第88話 ちょっとした金策と金銭感覚

ギルドの作業室を借りて、パッシブスキルを付与したアイテムを仕込む。

パッシブスキルは永続付与オーラで付与する際に、術側のMPの消費が無いのが良いね。

買えた顔料や油の量の問題で大量には作れないけど、付与としてはお手軽だ。


作ったのは


行軍マーチのバックル×2

・MP消費低減のバックル×3

・MP回復向上のバックル×3

・修練理解のバックル×5

・攻撃予測Lv1のバックル×2

・防御予測Lv1のバックル×2

・回避予測Lv1のバックル×2

・移動予測Lv1のバックル×2


「……いや、思いのほかできたな」


顔料仕入れに使った金額が5000Gほどだったから、最初にエンチャントしたときよりお金はかかってるけどさ。

パッシブスキルはリソースに余裕があっても重ね掛けは出来ないらしい。その変わりに使う量は少なくてよく、しかも常時発動させられる。パッシブスキルのエンチャントは、ほんとにそのままスキル移植って感じだな。


「そんなに作ってどうするの?」


「もちろん売り込む。さぁ、一度転職神殿に行って付与魔術師エンチャンターに戻ろう」


エンチャントする際は戦士で、売り込むときは付与魔術師エンチャンター。不思議な感じがするが、すべてのスキルが定着してしまっているのでこうなる。


ギルドの受付で商談を持ち掛け、ステータスの職業とレベルを開示して交渉を依頼する。

受付の人にはとても驚かれたが、飛び込みの営業は地方の町でもそれなりにある話だ。すぐに担当が割り当ててもらえた。


「初めまして、リターナー殿。本商談を担当させていただきます、ノッティーと申します。まさか噂の超越者の方にお会いできるとは光栄です」


「ワタルでよいです。後その超越者ってのやめてください」


タリアがニタニタしている。

レベル99到達は初めてのことで、呼び名がいまだに定まっていないらしい。

51を超えた人は限界突破者とか呼ぶ方向で話が進んでいるとか居ないとか。ちょっと王都についたらギルドと話をしてみよう。


「それで、新しい商材とはどのような物でしょう?昨今アインスで流通を始めた封魔弾と呼ばれるものですか?」


「おっと、耳が早いですね」


封魔弾が売り出されてから、まだひと月には成っていない。

アインス防衛戦の後は、アインスから封魔弾、封魔矢の輸出は行っていないと言っていたから、それ以前の流通分を話に聞いたのだろう。


「今回は新商品です。明日は街を発つので、使い捨ての封魔弾は数が準備できませんので。商品ですが、こちらになります」


「腕輪ですか?」


「ええ、これはエンチャントでパッシブスキルを付与した腕輪になります」


「パッシブスキル……どういうことですか?」


「そのままの意味です。こちらがMP消費軽減の腕輪、こちらがMP回復向上の腕輪です」


「……ちょっとお待ちを。上を呼んでまいります」


ノッティーさんが速攻で部屋を出て行った。


「……こんな事ってある?」


「ワタルが非常識なのはいつものことじゃない」


そんな長々と商談をするつもりは無かったんだがなぁ。

その後、副ギルド長なる人が着て、訓練用の広場でバックルを使ってもらう。


「たしかに……MP回復向上も、消費低減も効果を発揮している」


「そうでしょう。ほかに、修練理解、それに戦士が覚える予測系のスキルが4種あります。量産は出来ていないので数は多くありませんが、ギルドが所有するなら、日常的な冒険者への訓練に役立てられるのではないですか」


俺は集合知があるので基礎訓練など受けなかったが、冒険者ギルドでは新人育成を行っている。

ギルドから貸し出す形で修練理解や各種予測系のスキルを体験してもらえば、ステータスに寄らない技能の向上が見込めるだろう。


「MP系も、普段は訓練で使用したり、有事の際に貸し出すなど、使い道は様々考えられます。街の中で使うなら、冒険者が失って魔物化する心配もありません」


「よく考えられているな。さすがだ。ギルドが所有する価値もある……だが、ギルドはそう裕福ではないぞ?」


「ええ、価格は勉強させていただきますよ。MP系は、付与魔術師エンチャンターが23レベルで付与できるようになるので、一つ2000G」


なんでこれまでこれを売り出す魔術師がいなかったって、永続付与の素材が高すぎるからだ。

そのレベル帯で、1000G以上の素材を使ってポンポン試す付与魔術師エンチャンターなど居なかったのだろう。

それに、似たような効果の錬金アイテムもある。MP回復ポーションや、魔石と呼ばれる魔力結晶を使ったMP保存系アイテムである。封魔弾の考え方と同じく、こちらの方が戦闘時に劇的に効果を発揮するので使い勝手が良い。


「戦士系のスキルは付与したいスキルを定着させて付与魔術師エンチャンターになるか、付与魔術師エンチャンターがレベル58になった後、2つ目の職を取らなければいけないので……一つ4000Gでいかがでしょう?」


「……安いな。良いのか?」


「もちろんです」


バックルは100G単位だし、材料のコストを考えても十分黒字である。

希少品としての価値はあるかもしれないが、個人で持つには効果の割にちょっと高い価格。それでもギルドなら買える。

ギルドと大差ない懐事情と思われる教会も、アース式治療術にはかなり金を出してくれたしね。利に聡いのはありがたい。


「いくつある?」


「MP系が三つ、修練理解が五つ、予測系が各二つですね」


「……くっ……すべて欲しいが、さすがに難しいな。ノッティ―、予算を調整だ」


「わかりました」


全部買おうとすると結構な金額になるからね。

1万Gくらいならすぐに出せるが、それ以上となるとなかなか難しいそうだ。

この世界の1万Gは日本で言うと100万円以上。多分その1.5倍くらいの価値はある。それくらいならポンと出せるというのだから、やはりギルドは大きな組織だな。


悩みに悩んだアーフォストの冒険者ギルドは、MP系はすべて、予測系は一種づつ、修練理解を三つ購入した。合わせて4万G。これでまた何かを始める頭金になるな。


「……私が今日倒した魔物が300Gで、ワタルが2時間で稼いだのが4万G……」


「いや、そこ比較されても。これ位のスピードでやって行かないと、中央で暴れるのにどれだけかかるか分からないじゃん」


頭を抱えるタリアを励ますのに、ちょっとお高い料理屋に入ることに成った。

……価格の割に味はぼちぼちなのだが、品数が多く楽しめたので良しとしよう。機嫌も直ったようだしね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る