第332話 ドロップ品の避難

土人形クレイドールを使って大地を壁を作り、変性によって壁と地面をなめらかにする。

柱を立てて天井を支え、土と砂利を接合して薄い一枚板のプレートを作ると、屋根代わりにそれを被せる。

地面はタイル張り。壁には暖炉を設置して、農地から春先の雑草を集めて乾燥。錬金術で成形して、茣蓙のように床に敷く。手持ちの資材が少ないから、出来るのはこれ位かな。10分で作ったにしては良いデキだ。数時間で壊すしこんなものだろう。


「風はしのげると思うので、こちらで休んでください」


汚れた衣服や身体は清潔クリーンで綺麗に。

食料は殆どギルドに置いて来てしまったので、スープを作って、握り飯と共に振舞う。腰を下ろし、身を清め、暖かい部屋で飯をくらうと彼らもだいぶ落ち着いたようだった。


「……なにからなにまで……済まない」


「いえいえ、困った時はお互い様です」


「お前が言うと胡散臭いな」


「……バノッサさんはいちいちひねた台詞を吐かないと気が済まない病気なんですか?」


「若気の至だ」


「実年齢をお忘れで?健忘症かな?」


「まだボケる程の歳取らせて貰えそうには無いんでな。嫌味だ。大体、胡散臭いのは事実だろ」


失敬な。これでも清く正しくがモットーですよ。


「人間松明の戯言は置いておいて、まずは自己紹介を」


代表して俺、コゴロウ、バノッサさんの渇望者たちの3人が挨拶を交わす。


「俺は新緑の風のリーダー、ウィンド」


「私はモーリス軍士官、カロッソ・バスです」


亀のドロップとなっていた26人の内、子供8人を除くと、7人がモーリス兵、5人が新緑の風のメンバー、残りがクーロン村人と臨時兵。

2次職は新緑の風の二人。レベルは低い。彼らはモーリス防衛に参加していたらしい。


「みんなボロボロだった。屈辱的だが、魔物に治療されて、回復したところを魔物にされた……おそらく数日前だろう」


「そいつは運が良かったな」


「期間も短く、生きているなら儲けものであるな」


魔物が戦力にしたおかげで、こうして解放されているとも言える。

全員死んでないだけ、運は良かった方だろう。


「この後どうするのであるか?」


「ホクレンに入るのは面倒ごとのモトでしょうから、子供を連れて後方の村に避難してもらうのが良いかと」


隷属紋も刻まれて無いし、彼らの立場は一般奴隷だ。しかし所持者が居なければ関係無い。面倒を見るには人手が足りないので、彼らの手を借りよう。


「20キロも南下すれば無事な村があるはずです。簡単な装備しかお渡し出来ませんが、お願いできますか?」


彼らの装備は簡素な【布の服】だ。それでも大人は草鞋まで揃っているが、子供は裸足の子も居る。

渡せる装備は昼の戦いでアーニャが回収して残して行った武器や防具、それにいざという時のために隠し持って居るみんなの備蓄。特に防具は潤沢とは言えない。


「……すまない、良くしてもらって申し訳ないし、子供達を何とかしてやりたい気持ちもあるが……おそらく難しい。クーロンだろう?」


そう言って彼は額を見せた。

ネズミを形どった焼印の痕がある。


「魔物にされる前に刻まれた。子供たちもだ。持ち主の居ない奴隷の扱いは酷い。ここまで親切にしてくれるのなら、君たちの元で働かせて貰えると……」


「バノッサさん、癒して」


「ん、良いのか?再生治癒」


高々焼印のでつけたあざなんぞ、再生治癒なら一瞬だ。


「なっ!」


渇望者たちクレヴィンガーズは事前の盟約に従い、ドロップ生物の所有権を放棄します。また、魔物の主導によってつけられた傷病者の治療を実施しました。これで良し」


クーロンでの奴隷は2種類。隷属紋が刻まれた奴隷と、彼らのように焼き印によって身分を落とされた一般奴隷。

どちらも奴隷ではあるが、一般奴隷は魔術的縛りが無い代わりに国によって管理されている。

この時、一般奴隷とされて居るものは『登録されている者』と『奴隷の焼き印が刻まれている者』だ。


「我々は冒険者なので、ギルド協定に基づいてドロップ品に対する権利を主張できます。が、それは先ほど放棄されました。あなたたちはクーロンに奴隷として登録されていませんし、奴隷の印は今消えました。はい、これで何も問題ないですね」


