第426話 秘密兵器を見直してみた②

「まずは分かって居る所から確認しようか。ライフル銃身と呼んでる鉄パイプ。今は打ち出す弾丸によって2種類ある」


 最初に作った100ミリ対物ライフル弾用の物と、さらに弾丸を大きくして砲弾まで強化した120ミリの物。すぐに使える状態の物はどちらも3本づつ。今の俺では愚者の時間タイム・オブ・ザ・フールにしか作れず、一度使うと再利用できない問題作。


「打ち出す弾は100ミリが人造魔鉄、120ミリが人造アダマンタイト合金。砲身にも人造アダマンタイト合金を使ってる」


 上級魔術を付与するために、120ミリ弾には魔導銀ミスリルも混ざっている。砲身、弾丸の作成と付与に1分以上かかるので、1日に4~5発ほどしか作れない量産性の悪い武器だ。


「代わりに威力はけた違いですよね。魔術の衝撃で質量弾を押し出す構造もシンプルです。……砲身が壊れるのは過剰なエネルギーがかかっている為だと思うのですが……そこを改善できないのでしょうか?」


「俺の魔力制御の技量だと愚者の時間踊った後でも無理。そもそも魔術は、威力の上昇と共にサイズも大きくなるじゃん。サイズ元のままで威力だけ上げる、は一応出来るけど、この方針に合わせようと思ったらサイズは元よりもっと小さくしないと。その調整をしようとすると威力まで一緒に下がっちゃう」


 火薬などの爆発は周囲を押しのける形で衝撃が連鎖するが、多くの魔術は効果範囲全体に同時に力がかかる。元々起爆型の術で無理やり押し出しているわけだが、その特性上、術によって発生した力は効果範囲の空間全体を押すことになるため、純粋な術の威力程度しか弾に乗らない。このため術の威力が下がると、弾の威力も下がってしまう。


「さらに言えば、熱による周辺空気の膨張を狙って火炎球ファイアーボール炎裂砲フレイム・カノンを使ってるけど、威力を落とすとやっぱり性能は下がって、砲身を持たせようとすると実用には厳しいレベルになっちゃうかな」


 1次職の武器として銃を作るなら十分だけど、3次職以上が相対する難敵に使と考えると豆鉄砲だ。


縮爆風バースト・エアはどうでしょう。アレは空気を破裂させますよね?」


「圧縮するための空気が十分に集まらないと、術が発動しないっぽい」


 バーバラさんがスラスターにも使った縮爆風バースト・エアは、炎を帯びない火炎球ファイアーボールのような術。目には見えないが、ボール状の空気の塊が炸裂して周囲に衝撃をまき散らす術だ。この術は周囲から圧縮する空気を集めるため、ある程度開口部のある空間じゃないと発動してくれない。

 この開発を行っている最中に、長老に頼んで密閉された仮想空間で術の働きを検証してみたことがある。ある程度の広さ以上になれば発動はするが、発動瞬間の周囲の気圧が瞬間的に減圧されてヤバいことになった。


