第425話 秘密兵器を見直してみた①

「どうにも煮詰まってるから、出来ることを整理しようと思う」


 弥生の修理が終わってからさらに数日。地上の移動班はそろそろ旧ザース領から旧クトニオス領へ差し掛かる、と言った頃合になっても戦力強化のアイデアが思ったように出ず、俺は思わず両手を上げた。


 弥生が戻ったことで、修理した蛸の足オクトパスにスラスターを換装して飛ぶことが可能になり、飛行装置の自由度はかなり向上した。

 ただ、弥生に操作を任せると俺との意思疎通が必要になり、なかなかうまい連携が出来ない。

 それもそのはずで、ベースが鎧と人形である弥生には、当然『飛ぶ』という感覚は存在しない。なのでどうしても動きがぎこちないというか、意図しない動きをして当人が混乱するらしい。お試しで墜落しなかったのは、長いアームのおかげだろう。

 結果として思うような性能には至らず、思いつくアイデアは出尽くしてしまった状態だ。


「試作品も合わせて、今使えそうなものを集めてもらえる?俺はちょっと長老に預けている物を取ってくる」


 バーバラさんにそう頼んで、危険だからと長老の下に預けた対物ライフルモドキの砲身や砲弾を回収させてもらう。

 試作したまま使わなかった物も合わせて、結構な数のビックリドッキリメカが並ぶ。

 何気に見たこと無いのもあるな。バーバラさんが作った物かな。


「どれから見ていきましょう」


「まずはメインウェポンからかなぁ」


『うちらやな』


 陽刀・石斬り『睦月』、陰刀・霞斬り『如月』。長さとしては太刀に分類される姉妹刀。


 睦月はもともと切れ味を自在にコントロールできる武器であり、魔力を籠めることで切れ味を増強させ、また特定の物のみを切るなんてことも可能。

 付喪神となった今その能力はさらに増しており、能力を十全に引き出せば鉄鎧を紙のように斬り捨て、2次職・3次職用に強化された武器防具も意味をなさない。ボガードの奥の手、ゴブリンの王剣すら容易く斬り捨てた。欠点は一定時間全力を出すと、しばらくは能力が落ちること。どうやら『能力が変化する』という特性が、太刀としての在り方と相性が悪いらしい。8割能力でも鉄塊を切り裂くことが出来るので、ある意味過剰性能の所為ともいえる。


 如月は魔力を斬ることに特化した武器であり、魔術やスキルを発生した事象ごと斬り捨てて打ち消すことが出来る。攻撃魔術を切り捨てる、ゴーレムを土に返す、防御スキルの影響を無視して切り付けるなんてことも可能。

 付喪神となってからの成長によって、打ち消し効果を俺の放つスキルに付与して飛ばす事が可能に成った。飛翔斬などの剣を起点とした遠距離攻撃スキルに『雲散霧消』の効果が乗り、着弾した周辺の魔術を打ち消したうえで斬撃でダメージを与えることが可能になった。もともと『雲散霧消』自体がある程度範囲を持って発動できる術なので、順当に、そして強力に進化したと言える。斬らなくても打ち消し効果が発動するため、敵のスキルを打ち消して防御するのにも活躍する。


「付喪神になった二振りの能力は多彩で良いですね」


『もっともっと強くなるで』


『お姉ちゃんに負けないよう、わたしも頑張るよ』


 二振りの成長はムネヨシ氏も予想していなかったほどだ。ステータスを見ることはできないがチートと呼ばれた異能努力は必ず報われるの影響を受けているのかも知れない。


「バーバラさんの手甲はボラケで作った物だよね。ステータス参照だけ?」


「魔導刻印を学ぶ傍ら、術式を埋め込んでありますよ。ワタルさんの太刀ほど強力なものではありませんが……」


 拳を握った状態で魔物を殴ると魔弾マナ・バレットが、伸ばした状態でチョップのように打ち付けると斬撃スラッシュが自動で発動するらしい。付与魔術の魔力自動収集と同じ機能があり、MP消費無しで使えるらしい。何気に凶悪じゃない?


「あとは、シューズに対地鋲クリート衝撃反射リフレクションが仕込まれています。こちらは刻印を学ぶ過程でタテマル師匠が施してくれたものになりますが」


 対地鋲クリートは、いわゆるスパイクシューズを履いたようになる中級補助魔術。ステータスが高く成った際、速度が出ても滑らなくなる。転じて、雪の上でも滑らないなどの効果もある術だ。


衝撃反射リフレクションは珍しいね」


「効果的には30%反射くらいらしいので、衝撃反射リフレクション・弱といったような効果ですが、わかるくらいには身体の負担が減って助かっていますよ」


 衝撃反射リフレクションは物理的な衝撃を、反射する形で軽減する上級防御魔術。INTに応じて反射率が決まるが、要求値が高いことと、魔弾マナ・バレットを始めとした起爆型の術は防げないなど、制約が大きい。既定のINTを満たした場合の反射率が50%のはずだから、30%は規定値に達していない。それでも地面を踏みしめる力や蹴りの威力が3割増しは中々強力だ。


「刻める?」


「すいません、まだ無理です」


「残念」


 エルダーたちは魔物との戦いに積極的に関与しないから、タテマルさんに刻んでもらうのは難しいだろう。バーバラさんが出来ればよかったのだけれど、一朝一夕でどうにかなる話ではないか。


