第297話 仮初の命――亡者の再誕――

「おのれ悪魔め!何度目だ!」


「お前が死んだ回数を数えるんだなっ!」


五月蠅く叫ぶ悪霊王ワイトキングを切り倒し、レイス共が消失したことを確認して一息。

6階層でのレベル上げを開始した翌日、何度目か分からない幽霊部屋の攻略を終えて息をついた。

昨日今日でもうすぐ二桁にいくほど倒したはずだし、そろそろレベルが上がっていても良いはずなんだけど……。


「っと、上がってる!これで死霊術師のスキルを取り終えた!」


クロノス王都を発った冬の初めに死霊術師に成ってから……半年弱。途中で侍を極めし者マスターして居たりもしたけれど、ようやく50レベルに到達した。


「レベル上がったのか?」


「うん。これで次に進める。もう数回ゴーレム回る?」


今日は俺とアーニャの二人で大ゴーレム部屋と幽霊部屋を往復していた。

高速移動と魔操法技クラフトで内部から敵を破壊できるアーニャは、ゴーレムと比較的相性が良い。俺はサポートを受けながら今日も既に4体を狩っている。レベルも2つ上がった。


「MPが減ってるから良いかな?コクーンに戻ってスキルの検証だろ。あたしは二人と合流するよ。そしたら姉さんもゴーレムを狩れる」


俺達とは別にタリアがコボルト地獄に、コゴロウが孤独な竜戦士にそれぞれ挑んでいる。

コボルト部屋はタリアが近接戦の訓練を積むのに都合が良く、竜戦士ロンリーはコゴロウにとってかなり歯ごたえのある相手で、技を磨くのにもちょうどいい。

アーニャが加われば大ゴーレム部屋を攻略できるだろう。レベルも上がる。


「んじゃ、合流しよう」


無限コボルトに行くと、タリアがちょうど耐久戦をやっている最中だった。

槍を使ってばっさばっさと敵を薙ぎ払っている。修練理解のおかげで、動きがだいぶ洗練されてきているな。


二人にも声をかけた後、コクーンに戻る。裏道で影渡りシャドウ・トリップを使えば、6階層を往復するのにかかる時間は10分足らず。転送陣から丘の上の祭壇へ、そこから神殿そばの修練用広場へ。どうやら今日は誰もいないらしい。


「それじゃあ検証を始めましょうか」


「はい、こちらは覚悟はできています」


アルタイルさんを召喚して、新しいスキルを試すことを伝える。

仮初の命は、亡者に対して屍体操作コープス・マニュピレイトのスキルの影響下にいなくても自由に動けるようになる仮初の命を与えるというもの。


屍体操作コープス・マニュピレイト人格再填リ・ロードの組み合わせだと、俺のスキル効果範囲から外れると急速にMPとHPを消費していき、効果が切れると物言わぬ骸に戻ってしまう。


仮初の命を懸けた場合、まず俺の継続MP消費が無くなり、さらにスキル範囲から外れた場合の亡者のMP消費が穏やかになる。そして自身でMPを回復できるようになる。

効果時間は不明。というかこのスキルの詳細が良く分かっていない。おそらく3年前の次点で詳細を分かっている人物がいなかったのだろう。集合知に情報が無いのだ。

こればかりは検証するしかない。


人格再填リ・ロード状態で仮初の命を使えば、人格再填リ・ロードはそのまま維持されるはず。人格再填リ・ロード無しだだと、全く関係ない無垢なる人格が宿るとか。当たり前ですけどこのままやります」


