第206話 流氷大地――ドラフト・アース――
プロペラの回転に合わせて船は滑る様に空中を進み、波の影響を受ける事無く空中を滑空する。
海からの風を切り割き進む機体は、思いのほか早い。行軍をかけて短距離疾走するよりも早いか……予想以上に良い性能だな。
『バーバラさん、操作は大丈夫?』
風音と駆動音を避けるため、念話で話しかける。
『はい。問題ありません。プロペラの回転数は45回転ちょっとですね。5周まわす前に抜ける感じです』
『予定よりちょっと下に誤差が出たか、でも問題なさそうだね』
『どういうこと?』
『プロペラの回転数が音の速度を越えちゃわない様に、安全対策として歯車の回転数を調整してるんだよ』
今回のプロペラのサイズは、直径約2メートル。なので55回転程で先端が音速を越えて衝撃波を発生させる。衝撃波が発生すれば、木製の軟なフレーム何て切り刻まれてあっという間に吹き飛ぶだろう。
なので今回は回転数が50回転が上限となる様に設計されている。プロペラへのギア比は10倍なので、手元で
だけど設計誤差か製造誤差か知らないが、そこまで回転数は上がらないらしい。
『まあ、低く出る分には危険はないさ』
この
短距離ならスキルで移動した方が速い。
『……風がキツイぜ!。塩も結構飛んでくる!メルカバ―と同じく風よけが欲しい!それと結構流される!』
『会場は遮るものが無いですからね。移動にようにするなら、やはりカバーをつけるべきでしょうか』
『重量がネックだよね。軽量化じゃ限界があるけど、質量軽減は覚えてもエンチャントできないからなぁ』
上級魔術である質量軽減をエンチャントするには、今の素材じゃリソースが足りない。
純度100%の魔鉄を用意するとか、
『まぁ改良は追々。とりあえず、逃走用にパラソルを撒いとく』
俺の
一つ一つはロープでつながれているので、想定以上に流されていくことは無いはずだ。繋がってるので
『海中に魔物の反応があるわね。狙われないかしら?』
『これ自身は大して価値が無いし、大きくて取り込むのは難しいから大丈夫じゃないかな。まぁ、保険の一つだから』
『だいぶ風に流されたけど、そろそろ目的地の岩場が見えたぜ』
港を出発してから10分ほど。白波立つ岩場が、海面からわずかに頭を出しているのが見える。
この地点は、直径10メートルかそこらの浅瀬が海中から飛び出しているらしい。ようは、海の中に現れた大岩だ。その周囲はすぐに20メートル以上の深さが部分と、浅い岩場が点在しており、複雑な海流を生み出しているとのこと。そのせいで魚人や人魚もあまり近づかない。
おかげで海産物は豊かで、魔物は比較的多いらしい。
『魔物の反応も多いわね』
『速度を落とすと水中からの攻撃が有りそうだけど……あの海面に出てる岩を越えた先で回ってもらえる?』
突き出た岩から100メートル程離れると、急速に深くなっているらしい。表層の生物が一気に減る。
更に海底がサーチの範囲外になるほど深い。
『難しいけどやってみる』
アーニャは滑る様に飛ぶ浮遊船を操って、岩の奥に艇を向ける。
思いのほかコントロールが難しいらしい。指定した位置より少しずれたほうに流されている。やはり飛んでる機体は細かな操作は難しいらしい。細かく動かしたかったら、やはりビットのようにマルチコプターにすべきかな。
『おおざっぱでいいよ!そのままグルグル回ってくれ。フリーズボールを撒く!』
直径2センチほどの木でできた球体。
これでこの周囲には一定時間後に氷塊が漂う事になる。
問題は魔物が寄って来るかどうか。
発動までの時間を引き延ばしに引き延ばして15分強のマジックアイテム。価値は微々たるものだと思うが……。
そう思っていると、小さな魔力反応が海面に浮かび上がって来る。それが海面に到達した時、
成功だ!寄って行ったのはおそらくクラゲ型の魔物だろう。ほぼ遊泳能力を持たないそいつらは、海中を漂う機雷だ。触れれば激痛と共に数分で身体がマヒし、1時間もすれば命を落とす強力な毒を有するが魔物としての能力は極めて低い。
炎に飛び込む虫のように、海面に漂う魔力反応に向けて浮上して、そのまま
もっとも、クラゲのドロップは高くても10Gとかそんなくらいだろうから、普通の冒険者が使える手法ではない。生産者特権だ。
『タリア、予定通り氷塊を念動力で集めて』
『もうやってるわ。結構重いわね』
バーバラさんも加わって、海上に浮く氷塊を一つのエリアに集めていく。
ここに
『ある程度集まったらから、魔物たちが来る前に流氷作る。離れられる?』
『できっけど、これ止まるのが難しい。あたしが言うのもなんだけど、やっぱ操作と加減速は一人でやらなきゃダメじゃないかな』
『推進力がMP頼みなのがいただけないね。後々考えるとして、今は上手いことやってくれ』
器用さと言う面では、
実際難しいと言いつつも、アーニャの操舵は正確だ。ちょうどいい距離をキープしてくれている。
艇が程よく離れた所を旋回し始めた所で
範囲は直径50メートルほど。今日のような天気なら、並の影響はほとんど受けない大きさ。暴風が収まった時点で、その中央付近に浮遊船を着陸させる。
「おっけー、薄い所でも厚みは15センチ以上ありそう」
アルタイルさんに質量軽減をかけてもらって、海上に出来た流氷を調べたところ、この間より厚い。
前回は
これなら質量軽減無しでも歩けそうだけど……。
「タリア、いける?」
「十分よ」
これだけ大きな氷塊が浮いていれば、氷の精霊を呼び出すことが出来る。
このためにわざわざ精霊魔術を作ってもらったのだ。
「冷々たる氷の精霊さん、点に集いて錐となり、ここに凍れる大地を生み出せ!
タリアの精霊魔術によって、
直径50メートル、中央に向かっての流氷。これで海上に破壊されない足場が出来たぞ。
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□ご連絡
いつも読んでくださっている方、ありがとうございます。
3章ですが書き溜め分がほぼ無いため、ネタ集めも兼ねて週1くらいでお休みをいただこうかと思います。
次回、207話の投稿は8/1(月)の夜を予定しております。
今後とも応援よろしくお願いいたします。
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