「次は鎧と鋼鉄傀儡・フェイスレスの合いの子、弥生。蜘蛛の足スパイディ蛸の足オクトパスを使いこなす、俺の分身」


『およびですか!』


『いや、話の流れで呼んだだけだから』


『ぅぅ~、そうですか。残念です』


 そんな悲しそうにせんでくれ。


「自動で攻撃も防御もやってくれる子ですね」


「うん。俺のステータスを参照してるから、硬くて強い。そして器用」


 俺が鎧を身につけていれば、蜘蛛の足スパイディ4本、蛸の足オクトパス4本、自分の手足部分4本の計12本の腕と足を器用に操る。芯が入って居なくても良いので、俺自身の手足4本も別に使うことが出来る。覚えたシールドなどの魔術を自動で使ってくれるので、攻めて良し、守って良しの万能鎧だ。自らの収納空間インベントリに各種オプションを収納することも出来る。

 ただし人格としても幼く、技術的にはまだまだ。例えば剣の技術は無いに等しく、ステータスによる力押しがメインとなる。こればかりは経験が足らないのでどうしようもない。


「鎧ですからね。そもそも攻撃機能があるのがどうかしています」


『おかしいですか?』


『おかしくなんかないよ。弥生は弥生さ。それに外骨格だと思えば……ね』


 人形が混ざっているので自己意思を持ったロボットに近いと考えれば、まだまだ常識の範囲内のはずだ。……アニメや漫画での、という注釈が付くけど。


「バーバラさんの防具は変わらず?」


「こちらも、ここで学んだ技術を使って多少強化していますよ。タリアやアーニャ、コゴロウさんの防具も、それぞれの要望に応じて少し手を入れています。ただ、変わったことは出来ていませんね」


「防具は安定性が重要だから、それでいいんじゃないかな」


 ボガードとの戦いで分かったのは、10万G準ミリオンズ以上の攻撃は受けるべきではないって事。あいつは徒手空拳の能力はそれほどでもなかったが、剣が強力で鎧が役目を果たさなかった。邪教徒の中には3次職の者もいるだろうし、出来る限り攻撃を受けない様に立ち回るべき。……その観点なら、AGIやDEXを上昇させる効果を付与するほうが良いのか。


「私が衝撃反射リフレクションを刻印できれば、皆の防御力を高められるのですが」


「タテマルさんに出せる交換条件も無いし、無いモノねだりをしてもしかたないよ」


 ああ、でも対地鋲クリートはうらやましいから、後で弥生に掛けてもらおう。弥生の……というか、付喪神のいい所は、影響を受けた魔術やスキルを学び取って自分で再現してくれるところだからな。何回か試して、感覚を掴んでもらえば、成長に合わせて使えるようになるだろう。


「さて、次に行こう。人形のほとんどは鎧と統合されたから、残ってるのはこいつら。ビット、ウィングビット」


 マルチコプタータイプのビットと、グラインダーのような形状のウィングビット。ウィングビットは2種類あり、戦闘機タイプと爆撃機タイプ。これらは最近改良し、直径5センチほどの小型スラスターを搭載した。スラスターを使うとどちらも姿勢意地が難しくなるが、最高速度の上昇や、意表をついた動きは取れるようになった。

 ビット、つまり人形操作ドール・マニュピレイトで出来るのは、俺が使えるスキルの遠隔発動と、封魔弾の封印解除レリーズ、それに魔道具の機動など。人形操作ドール・マニュピレイト自体が術者の分身となる人形を操る術なので、人に出来ることはほぼできる。ただし詠唱魔術は発声機構が無いから使えないし、起点にすることも出来ない。


「正直、私はこれを扱えるのが驚きです。集中して1つ飛ばすならわかりますが……」


「INTが増えても1度に動かせる数に制限があったから、多分イメージの問題なんだろうね」


 人形操作ドール・マニュピレイトの基底INTは20。今なら100体ぐらい飛ばせてもいいはずなんだけど、実際には出来ない。多重処理マルチタスクの限界か、人形操作ドール・マニュピレイトの限界かは不明だけど、付与したマジックアイテムをバーバラさんやタリアが使っても、頑張って2つが限界だから、INTとは別に制限がありそう。アーニャはもう少し数を動かせるので、頭の柔軟さというか、イメージの問題がと思ってる。ビットの動きは、アニメや実在のドローンを見ている俺の方がイメージしやすい。それでも数が増えると追いつかなくなる。


「そう言えば、これから収納空間インベントリであの強力無比な弾丸を打ち出すとか、そもそも砲身を付けるのは出来ないのでしょうか」


収納空間インベントリは狙いが定められないし、砲身を付けても反動で吹き飛ぶから難しいね。それこそ衝撃反射リフレクションが100%の精度で付与できれば可能性はある、くらいかな」


 収納空間インベントリからライフル弾を放つのは強力だが、方向を定めるためには取り出す面を定義しなければならなくて、それが結構難しい。俺も人差し指で指さした方向以外に狙って当てるのは無理で、結構変なところに飛んで行ったりする。あの威力で狙いが定まらないのは怖すぎる。

 砲身を付けるのは無謀。機体が重くなるし、打ち出した時にはもろに衝撃が反射される。以前試してみたが、威力を抑えた魔弾マナ・バレットでもビットの方が吹き飛ぶ。飛ぶのはそれくらい難しいのだ。


「つまり永続付与で作ったマジックアイテムや、反動の無い魔道具を使うのがベストなんですね」


「そうだね」


 魔道具の中には魔矢マジックアローを打ち出すクロスボウの様なものがあるが、その手のアイテムは固定威力か、良くて使用者の能力依存だ。それなら俺の付与の方が強力である。

 ビット関連は多少だが強化されている。クロニオスで邪教徒の拠点に攻め込む時には、これとは別ベクトルの戦力増強がしたいところだ。


「さて、次に行こうか」


 残りは使用を制限している対物ライフル系と、見たことの無い装備シリーズだ。

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