第285話 聞いた話を整理してみた

各々が5人のエルダーたちから話を聞いた後、俺達は『ここに滞在するならこの家を使いな』と案内された空き家で、互いの状況を報告し合っていた。


「結局のところ、彼らが俺たちの今についてそう興味がないってのは事実っぽいね」


「そうですね。基本的にこれからどうするのか、という話に終始していました」


俺の話に、バーバラさんをはじめ全員がうなづく。


「聞いた話をまとめると、エルダーを始めとするここの人たちは魔操法技クラフトを発展させた技術である魔術刻印をその身に宿して不老長寿となり、さらにその先、肉体を魔素で構成された存在に進化して、物理的な制約から解き放たれることを目標に修業を積んでいると」


「その物理的な制約から時放たれた存在を、神とか神使って呼んでるみたいね」


「うん。他のコクーンも集まってる人が違うだけで基本的には同じっぽいね。……彼ら全体を指す名前が無いからとても話しづらいけど……仮に進人類ネクストと呼ぼうか。エルダーやビギニングは、彼ら全体を指す名前じゃなかったし」


「ワタルは名前付け好きよね」


「名前は大事よ。さて、その進人類ネクストたちの目的だけど、同じ進人類ネクストを増やすことも目的としていて、その為の選抜試験が迷宮。迷宮を踏破してきたものを勧誘するなんてこともやってる。だから親切に色々教えてくれるわけだね」


親切過ぎて逆に怖い。新興宗教系の何かを若干感じたりするんだよな。


「基本的にはみんな魔操法技クラフトを発展させて魔術刻印を刻むのを目指せばいいって言ってたぜ」


「それが王道っぽいからね」


説明を整理すると、魔術刻印は職業で使うスキルや魔術の呪文書と呼ばれた魔術式を、自らの魂に刻む技。……ほかに良い言い回しが思い浮かばないから個々では魂としておく。

これによって、魔術やスキルを反射的に使えるようになったり、スキル封じ系の術が利かなくなったりすると。


俺達が職業についた際にスキルが得られたり、レベルが上がって強い力が振るえるようになるのもこの魔術刻印のおかげらしい。成人の時に神の奇跡で各自の魂に刻まれるのだとか。

現在刻まれている魔術刻印は、神界にある呪文書にアクセスするための物のみ。ステータスもこの機能を使って肉体の常時強化をしている状態。だから魔力操作でステータスの影響を抑えることが出来る。


悪意を持って力を振るう人類の対抗策として、スキル、魔術、ステータスの影響を完封できる封護官が居るが、彼らは他人のアクセスパスを閉じることで能力の抑え込みを行うみたい。4次職スキルのデバフ系は、逆に発動した魔術的効果を無効化する。封護官が人に対して強く、魔物に効果が無いのはこのためだ。


「この魔術刻印には、発展系?として魔導刻印というのがある。これは刻印を物体に刻む術。バーバラさんが勧められた奴だけど、俺達の武器を強化するのも多分これだとおもう」


使い込んだ道具の付喪神化は、おそらくこの魔導刻印を発現させることで行われるのだろう。

自らの肉体を魔素に置き換えて神界へ向かう際、思考能力を魔術刻印に置き換えるようなので、それと逆のことを行うのだと推測する。


「この作成に挑戦してみないかと誘われたのはバーバラさんだけ。順当なところですね」


「私よりワタルさんの方が向いている気がするのですが」


「俺の物作りは片手間だから」


冒険者の能力向上程度なら付与魔術で十分なのだ。魔導刻印が必要になって来るのは特殊なアイテムや3次職以上の装備。それが出来るようになるまで自分で訓練をするのはちょっと効率が悪いと思う。

出来ることは他人に任せて、俺は俺しかやらないことをするべきだ。


「あとは、普通に強くなるならレベルを上げろと言われたのである」


それが一番手っ取り早いのもまた事実。

アーニャが魔弾マナ・バレットを使えるようになるまで数カ月。職業システムを使って習得するなら精々一日か二日。どう考えても職業システムの方が効率は良い。


「ああ、そうだ。これ、受け取ってなかったら全員にって」


そう言ってアーニャが取り出したのは正方形の黒い石。ルービックキューブくらいの大きさで、表面に細かい紋様が刻まれている。


「これは?」


「魔力制御のトレーニングアイテムだって。えっとね、うまく魔力を流すとこうして一面の色が変わる。これが六面変わる様になったら、次のステップに進めるとか。一面クリアするのに、操作の試練と同じ技量が必要なんだってさ」


