第451話 勝者の傷跡
「か、かゆいかゆいかゆいっ!」
「あとちょっとで終わりだから我慢なさい」
強烈なむず痒さに呻く俺を、メリッサさんが呆れたように否める。死霊術を扱う彼女は治療も精通しているらしく、わざわざレティスリから治療に来てくれた。
テラ・マテル襲撃から三日。俺はベッドの上で最後の
「な、なか治す時は血を吐くほど痛いのにっ、なんで無い足生やす時はこんなにかゆいんですかねっ!」
かゆみって弱い痛みなんじゃなかったっけ!?
そもそも治癒しているのに何で痛いのかって話でっ!
「あら、知らないの内臓を治す時は、他の回復魔術で適当にくっ付いた部分を引っぺがして体のゆがみを補正しながら直していくのよ。新しく生やす場合は肉と合わせて神経……って言ってもわからないわね。痛みとか熱とかそう言ったものを感じるための部分が先に再生されていくの。普段は表皮に守られている部分が空気に触れるから、刺激を感じるのね」
神経は分かる。理由もなんとなく理解できるけど、分かった所でどうにもならん。
このかゆみは痛み耐性では軽減してくれないらしい。痛み耐性は弱い痛みは防いでくれないから、分からない事も無いが、辛さは変わらん。
「特に指なんかを再生するときはね、指の再生と、指の間の肉の死滅が同時にされるのよ。再生治癒なんて名前だけど、再生してるだけじゃないのよ。そもそも表皮、一番外側の皮膚は死んで積み重なって初めて意味があるのですから、どの回復魔術も癒すだけじゃないの」
「説明ありがとうございますっ!でもかゆいのはどうにもっ!」
以前、片腕がマヒした
「あと少しだから、我慢してね」
高々30分の施術がものすごい長さに感じられる。ゆっくり時間をかけて再生した方が再生部の密度が上がって良いと聞いてはいるが、その分かゆみは長引くのだ。おそらくやぶ蚊に足先を何カ所も刺された時の数十倍はかゆい。思考から切り離そうとしても難しい。
暫く耐えるだけの時間が続き、施術終了が近づくとともにかゆみも収まって来る。
「あとは爪が生えきれば完治よ」
……はぁ。ようやくか。痒みに支配されていた頭が多少はさえて、まともな思考が出来るようになってきた。
「……表皮に覆われていないのが痒みの原因なら、先に外側だけ再生してから密度を高めればよいんじゃないですかね?」
「あら、さすがに頭がきれるのね。でもダメよ。一度再生しきってしまうと、再生治癒は効果が無いの。骨がもろくなる病気とかは再生治癒で治せないでしょう?」
ああ、骨粗鬆症なんかは治らないのか。考えたことが無かったな。
「さて、これで一応施術は終わりよ」
「ようやく普通の生活に戻れる」
初日は流石に疲れで寝ていたが、
なので足が無くても出来るトレーニングを始めたら、3人に猛烈に止められ、魔力循環すら他の術に悪影響が出るからとやらせてもらえなかった。
地下にあった魔法陣を描きだしたり、魔力を籠める錬金素材を作成したり、壊れた
「戻れるわけないでしょ」
今もこうしてタリアが見張りについて居るので、こっそりなにかすることも出来ない。
「彼女の言うとおりね。足をちゃんと見なさい。太さが全然違うでしょう?リハビリして筋肉付けないと、両足で立ってバランスを取るのも難しいわよ」
「……やっぱりそうですかね」
再生治癒で治療した腕とか細いからなぁ。最低限の機能は回復したとして、そこから先は鍛えないとダメか。
「立ってみても?」
「いいわよ。タリアさんよね、支えてあげて」
タリアに支えられて、久々にベッドから降りるが、やはり左足が変な感じだ。体重をかけると、サンダル越しに地面の感覚がダイレクトに伝わって来る。まだ足が負荷に成れていない感じがする。
「どう?」
「変な感じ。……一応、支え位には成るかな。ちょっと一人で立ってみる」
「無理はしちゃダメよ」
左足に体重をかけると、骨は大丈夫な様だが、バランスを取るのが難しい。ステータスによって能力は補正されているはずなのだが……むしろその所為……。
「っと、とと……」
「ワタルっ!」
悠長に考えていたら、バランスを崩して倒れかける。これは中々難しい。タリアが支えてくれたおかげで転ばずに済んだが、ただ立つのが一番辛そうだ。
「念動力で支えると良いわよ」
メリッサさんのアドバイスに、タリアが少し考えてから首を振った。
「こういうのは身体で支えることに意味があるんですよ」
「……それもそうね」
……いや、ありがたい話なのだけど、これだと足があろうが無かろうが変わらない。彼女のアドバイスはありがたく使わせてもらおう。
念動力を発動して、自身のバランスを取る。おっと、これだと動けるな。
「よし、大丈夫そうですね」
「……そう言うのは良くないと思うわ」
「……あんまりソレに頼りすぎると、リハビリに支障が出るからほどほどにね」
