの出し入れをカウントしながら続ける作業辛いわ」
「俺も辛かった。その時の俺よりMPが少ないからもっと辛かろう」
「……救いは無いのかしら」
ないんだなぁ、それが。
定着のためには重い物を出し入れするのが良く、最大MPが多い方が試行回数が少なくて済む。慣れないとスキル発動に1秒2秒と時間がかかるから、店舗が合わないと余計に辛い。
慣れれば0.2秒くらいで出し入れできる。これはステータスの補正で思考速度が上がったりするのも影響があるのだけれど。
「ちょっと強めなの出して、トレーニングがてら戦ってみるよ。
「防具無しで大丈夫なの?」
「盾の服で十分なはず」
まあ、あまり強いのは出さない。
とばりの杖で召喚できる魔物は、最大で3000Gの価値までであることがここ数日の調査で分かっている。
今回召喚するのは、以前も戦った1000Gの相手だ。
「サモン、リザードマン精鋭剣士」
魔力が抜ける感覚とともに、トカゲの剣士が姿を現す。以前はスキル在りで一対三で戦った相手だ。
『キシャァ!!』
相手はすぐにこちらに気づいた。魔物武器を構えて突っ込んでくる。相手の装備は剣とラウンドシールドか。
先手をゆずる。振り下ろされた剣を盾で弾く。そこから横凪。これは盾で受けられる。
力加減をしているので押し切ることはしない。敵の掬い上げはステップで避け、再度の振り下ろしを剣でいなす。
違和感。いなしたはずの剣が横凪に振るわれる、スキル、
慌てない。腕をひねって2発目も剣で受ける。スキルで威力が上がっているが、この程度ならステータスで受けきれるな。
「
最近覚えた戦士のスキルを発動してカイトシールドを叩きつけると、リザードマンが吹き飛んで数メートルを転がる。
「
剣と盾を収納し、バックステップと共に弓と矢を取り出す。引いて速射。1発、2発、3発……。
素早く弦を引いて放たれた矢は2発が防がれたが、1発だけは相手の腕に突き刺さった。
「
向かってくるリザードマンに弓のスキルを発動。矢は盾を貫いて止まる。当りどころが良くてダメージにはなってないな。
即座に剣と盾にスイッチ。相手の斬撃に合わせて切り上げるようにスキルを発動。
こちらの斬撃が剣をはじき、リザードマンの腕を切り飛ばした。
『キシャァァァッ!!』
甲高い叫び。相手は咄嗟に盾を構えている。
槍や剣で突いた際に貫通力を上昇させるスキルを発動させると、突き出した剣は盾ごとリザードマンの身体を貫く。
それで終わり。煙が風に消えるように、リザードマンの身体は溶けて召喚に使ったコインだけが地面に落ちた。はい、完了。
「……余裕じゃない」
「うん。……でもダメだな」
スキルを使ってみたりしたけど、やっぱりこのスタイルだと自分と同格程度しか相手に出来なさそうだ。
ステータスを考えれば、
「詠唱魔術と
「そうね。急いで頑張って」
「……
タリアは嫌な顔をするが、何事も一朝一夕では無しえない。
よくわからないが
差し当たって、帰りのランニングからだな。
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