人格再填リ・ロードをかけていないと、生存本能のままに周囲を襲う無垢なる亡者ゾンビが生まれるらしい。なんに使うんだか。


「よろしくお願いします」


俺はアルタイルさんにうなづくと、攻撃魔術などよりさらに長い詠唱を始める。


「……祖は万色不定なる光の一片。生まれ落ちたるは儚き奇跡。すべては仮初。すべては夢幻。それに形は無く、意味は無く、生も、死も、ただ巡る理の一つなり」


詠唱と共に、大量の魔力が渦巻いていくのが今ならわかる。


「されどここに意思はあり。それは魂を定めし形。仮初は仮初のまま、幻は幻のまま、紬ぎ、刻み、我が同胞をただ一時、理の中に落とさん。礎たるは我が魔素なり。迎えたるは冷たき骸なり。求めたるは生への渇望なり。失いたるは死の安寧なり。続く道は終焉へと至る。されど功績は地に刻まるる。ならば汝はここに在れ!仮初の命リ・ボーン!」


スキルの発動と共に、複雑に絡み合った魔素の奔流がアルタイルさんの身体へと流れ込んでいく。

それは彼の人格を再現した術式を飲み込み、彼の肉体の奥深くに刻みこまれ、やがてそれを中心に魔力は循環を始めた。


「……ふぅ……どうでしょう」


消費したMPは150ほど。普通の死霊術師なら日に何回も使える魔術じゃないな。

派手な効果があるわけじゃないし、見た目には変わったように見えないが……。


「……すぅ……はぁ…………空気が……美味しいですね」


彼はしばらくして光り輝く天井を見上げ、そう答えた。


「……鈍かった感覚が、元に戻っています。生前意識したことはありませんが、おそらく遜色はありません。体に違和感はありません。これまでは魔力で無理やりに動かしているような感覚が多少ありましたが、今は筋肉が動いているのを感じます。身体は冷たいままですが、血液の代わりに魔素が身体の中をめぐっているようです」


「違和感がないなら良かったです。HP、MPはどうですか?」


「……今は満タンですね」


二人でステータスを見ながら消費を確認すると、俺の継続MP消費は無くなっていて、アルタイルさんは1分にMP1消費するようだ。彼のMPだと、全く使わなくても10時間くらいが活動限界か。

ディアナの首飾りを装備していれば、実質的に無限に活動できる。


「えっと……MPを回復する手段としては魔素の多い物を食べるとか、それから魔物を狩るのでも溜まるようですね」


条件はどこかの文献に記されているのだろう。集合知で知っている人がいる。

ただ、どの程度の効率なのかは分からない。


「検証してみましょう。魔物の召喚をお願いできますか?」


「ゴブリンで良いですよね?」


「ええ、問題ありません」


アルタイルさんは近接戦闘用のメイスを取り出す。彼は魔術師なので、とばりの杖で呼び出すのは100Gのゴブリンだ。


「はっ!」


召喚されたそばから殴り倒される不幸なゴブリン。

頭をメイスでかち割られて、あっさりコインに戻った。


「……今ので満タンまで回復しましたね」


「100Gの魔物でも10以上回復するって事ですね」


「その様です」


「それじゃあ、MP減らして試してみましょう」


今度はアルタイルさんにとばりの杖を使ってもらう。

MP100を消費して、同じく100Gのゴブリンを召喚。殴り倒してステータスを確認すると、96ほど回復していた。かなり多い。

50G魔物を召喚して殴り倒すと98回復。200Gの魔物の魔物を倒すと93。

・・・・・・強い魔物を倒した方がMPの回復量が少ないってどういうことだ?


「……これは良くありませんね。多分ですが、杖で使った魔力を回収している感じがあります」


「杖を使わずに検証しましょうか」


そうなって来ると迷宮に行くか、それとも外か……外だな。

迷宮の魔物はそれはそれで特殊。ややこしいので野良の魔物を狩ってみよう。


「ついでに、何人か魔術師系に転職してMPを上げましょう。MP消費が1分1点で確定なら、近接職は最大MPが少なくて自由に動けません」


迷宮外の村にも簡易神殿があるし、そこで転職してもらって、踏み出す者アドバンスのボーナスポイント定着で最大MPを上げて行こう。

借家に書置きを残して、転送陣からデルバイへと戻ったのだった。

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仕事が立て込んでいるため、今週もお休みを日曜日から金曜日に移すかもしれません。

よろしくお願いいたします。


現在4話公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!

アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

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