 その匙加減が難しい。


「圧縮ですか……」


「水中で縮爆風バースト・エアが使えないのとか、空中の相手に土縛手アース・ハンドが届かないのとかと同じだね」


 あんまり気にしたこと無いけれど、この手の制約はいくつかある。しかし多少なりとも物理法則を理解していれば問題は無い話だ。


「そもそもあんまり表に出したくない技術だから、手を入れるのは保留かな。次に行こう」


「……そうですね。えっと、こっちは修練用武器ですね」


「クッション付きのやつね」


 長老に頼んで仮想空間で模擬戦をした方が良いので、今はあまり使っていない。


「その隣が試作品の未使用武器ですか?」


「そうだね。量産品の切れ味・耐久力強化の剣、加熱や冷却を付与した剣、ステータスを強化する剣……切ると同時に治癒ヒールが発動する何て変わり種もあるけど」


「用途がかなり限られますよねそれ。……やはり剣が多いですね」


「使いやすいからね。槍やメイスも少しだけあるけど半分は死蔵品かなぁ」


 たまに冒険者ギルドや各地の領主に流してはいるけれど、誰でもそれなりに使える武器は扱いが難しい。だれでも使えるって事は誰にとっても価値があるって事で、魔物化した時の危険度が高い。1次職が持てば強力な武器だけど、魔物の手に渡ると1万G級オーバーサウザンツが生えて来る危険な装備だ。経験が浅い者に渡ってうっかり流出、なんてことになったら大事。そのくせ使用者にガチガチにフィッティングしたステータス参照武器の方が強力だがら、1000Gサウザント級に後れを取ったりしない2次職後半には価値が無い。


 亡者のみんなの装備は、すでにバーバラさんが作成した武器に入れ替えてある。一応数を揃えてあるけれど、量産品の装備を加工したこれらの出番はそうそうないだろう。


「俺の手持ちはこんなもんで……そっちがバーバラさんの試作品かな?」


 亡者装備以外は作るだけ作って共有していない物もあるので、見たことが無い物もそれなりに……というか、気になる者がいくつかある。


「はい。失敗作ばかりですが……」


「そのドリル……掘削しそうな槍は?」


 長さは2メートルほどだろうか。先端が直径30センチほどの円錐……ドリル状になっている。


「ゼンマイ式螺旋槍、つらぬき君Ⅱですね」


 どっから湧いたネーミングセンスだ?


「ツッコミどころがいくつか……名前はともかく、ゼンマイ式?」


「はい。槍の内部強化したゼンマイが仕込まれていまして、手元のスイッチを押し上げると先端が回転します」


 バーバラさんが槍の手元にある押し上げ式のスイッチを操作すると、先端が音を立てて回転し始めた。


「もともとはワタルさんの蛸の足オクトパスの掘削モードに着想を得て、上級スキルである貫通螺旋撃の威力を増すよう、それとは逆方向に回転するようなギミックに成っています」


 貫通螺旋撃は騎士や守護戦士などが使う突き系のスキルだ。アル・シャインさんが良く使用している。


「ですが、思った性能が出ずお蔵入りしました」


「何がダメだったん?」


「トルクが足りません。このように……物に当たるとすぐに止まってしまいます」


 バーバラさんが床に槍を突き立てると、回転していた切先が少しめり込んで止まる。


「ゼンマイはどちらかと言えば小さな力を長く出し続ける方が得意なようで……強化してあっても、その特性は変わりませんでした。なんとか武器に使えないかなぁと思たのですが、今のところうまく行っていません」


 なるほど。もともと時計に使われる技術だっけ?

 ……バーバラさんの祖父が時計技師か。そう言えば、MP効率が悪くて使わなくなった浮遊船フローティングシップも一時期ゼンマイバネで動かしていたな。基本的に機械とか歯車が好きなのだろう。


「発想は悪くないんじゃない。撹拌チャーンで回転させた方が確実そうだけど」


「はい。それを試したものもあります。ただ、ワタルさんに耐久力強化ドゥラヴィリティ・アップを付与してもらっても、3次職の力で振り回すとギミック部分の耐久力が微妙でして」


「構造はシンプルにした方が良いと」


「はい。比較的複雑なギミックで上手く動いたのは、このクロスボウだけですね」


 バーバラさんが見せてくれたのは小型クロスボウ。ハンドグリップとトリガーのような機構があるな。


「ゼンマイ式で、引き金を引いている間、一定間隔で装填と発射がされます。射程は短めですが、解放済みの封魔矢を連射する想定で作った物になります」


 むぅ……矢の装填はマガジンで出来るのか。思いのほか技術レベルが高い。火力をエンチャントに依存する形になるが、短時間に高火力をMP消費無しで打ち込めるなら使い道はあるな。何というか、オートマチックピストルのノリだ。


「基本的には数を並べて撃つ想定の武器ですね。比較的軽いので、亡者さん20人ほどの持ってもらっています」


「……これもあんまり広めないほうがよさそうなツールだなぁ」


 軽く動かしてみると、発射される際のブレがほとんどない。

 それでいて秒間2発から3発の連射速度があるようだった。強力な付与魔術師が居ると、集団戦の戦法が変わる。


「あとは……こちらは重くて使いどころが難しいのですが、結構な威力が出せます」


 バーバラさんが指さしたのは巨大な……なんだこれ?

