第109話 行く人来る人
面会から3日ほどが経って、ウル・アインス男爵の使いがやってきた。
「リターナー様の小間使いを仰せつかまりました、バーバラです。職業は格闘家に成ります。何なりとお申し付けください」
年齢は一つ上の19歳、少し切れ長の瞳、赤い短髪、中性的な顔つきの女性である。ただ、身長はタリアより小さく140センチあるかと言うところであり、体つきは出るとこ出ていて引っ込む所は引っ込んでいる。
……中性的なのはほんとに顔だけだな。
「アインス男爵は良い性格してるようね」
タリアがじっとりした視線を彼女に向けている。
まあ、小間使いに格闘家を寄こすあたりは良い性格してると思う。
「……ドワーフ?」
「分かりますか?割と大きい方なのですが」
「外見的特徴を考えると、人間とは違う血が入ってるかなぁくらい」
ドワーフは男も女も発育が良いらしい。外見特徴は個人差が大きいし、エルフの長耳とか、ケモケモしてるならともかく、パッとは分からん。
男ドワーフの髭は文化的な物だし、筋力と慎重の成長係数が違うだけで、わかりやすい違いはない。
「とりあえず、ロバートさん、リネックさんから仕事引き継ぎかな?」
「仕事ってランニングかしら?」
「それはトレーニング」
二人とも詠唱魔術をいくつか覚えたし、レベルも上がっていて、ロバートさんは
「さっくり引継ぎをしてきてください」
「それでは、ランニングからだな」
「え?」
アインスに戻る前に定着してしまいたいというので、今日は走って追い込みをして、明日出発するそうだ。
なんだかんだでこの二人もなれたよね。
「今日は50キロくらい走るんじゃないかしら?」
「
「ワタルは?」
「選別の準備とギルドへの納品に行ってくる」
冒険者ギルドに封魔矢と封魔弾を少し納品し、頼んであったMPタンクの効果がある
二人への選別用に武器とバーバラさんへ持たせるアクセサリーを購入して家へ。
「さて、まずは魔鉄の作成からかな」
まるっと二日、錬金術師のスキルを使い倒してこれまで出来なかったことができるようになった。
一つは通常の素材を、魔力素材に変換する魔素注入。魔素注入は薬品作成時に使うスキルだが、使い方によっては通常の鉄を魔鉄へ変化させられる。MPの消費が馬鹿にならないから、普通はそうそう出来ないのだけれどね。
「ロバートさん用のロングソード、リネックさん用のダガーを魔鉄化する」
やり方は比較的シンプル。
魔力の注ぎ口となる部分を、まず触媒となる魔鉄で作る。この魔鉄は酸化鉄から抽出した物を使う。鉄中の魔鉄の含有量は2~3%と、
「やっぱ武器の鉄とだと組成が違うな」
変成、化合、構造変化を用いて全体重量の1%くらいの魔鉄を、刀身の根元に同化させる。
材質的には刀身が鉄で刃の部分は鋼。うまく結合させないと刃がもろくなる。ここは丁寧に。
そしたら魔鉄に対して魔素注入。
入った所を変成で練り、均一化でなじませてさらに魔力を注ぐ。それを繰り返して刀身全体に魔鉄をなじませて、最後に構造変化で元の刀身に出来るだけ近づける。
「……ふぅ。今の俺だとこんなもんかな」
小一時間かけて、MP180ほど注いだ。結構難しくて慣れが必要だが、これで10%くらいの魔鉄合金に成っているはず。
ステータス参照の効果を乗せるには、もう少し比率を上げないといけないけど、
ロバートさんは堅実な戦いをする。なのでロングソードには切れ味強化と耐久力強化を常時発動。それに炎剣を任意発動にして付与。俺の高いINTの効果で、それなりに使える武器に成っているはずだ。
リネックさんは火力不足が課題なので、自動発動で
しかし、こう考えると
もしくは塗料がすごいのか。人類の英知の結晶って感じだ。必要な量と付与できる魔術量の差は文字通り桁が違う。
『超凄い装備』を一つ作ってもデメリットが上回るから、
「あとは、バーバラさんに
魔素の蓄積した石英である魔結晶と、アルミを使って宝石付のサークレットを作る。
額に石英結晶がくる眼鏡みたいな装備だ。額の結晶からは
これでタリアは額から不可視のビームを撃つことができる。
それを説明したら、「ワタルは私をどうしたいのよ」と怪訝な顔をされたが、まぁまんざらではなさそうだったのでヨシ。
材料を自前で確保できるようになるとエンチャントも幅が広がるな。ダメなら作り直せばいい。
どうせなら
そうして、3人が戻ってくるまで試作を続けた。
………………
…………
……
「長らくお世話に成りました」
「こちらこそ、護衛のはずなのに選別までいただいてしまって……ありがとうございます」
翌日、3人で王都を発つロバートさん、リネックさんを見送る。
元々は公使に取り次ぎを終えるところまでの仕事が、バーバラさんが来るまでに伸びた所為でちょっと予定より遅れ気味。
「いえ、こっちが勝手にやってることですから。試しで作ったものなので、もし2次職になって不要になったら、だれか見込みのある人にでも譲ってください」
ステータス参照できない装備なんてそんなもんだ。
「すまない。
二人にお土産として渡したのは、
MP回復向上は魔力を帯びたアルミで作成した。そう言えば、銀や金は専用の名前があるが、あまり使われていない素材は魔素同位体と呼ばれるらしい。
余り積極的に研究されていないが、こっちの世界にも
「ロバートさんの
「いや、ワタル殿のように無茶をするつもりは……アーフォストからは、他の商隊を探すつもりだからな」
アーフォストまでは二日で行くつもりなら、それは俺と変わらないのではないだろうか?
「バーバラ殿、ワタルさんをよろしくお願いいたします。ワタルさん、あまり無茶はくれぐれもくれぐれもしない様に」
「タリア嬢と違って、バーバラ殿は普通の女性なので」
「それはどういう意味かしら?」
リネックさんは最後に口を滑らせたな。
バーバラさんは朝から顔が暗い。昨日一日で幸先が闇に沈んだらしい。とりあえず
……この世界の人たち、魔物倒す以外のトレーニング嫌いよね。レベルが上がるとお手軽に強くなる所為で、地道な努力をしない傾向が強い。ギルドが教育に力を入れる理由がわかる。
「最後に、俺のやり方は領兵に合うとは限りません。でも今回の件で、いろんな強さも感じたと思います。もし、アインスに戻った後思うところがあれば、冒険者ギルドで
エトさんと二人、詠唱魔術の戦闘への組み込みや、他の職業とのスキルのシナジーを見直すとも言っていた。
きっと力に成ってくれるだろう。
「……ありがとうございます。それでは」
二人は旅立って行った。
またブギーマンに襲われるなんてことは無いだろうけど、無事についてくれることを祈る。
さあ、俺たちは俺たちで、今日もお仕事に励もう。
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