第163話 前線部隊の攻防
こちらに向かってくる魔物を
魔物たちとウォール守備兵団は、農地の丁度真ん中あたり、4キロ地点で衝突した。
魔物側の戦力は推定2000。守備兵団は冒険者との混成部隊でおよそ3000。数だけ見れば守備兵団有利だが、戦況はそう簡単ではない。
盾の発生頻度は減ったものの、大亀の歩みは今だ変わらぬ速度で城壁へと向かっている。
「戦場が横に広がってるな。やっぱり城壁に取り付くつもりか」
固まって戦い包囲したい守備兵隊と、命を削ってでも城壁へ攻撃を仕掛けたい魔物たちの攻防。
今のところは守備兵隊有利だけど、後続も見えてきている。
「ワタルさん、なぜ守備兵隊は城壁の近くで戦わないのですか?」
戦場を避けて交代するさなか、バーバラさんが疑問を投げかける。
「今、辺境伯が使っている
領主のスキルは強力だが、だからと言って何の制約も無しに使えるわけでは無い。
スキル射程100倍なんて破格の効果は、それなりのリスクが伴う。
「なるほど!この後はどうなるでしょう?」
「魔物の第一陣は守備兵隊が防ぎきると思うけど、問題は次だね。この魔物たちの編成は殺しに来てる。けが人も多いと思う」
かつてアインスが襲撃された時、魔物たちは亜人を象ったゴブリンやオークが主流だった。
これらの魔物は知能が高く、敵を倒すだけでなく略奪や誘拐を可能とする。
今回主流の魔物は、大型の獣や虫が多い。人型は指揮官らしきコブリン・ライダーやリザード・ライダーと言った騎乗タイプの魔物が殆どだ。
こちらに被害を出すことに極振りした編成。戦力を削ぐことが目的なのが見て取れる。
「微力だけど支援に回ろう。アーニャ、前線の最後尾に回って。人目が多いけどビットを出す。タリア、MPが平気なら、メルカバ―の加熱供給を変わって」
「了解!」
「バーバラさん、下で負傷者の回収、いけますね」
「もちろんです!」
アーニャの操作で戦場の真後ろに付ける。
指揮をしていたのは見知った領兵団の副団長の一人だった。回復支援を行うと伝える。
「さて、それじゃあ初披露のスキルも使っていきますか」
ただちょっと外聞が悪いスキルが多いだけで使われないなんて、なんとももったいない話だよな!
「
生命を探知するという特性から魔物が検出できないという、対魔物に関して致命的な欠点はある物の、
「いけ!ビット!」
メルカバ―の格納庫から八機のビットが飛び立つ。前線で戦う者の間を飛び回り、HPが減ったり、負傷した兵たちに
「バーバラさん、行きますよ」
「はい!」
メルカバ―を飛び降りて負傷者の下へ向かう。
HPが小さい、または減っている人の所にビットを飛ばし、
魔物が近くにいる様なら
「助太刀します。バーバラさんはそこの人を後ろに運んで!」
「はい!」「すまない!」
飛び掛かってきたのは大型の鉄クズリだ。攻撃は盾て受け流し、ケリを入れて弾き飛ばす。一撃で仕留めないのにも理由がある。
「略奪するは
「MP黒字最高!さぁ行けビットたちよ!たまにMPも吸っちゃう!」
MPを吸いきったクズリを切り捨てて次に向かう。
ビットは
もともと魔術師職が不在で膠着していた戦場。
そこに援護と回復を投入すると、戦況は徐々に有利に傾いていく。
「けが人や体力に問題がある物は下がれ!2陣が来るぞ!」
照明弾で照らされたエリアの先から、魔物の追撃がわらわらと湧き出してくるのが見える。
でかい……体高1メートル越え
「固まれ!盾を構えろ!VITとSTRが高い物が防壁を張れ!」
アレが中身の無い体格だけのでくの坊ならそれでもいいが、ちょっと怖い。
「なので止めさせてもらおう。ビット!
横一列いっぱいに展開されたビットから、8枚の
そこに全力手突っ込んだ
「はーははは!猪突猛進するしかいない猪の群れなどこの程度よ!」
「ワタルさん楽しそうですね」
「……うん、楽しい」
いつの間にかバーバラさんが戻って来ていた。
「周りは引いてますよ?」
「せっかく乗ってるのに水を差さなくてもよくない?」
「タリアさんから、調子に乗っているときはツッコミを入れたほうが良いと教わりました。抜けてきます!」
「気を抜くなっ!来るぞ!」
魔物たちの様子を見ていた指揮担当が声を張り上げる。
V字に展開した壁と壁の合間から、被害を免れた魔物たちが再度こちらに向かって走り出す。すぐに展開した壁も消えるだろう。勢いは殺せたが、ここからは乱戦だ。
「
「それくらいは分かります!」
物理限界に縛られた俺たちじゃ、アレの突撃を受けたら跳ね飛ばされるだけだ。
こちらに向かって突っ込んでくる猪をギリギリで避け、剣を振るって片面の足を切り落とす。
「
倒れこんだ
欲を言うなら、もうちょっとMPの高い魔物が欲しい。
「
空中を蹴って飛ぶバーバラさんのステップののち、輝く蹴りが
「気合入ってますね」
「やめてください。ちょっと恥ずかしいんですから!」
2次職で覚える中級スキルは、詠唱キャンセル系のパッシブスキルを覚えるまでは発声で発動しなければならない。
俺の魔術も、バーバラさんの必殺技も、酔狂で発声しているわけでは無い。
1次職のスキルは無詠唱が基本だから、叫びながら戦ってるのを客観的に指摘されると恥ずかしい。これは訓練で気づいてしまったマイナス点だ。
叫んだ方が威力も精度も上がるっぽいので、叫ばないメリットは不意打ち時くらいしかないのだけれど。
「空踊、うらやましいな」
うちのパーティーの中で、戦闘技術として空を跳べるのはバーバラさんだけだ。
魔術師職はああいう動きが出来るような術は覚えないからなぁ。多分アレはエンチャント出来ないだろうし、高速移動系や空中戦闘が出来るようなスキルを覚える職も試してみるかな。
そんな事を思いながら、性懲りも無く突っ込んでくる猪をへち倒してMPを吸い取る。
出鼻をくじいたおかげで、こちらの戦況は優位だ。8機のビットも回復薬として思いのほか成果を上げている。
そんな事を思っていたその時、
「っ!なんか強いの来ます!バーバラさん寄って!」
「何か来るぞっ!」
その反応の魔力が膨れ上がったのは、副団長が
「まずっ!
その反応の大きさに、とっさに壁を展開する。
空が赤く輝き、轟音を響かせながら飛来した隕石が、その壁向かって降り注いだ。
「あ、やばいっ!」
最初の接触で、ビットで張った壁が易々と崩壊していく。
咄嗟に
時間にすれば数秒。その間に貼った壁の枚数は24枚。最後まで残ったのは重なり合ったわずか3枚だけだった。
「加減のし過ぎでは無いか?」
「……ずいぶん残りましたね」
砂塵が立ち込める中、目の前に二体の魔物が降り立つ。
一体は紫色の肌に蝙蝠の羽を生やした、燕尾服のような姿の優男。
もう一体は赤銅色の肌に、額から2本の黒い角を生やした上裸の大男。
参謀・
暴虐・オーガ
ウォール近郊で暗躍する魔物たちの長が姿を現したのだった。
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