 持ち手があるから手に持って使う武器なのだろうか。長方形の箱の中心に、針というには太すぎる金属棒が刺さっている。


「芯に魔術無効化ディスペルが仕込まれていて、その芯をバネの張力で打ち出します」


「……パイルバンカー?」


「そう言う武器があるのですか?」


「仮想の武器だけど」


 芯の周囲には常時魔術無効化ディスペルが発動している。魔術無効化ディスペルの魔導回路は面積が大きく、武器に刻むのは難しいらしい。

 さらに魔術無効化ディスペルがかけられた芯は、他の魔術で打ち出すことが難しい。それらの欠点を補うため、巨大な芯に回路を刻み、それをステータス参照する超張力のバネで打ち出すようだ。


「巨大な扇みたいな斧でも良かったのでは?」


「刃を付けても魔術無効化ディスペルのせいで耐久力が足りませんよ」


 なるほど魔術無効化ディスペルは魔道具と極めて相性が悪いな。


「私にもっと技術があれば、ワタルさんの霞斬りの様な武器が作れるのですが……」


「あれは刻印レベルの様だから」


 雲散霧消をアイテムに添加するなんて技術、集合知には存在しなかった。

 素材を提供したエルリック氏は、始まりの小人ビギニングから教えを受けた錬金術師だ。人類の技術レベルだと、初級スキルである魔術無効化ディスペルですら扱いが難しい。


 そう言えば、エルリック氏はその後どうしたのだろう。

 商隊を探して別のコクーンに移ったと聞いているが、会うことは出来たのだろうか。


 バーバラさんの作品は、そのほかにも機械的メカニカルなギミックを搭載した物が殆どだった。

 とても魅力的なのだが、耐久力に問題が有ったり、使いどころが難しいものが多いな。


「これはツボ?花瓶?」


「それは錬金窯です」


 その中で目を引いたのは、大小さまざまな小さな錬金窯。

 携帯用の物よりさらに小さなものがいくつもある。


「錬金術スキル限定ですが、スキル効果を10倍近くまで高める効果は唯一無二です。それを他のスキルに転用したり、また錬金術スキルを他に活かせないかと思って、まずは窯を研究していました」


「へぇ……凄いな」


 どの釜も量産品と同等の倍増効果があるらしい。錬金窯のサイズは規格化されていて、一般的にはそこから外れると性能が下がると言われている。

 湯のみ以下、徳利やおちょこサイズでも効果が引き出せているというのは前例がない。


 錬金術スキルは応答性が悪くて、今じゃ中々戦闘に活用する機会が無いけど……ん~……何かに使えるか?


「そうです。錬金術スキルにも圧縮がありますよね?」


 バーバラさんがポンと手を打つ。


「ん?」


縮爆風バースト・エアですよ。あの術が空気を圧縮して、それが戻るときの衝撃を使っているなら、錬金術でも同じようなことが出来ませんか?錬金術スキルなら、窯で効果を高められます」


 バーバラさんの言葉に、ハッと息をのむ。


「……なるほど。うん、そうか……ありかもしれない!」


 錬金術をそのまま使うと、レスポンスの悪さや効果が小さいという問題があるけど……バーバラさんが作った小型の錬金窯と組み合わせれば、これまでと違ったことが出来るかもしれない!


「ちょうどいいサイズの窯もたくさんあるし、さっそく試してみよう!」


 テーブルの上に散らばったアイテムを収納空間インベントリに収納して、今度は素材を並べていく。

 降って湧いたアイデアに、さっそく準備を始めたのだった。


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