「……って事は単純計算で操作の試練の六倍難しいって事か」


「らしいぜ」


キューブの数は全部で五つ。一人一個使えという事なのだろう。

装備の強化にはしばらくかかるようだし、ダンジョン攻略の話もある。しばらくはここで訓練に努めることになるかなぁ。


「ワタルがあったもう一人は何か言ってなかったの?」


「……今出た話以上の事は無いよ。」


「なら、これで訊いた話は出そろったかしら。せっかく台所があるんだし、今日はちゃんとしたご飯を作りましょう」


「やったぜ!」


「楽しみであるな」


「……外でお酒を買って来ましょうか」


「ストックがあるから、今晩は平気よ」


ここでも飲むのか。……まぁ、危険もなさそうだし大丈夫だと思うけど。

この後、歓迎会をするという進人類ネクストたちに誘われて広場での宴会に繰り出すことになった。


………………。


…………。


……。


「少しお時間よろしいかしら」


みんなと合流する少し前の話。

鎧と人形をあづけてムネヨシ氏の工房を出ると、フードをかぶった女性に声をかけられた。


「死霊術師の貴方、二人でお話がしたいのだけれど」


「メリッサ、おめぇはココの住人じゃねぇだろ。勧誘はお断りだぜ」


「別にレスティリに勧誘しようって話じゃないわ。単なるお仕事。いいでしょう?」


「……好きにしな」


「と、いう事だけど、少しお時間貰える?」


「俺ですか?……構いませんよ」


「それじゃあ、場所を変えましょう」


そう言われた瞬間、俺は光に包まれていた。

そして気づいた時には、餅の中に立っている。これは……転移魔術!?


「ごめんなさいね。あの場で話すのもあれだからちょっと場所を変えさせてもらったわ。ここは祭壇から少し離れた森。そっちの小屋に、迷宮の修復に使う素材なんかを置いてあるのよ」


声をかけられて周囲を見回すと、確かにすぐ横に結構な大きさの丸太づくりの小屋あった。

余りに転移が一瞬で反応できなかった。発生も無かったし、影渡りシャドウ・トリップよりもずっと早い……。


「いや……どうしてここに?」


「お仕事がだから。貴方が持っている迷宮で回収した遺体、出してもらえるかしら」


そう言って彼女はフードを取った。輝く銀色の髪。とがった耳。整った顔立ち。典型的なエルフ。

……ここにいるならハイエルフと呼ぶべきだろうか。

彼女はこちらが戸惑うを意に介した様子も無く魔術を使う。ひとりでに小屋の扉が開き、中から棺が三つフワフワと飛び出してきて整列した。

その棺が開くと、中には小さな骨が一本づつ入っている。


「これは?」


「貴方が回収した遺体の一部よ。3人分で良かったわよね。その骨、一応迷宮の備品だから、修復して再配置しなきゃいけないのよ」


「備品って……遺体ですよね」


「ええ、そうよ。ほら、早くして。時間がもったいないわよ」


急かされるままに遺骨を分けた袋を取り出して並べる。

彼女は杖を取り出して振るうと、袋から骨が飛び出して踊る様に棺へと戻っていった。そこから更に何かの魔術を使ったようで、かけていた骨たちが適度に再生していく。


「これでよし。後は守護兵ガーディアンに再設置してもらえばいいでしょう。あ、ベースを残しておかないと」


そういうと彼女はあばら骨の一部を折り、それを別の袋に入れた。


「えっと……遺体ですよね?」


「そうよ。迷宮に挑み散っていった哀れな犠牲者。最近はめっきり減ったから、再利用させてもらってるのよ」


「……せめて埋葬すべきでは?」


死霊術師ネクロマンサーがそれを聞く?彼らは義体アーティフィシャル構築ボディ・リ・ビルドで体積増やしてるから、元の成分何てほとんど残ってないわよ。人格再填リ・ロードは使っても再臨させられなかったでしょう?」


「……それも見ていたのですか?」


「いいえ、なんとなく。操作の試練でレベルは判るから。大事に回収するくらいなら試したのかと思っただけよ」


むぅ、かまをかけられたのか。


「……なぜこんなことを?」


この一連の流れが腑に落ちない。

そう問いかけた俺に、彼女は『これは安全装置だから』と答えたのだった。

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現在4話公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!

アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

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