タリアにはジト目で睨まれたが、やらなきゃいけない事が溜まっているんだ。寝てばかりも居られない。
「ムネヨシさんの所に行きたい。弥生の治療を頼んでいるんだが、どうなったか知りたいんだ」
弥生はほぼ全身がボロボロで、パーツとして完全に無事だったのは背当ての部分くらいだった。撤収した際にはまだ意識があったが、付喪神がどこまでダメージに耐えられるかは分からない。如月も休眠中に成っている。
「仕方ないわね。付き合うわ」
「ありがとう。……メリッサさん、お世話になりました」
「いいのよ。わらわたちは基本的には暇だからね。でも、予後を見る必要があるから、明日も診察ですからね」
メリッサさんを見送って、簡単に着替えてからムネヨシさんの工房へ向かう。足に伝わる感覚は痛みに近い。身体を支える感覚に成れていないのが分かる。
「まともに戦えるようになるのに、どれくらいかかるかな」
「当分はゆっくりリハビリをすればいいじゃない」
「ウェインの事を考えたら、そう言うわけにもいかないだろ」
アーニャは焦りを見せないが、目の前で弟を連れ去られているのだ。今回も取り逃がすのは避けなければならない。
ムネヨシさんの工房を訪ねると鍛冶場に通された。半弟子入りしたダンジョン組の少年が、驚いた様子で椅子を持ってきてくれる。ありがたい。
「もう身体は大丈夫なのか?」
「ええ、回復魔術は偉大ですから」
「ちげぇねぇが……身体が大丈夫でも、心はしんどいもんだぞ」
「それは今に始まった事じゃありません」
集合知の所為で、いつもぼちぼちしんどい。やっていけるのは、ぼちぼちな頻度で甘やかしてくれるタリアやバーバラさんのおかげでもある。最近アーニャが見習い出したのはちょっとヤバイと思っている。
「それで、弥生の様子はどうですか」
回収できるパーツは全部回収して来た。自らの身体を
「……ひでぇ状態だな。アレも、お前さんも良く生きてた。足先が削られただけですんだのは運が良かったと思え」
「理解はしてます」
「とりあえず、人格の形成に支障はない。ただ、依代を失い過ぎてそれを維持するのが精いっぱいだ。損傷の少ないパーツ、体積の大きなパーツから順に
「どれくらいかかります?」
「3カ月って所だな」
「……よろしくお願いします」
ウェイン救出のための防具は別の物を準備し、彼女?は治療に専念してもらうしかないな。
「言っちゃあなんだが……3次職、それも戦闘型と戦おうってのが無謀だぞ。今回、
上級に分類されるスキルじゃ、伝説級スキルは防げない。伝説級スキルは前提条件がいくつかあるから、それを準備させないのが一番。今回はアレを倒すことが目的じゃなかったから、吹き飛ばした時点で距離を置いてしまった。離れたことであいつに準備を整え、発動だけすればよい状態にしてしまったのが誤りだった。
「防御用の伝説級スキル・魔術もあるが、使い勝手が難しい。人類同士で争えば、基本先に打った方が勝つ。次は無いと思っておけ」
「理解しています」
相対したのが俺で、強力な対魔術を発動できる如月が居て、弥生の防御力があって、初めて何とかなった。もしアーニャやコゴロウが相手をしていたと思うとゾッとする。
「……如月だったか?霞斬りの方は全力で能力を行使して、刻印に乱れが出ている。あれは休めば周囲の魔素を使って、ひと月ぐらいで自己修復するだろう」
如月も一か月はお休みか。……睦月がさみしい思いをすることに成るな。だけど三人とも無事でよかった。
付喪神は取り換えの訊く道具じゃない。特に弥生はボガートでも大きなダメージを追ったのだ。気を付けてやらないと……。
「ありがとうございます。いつもお世話に成ります」
「……まぁ、乗り込んだ船だ。お前さんは他にもやりたい事があんだろ?こっちは任せておけ。何か必要なら、こっちから頼む」
「お願いします」
二日の間に作った
タリアに「戻れる?」と聞かれたが、もう一つ行かねばならないところがある。
---------------------------------------------------------------------------------------------
ワタルの甘やかされ方は、全年齢ですが皆さまのご想像にお任せします。
いいね、応援コメント、ブックマーク、評価、レビューなどなど励みに成ります!
下の☆をポチポチっとよろしくお願いいたします!
他作品も応援よろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212
現代ファンタジーいかがでしょうか。集中投稿で2章完結済みです。
断絶領域の解放者~沢渡久遠と不思議のダンジョン~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます