第92話 三人の戦い

「ブギーマンは俺が!タリア、二人をサポート!」


三方を自分たちで火の海にしたのち、そう叫ぶとは不死者の王に向かって飛び掛かった。


ステータスが飛びぬけているワタルがブギーマンの相手をするつもりなのだろう。おそらく私たちを守りながら戦うのは厳しいとの判断。だとすれば残りの魔物はこちらで処理しなければならない。

即座にそう判断したタリアは、二人に向かって叫ぶ。


「雑魚を蹴散らして、ワタルから離れるわよぅ。こっちが狙われたら邪魔になるわ」


手近な気持ち悪い化け物にメイスを振り下ろして吹き飛ばす。


「くっ、しかし!」


「自分の面倒くらいは自分で見るのっ」


湧いた瞬間は無防備なためか、近くに強力な魔物は出現していなかった。

タリアのメイスなら防御されても一撃で、他の二人でも数手で倒せる程度の魔物。しかしそれは近くにいるものだけ。いつあの炎の渦から強力な魔物が飛び出してくるか分からない。


「大気に満ちる魔素の精霊さん、お願い、歪んだ魔力を打ち払って!解呪ディスエンチャント!」


ワタルは力押し一辺倒でない魔物との戦いを警戒していた。眠りや毒などの状態異常のほかに、幻惑や感覚阻害などの魔術も、耐性が無い現状では致命傷に成りうると考えていた。

その対策の一つとして、タリアが上がったレベルで取得したのが、精霊による魔術の無効化であった。


魔術の発動で、近くに沸いた数体の魔物が消える。実体の無い幻影であった。


『私の力で消える程度の幻影を混ぜるなんて、ずいぶん狡い事するわね』


そう思いながら、とびかかってきた首の無い猿を叩き落す。

周りを飛んでいるハエや蛆はオプションだろうか? 倒せば消えると分かって居ても触りたくないわね。

タリアは顔をゆがめてメイスを振り下ろし、また一匹、魔物をドロップへと変えた。


「道を戻って!ええっと……猛き炎の精霊さん、炎を集めて爆ぜて!爆破ボム!」


封魔弾によって発生した火旋風ワール・ファイアの炎が収束して爆ぜ、残っていた魔物たちを吹き飛ばして消える。炎に包まれていた街道が開ける。


「ぐっ!なんという威力……」


「ワタルの炎を使っても一匹残った!」


タリアが使ったのは、周囲に発生している炎を収束させ、爆発的燃焼に変える魔術。

火旋風ワール・ファイアのように大量の炎が発生している状態でなければ効果を発しない術であるが、INTの高いワタルの魔術を踏み台にすればそれなりの威力が得られる。

それを使ってなお、倒れていない魔物が居る。


「ヤケヨ。酸の雨アシッド・レイン


どろどろの液体が人型を取った魔物。腐った水スーイジと呼ばれる種の魔物である。


「こいつっ!」


魔物の魔術と、リネックが投げた短剣が交錯し、短剣はボロボロになって地面で砕けた。

だが魔物がそれに気を取られた結果、三人は噴出する液体をギリギリで避けて間合いを詰める。

左右の火旋風ワール・ファイアが消える前に、囲まれている状態を脱しなければならない。それは共通の認識だった。


影ぬいシャドウ・スティッチ!」


斬撃スラッシュ


ロバートとリネックの二人が連携してスキルを仕掛ける。

影ぬいによって回避を封じられた魔物の身体は、斬撃によってあっさりと真っ二つに切り割かれるが……。


「グッ!?」


同時に振るわれた腕がローバトを捕らえた。

アンデットは消えなければ止まらない。特に実態があやふやなタイプの魔物は、ダメージを入れた所で、それで隙ができるような魔物では無かった。

如実に経験の差が出た形である。


封印解除レリーズ!」


しかしその経験差は人数で補える。

ふらついたロバートを、タリアは即座に封魔弾で回復する。二人が接近戦を挑んだ時点で回復以外できることが無くなった彼女は、とりあえずで封魔弾を準備していた。なんなら自分に使うつもりだった。それが功をそうしたのだ。


「この!十文字切りクロス・スラッシュ!」


二度目のスキル。これまでの攻撃でダメージを受けていた腐った水スーイジは、水がこぼれるように溶けて消えた。


暗黒爆撃ダーク・ブラスト


ドゥンッ!!


三人の背後でブギーマンの魔術が爆ぜ、弾けた闇がゆがんだ爆音とともにワタルを飲み込んだ。

二人は振り返って足を止める。タリアは振り返らない。

エリュマントスの中でワタルの戦いを見た彼女は、訓練と称して戦った二人以上に彼の強さを理解していた。


「ほら、はやく!」


炎の嵐が消えていく。

焦げた臭いの立ち込める左右の森から、焼けた大地をものともせず2体の魔物が姿を現す。


一つは四本腕の骸骨兵。それぞれの腕に無骨な鉄の剣を携え、光の宿らぬ瞳をこちらに向けて笑う。まがい物の神遺兵デミボーン・アスラ

一つは身の丈2メートルを超える熊。その身体の要所要所から、狼、猿、虎、鼠、猪の頭が生え、背には蝙蝠の翼が生える。そしてそのすべてのどこがか欠けて鎖落ちている。百分の一の死獣ロトゥン・カオス


どちらも1000Gは余裕で超える、タリア達3人には過ぎた相手だった。

さらにその奥には何匹か、範囲に入らなかったであろう魔物たちも見える。


「……二人で骸骨の方相手に出来る?」


「やりますけど、まさか熊の方一人でやるとか言わないですよね」


「そのつもり。多分あっちは私の手には負えないから」


戦闘経験の少ないタリアにとって、まともに武器を持っている骸骨兵は脅威だった。戦うならまだ獣の特徴を備えた熊の方がマシである。


「ロバートの負担が大きいですが、防御に徹して確実に削っていくしか」


「悠長なことをしているとお替りが来るわよ」


四魔将についてはワタルから聞いていたし、エリュマントスであった時の知識もある。

召喚士系であるブギーマンが、隙をみてまた追加で魔物を召喚するのは想像に難くない。今できるのは、数で圧倒されないよう目の前の魔物を迅速に処理することだった。


「リネックさん、これを。ワタルの特性、ランス系封魔弾。使い方は知ってるよわね。私じゃ巻き込まずに打てる自信がないから」


タリアはまだ封魔弾の扱いになれていなかった。

キーワードを唱えてぶつけるだけの封魔弾であっても、威力が高すぎるランス系は取り扱いに注意が必要だ。ついうっかり発動範囲内にロバートが入っていれば、それだけで致命傷になりかねない。

連携技術が全く足りてないタリアにとって、急速なレベルアップで肉体をコントロールしきれない現状で、味方を殺しかねない力は震えない。


逆に封魔弾を使えれば倒せない相手ではない。少なくとも、3000G程度なら2発も直撃させれば倒せる。

問題は当てることができればだけど。

やるしかないと覚悟を決めて、熊の魔物と相対する。


「……手早く片付けて援護する」


「期待してるわよぅ」


魔物たちはが雄たけびを上げながら、3人めがけてまっすぐに襲い掛かって来るのだった。

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