第57話 アインスへ帰還した
□アインス冒険者ギルド・ホール1□
「治療は必要ですか!?」
帰還の宝珠で冒険者ギルドのホールに飛び出すと、管理者と思われる女性が慌てて駆け寄ってきた。
「軽傷なので急ぎではありません」
「臨時パーティー、No9だ。MPを使い果たしたのでギルド職員判断で帰還した。街の状況の説明と、可能であればギルド長への面会、それに、そいつが担いでる娘が休める場所の手配を頼む」
グローブさんがてきぱきと指示を飛ばす。ありがたい。
エリュマントスの核となっていた少女をギルド職員に預けて、その間に別の職員から状況の説明を受ける。ついでに教会から俺の名前でルドルフさんを呼んでもらうようにお願いした。体の状態が軽傷から戻らない。これ、後遺症が出てるやつだ。
「それじゃあ、街の方は大きな被害は出ていないんだな」
ギルド長との面会が通るまでの間、別の職員の方が状況を説明してくれる。
アインスの街に魔物たちが進行を始めたのは、冒険者たちが動き出してしばらくしてから。
最初は凪の平原に出ていた
敵軍は東側に約2200、西に1800。北にはオーク
……そっちに行かなくてよかったわ。戦う前に終わっていた。
クロノス王国の4魔将の内、
「街中も襲撃で被害は出ていますが、幸い死者は出ていないので人的には何とかなっています。外壁は東側が豚畜生に破壊されましたが、西側の城壁は無事です。ただ、気を抜くと破城槌部隊が門を壊そうと進んでくるので、遠距離攻撃が可能な戦力をそれなりに割いています」
「東側は?」
「波状攻撃で突っ込んでくる魔物たちを、300名くらいで迎撃しいます。ただ、ドロップ品が全く回収できていないので、敵が減りません。むしろこっちの打った矢で敵は増える一方です」
ああ、定番のジリ貧だな。召喚持ちの魔物が後方で兵力を補充しながら、こちらのMPや気力、
「しかし朗報があります。先ほどの天啓は聞かれましたよね。どうやら北の豚畜生が討伐されたようなのです!今、斥候を中心とした部隊が北から偵察に出ています」
……どうでもいいけど、エリュマントスを豚畜生と呼ぶのか。いや、俺もブタ野郎と呼んでたけどさ。あいつの外見、イノシシだぞ。
「ああ、いや、それは知ってる。つーか、討伐した当人がこいつだし」
グローブさんがこっちを指さすと、ギルド職員の男性は大きく目を見開いた。
こっちの話は良いので、状況説明を続けてもらう。現在は5人で1チームくらいのパーティーが複数、遊撃隊の撃破とアイテム回収に出ているらしい。
それで少しずつ戦力を削れれば、状況も変化するだろうとのこと。こっちは予想通り。
ただ、街の蓄えである矢や封魔弾の在庫の減りがまずい状況らしい。西の破城槌部隊に門を破壊されると市中乱戦になってどれだけ被害が出るか分からない。
「エトさん、復唱法で素質のある街の人に魔術を叩き込んでいけませんか? まだ戦力になる人いるでしょう」
アインスの定住人口は3000人ほど、冒険者や商人などの変動を入れるともっと多い。
1割は本当に戦えない子供としても、それ以外の2700人は神の加護で戦う力を得られる。1分1点回復するMPと、倒せばレベルの上がる環境なら、焼け石に水が流水になり、濁流変わる。
サンワサの子供たちはINT10でも魔物を狩っていた。やってできないことは無いだろう。
「……そうですね。MPが厳しいですが、
こちらの意図を組んでくれたらしい。
エトさんは非戦闘民が避難している集会所に向かってくれた。人手が足りてないから勝手にやるしかない。魔術師ギルドが後で激おこかもな。まぁ、冒険者ギルドや王国は魔術師ギルドに対してもっと怒るだろうけど。
教えるという点において俺はエトさんの下位互換だし、新しく覚えた魔術も初心者が使って有効なものが無い。
エトさんが出てからものの数分で、ギルド長との面会が可能になる。
ワタル・リターナーが来たと言ったら大急ぎで調整してくれたらしい。ギルドに
「アインス冒険者ギルド長のザッハだ。ワタル・リターナー君で間違いないな」
「はい。天啓でも流れた通り、
「うむ。聞きたいことは幾つもあるが、まず、討伐の確認をさせてくれ。ドロップは何だった?」
「ドロップは、別室で休ませてもらっている人間族の少女です」
「……奴隷か。能力と外見によってはありえなくは無いが……奴の能力が
「あいつの見立ては1万G級後半では?」
「ああ、何年か前に見直されている。以前の事を良く知っているな」
……集合知の誤差にやられたか。……よく生き残れた。
「奴隷だと判断が難しいな。ほかに討伐を証明できそうなものは無いか?」
「ドロップではないですが、奴が使っていた剣も回収してきました」
エリュマントスの身長よりでかいこの剣を部屋の中で出すのはあぶないな。
「これは……なるほど。素材鑑定できるものに来てもらっても?」
「構いません」
「ではいったん閉まってもらうとして……そのスキルは
「はい、そうです。ご想像の通り、定着した
「ふむ。それについては後でギルド章に記載が必要だな」
手続きを行うよう、職員さんに支持を出す。
黙っていても罰則は無いが、
「エリュマントス撃破の方法について聞いても?」
「奪った大剣を使って、あいつが突っ込んでくる前に取り出して自爆させました」
後は封魔弾シリーズの試作品でダメージを稼いだり、ステータスを上昇させたりして対応したことにする。嘘は言っていない。
「わかった。ありがとう。近年でもまれにみるジャイアントキリングだ、この難局を乗り切った後も色々声がかかるだろうが、これ以上は今は良い。レベルの件についても話を聞きたいが……」
「ステータスを見る限り、50レベル以上の恩恵はスキルとボーナスの定着です。ステータスは高くなりましたが、スキルは50レベルの
「なるほど。では静養を。また、可能であれば戦線に復帰してくれ」
ギルド長はグローブさんに威力偵察部隊の指揮をするよう伝えると、足早に部屋を出て行った。
凪の平原での戦いはまだ決着を迎えていない。
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