「……ありがたい。しかしそれでは君たちの利益は……」


「心配しなくても大丈夫ですよ。儲けは出てますから」


普通に生活するだけなら、昼間倒した魔物の一団だけでも十分なのだ。


「しばらく休んでいてください。闇に乗じて移動をして貰う予定ですが、小一時間くらいは取れます」


全員の職業とレベルを確認し、焼印の治療はバノッサさんに任せて小屋を出る。

ええっと、今ある装備は盾が3枚に短剣が3本に長剣が2本に槍が1。後は杖が1にメイスが1かな。コゴロウの手持ちに刀が1本。バノッサさんの手持ちに短剣が2本と短槍が1あるらしい。

大人は18人だから、全部まいても6人分たらない。そもそも短剣だけはちょっと心もとないな。


『タラゼドさん、沼の底のドロップは回収できました?』


『だめだ。深すぎてわかんねぇ』


『アルタイルさん、取り巻きの魔物のドロップは?』


『回復アイテムが1つと、量産装備の寄せ集めでしたね。小屋の方に出しておきます』


あんまり強力な装備はなさそうだ。

防具無しだと簡単に死ぬからなぁ……手持ちの材料もないし、ちょっと作るか。


農地なので大きな石などは落ちていない。泥沼化した穴の底に術の効果を起こせれば楽なのだが……いや、行けるか。


氷結暴風アイス・ストーム!」


まず泥沼を凍らせる。

次に凍った部分を岩人形ロックドールで成形・除外して、さらに氷結暴風アイス・ストームで凍結させる。こうやって行くことで泥沼を凍らせて疑似的に掘っていくことが出来る。

20メートルも掘れば地面に岩が混じるようになる。そこに向かって岩人形ロックドールで岩人形を作成、これで石材をゲット。


後は石材を粉砕し、持ち歩いている小型の錬金窯で金属元素を抽出。

伸ばして1メートル半の六角棍に仕上げる。それから魔力を注入して永続付与。耐久力強化、力加算Ⅰ、速さ加算I、体力加算I、技量加算Ⅰ。基本ステータスを上げるだけの装備なら、まぁそんなに高価値には成らないはず。所詮+10だし。継続時間も10分、リチャージ無しで待機時間10分とした。

これを8本ほど造り、残りのアルミで行軍マーチの腕輪を18個。スペックを低めに調整して価値を減らす。こんなもんかな。


装備を揃えて小屋に戻ると、お腹が膨れた子供たちは身を寄せ合って寝ていた。

都合が良いのでウィンドとバスさんにお願いして、こちらで準備した装備を割り振ってもらう。


「俺たちはこれから、もう一体の亀を倒しに行かなきゃなりません。おそらくですが、あれも同じように人が詰まっているので、軍にわざわざくれてやる必要は無いでしょう」


「……力になれればよかったのだが」


「お渡しした装備で村までたどり着けたら、体力のある人は戻ってもらえると助かります。もう一匹の亀の中身もそちらに向かわせるつもりですから。でも、最優先は子供たちです。村についたらこの路銀で適当に宿か家か確保しでおいてください。子供たちは身元を確認して、出来るだけ親御さんの所に返すつもりです。それまで保護をお願いします」


「わかった。この恩は必ず」


「タダより高い者は無いですからね。そのうち返してもらいに行きますよ。ああ、何ならうちの名前を広めておいてください。ホクレンを攻める大亀を打倒した英雄として。バノッサさんの名前でもいいですよ」


「自分のでやれ!」


タラゼドさんに先導してもらって、南の街道まで26人を送ってもらう。

子供たちは一人づつ大人が背負う形での移動だ。行軍マーチ使っているのでその方が速い。闇夜だが、斥候職もいるし後は運悪く強力な魔物に狙われない事を祈ろう。


「さて、われわれは2匹目に行きましょうか」


小屋を綺麗に沼地に沈め、バノッサさんに背負われて街の東北東を目指す。

そちらの大亀は、子供7人を含む31名。最初に倒した方よりちょっと強かったものの、無事夜明け前に撃破することが出来た。


……働きづめでさすがに眠いな。

山から昇る朝日を見ながら、大きく身体を伸ばし、眠気を振り払うのだった。


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所用により明日(または明後日)に1日休載をいただく予定です。正月休みは何気に忙しい日が多いですね。今のところ次回は1/6(金)の夜となる予定です。よろしくお願いいたします。


現在5話まで公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!

アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

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