第66話 終わる戦いと戻る日常
クロノス王国で暗躍する4魔将率いる魔物軍約4000とアインス防衛隊の攻防は、開始から約12時間で一応の決着を迎えた。
トータルとして被害が大きかったのは魔物側であろう。
4魔将の一角、オーク
残りの魔物たちは追撃部隊を割けて散り散りに逃亡したと思われる。
南に居た
一方、アインスの被害も小さくはない。
また、戦争用の備蓄にかなりの消費があったことも大きな問題である。
大きく消費したのは弓兵用の矢と、クロスボウ用のボルト、そして帰還の宝珠である。特に帰還の宝珠不足は深刻で、アインス在住の錬金術師では元の水準に戻すまでに数か月、しかも膨大な材料費がかかる。今回の戦いで消費された価値は計り知れない。
俺が収めた封魔弾・封魔矢もほとんどが消費されてしまい、HPやMPの回復ポーションも在庫が怪しい状態だ。同じ規模の襲撃があった場合、次の撃退は困難だろう。
得られたものがあるかと問われても、ドロップの回収は芳しくない。可燃性の装備や食料の多くは焼けてしまったものも多く、街から離れた所では暗くて回収しきれなかったものも多い。
また、基本ドロップは取得者が懐に入れることに成る。領兵は回収品を領主に納めるため復興に使われるが、今回の戦いに参加した多くは冒険者であり、彼らが回収した品々は市場に流れるのみである。
回収できなかったものもあることから、しばらくは凪の平原で価値の高い魔物が増えることだろう。冒険者としては稼ぎ時かも知れない。
危機は去ったが得るものが少なかった。
そんな戦いがひと段落した翌日、人々が慌ただしく走り回る中、俺は冒険者ギルドに顔を出していた。
□冒険者ギルド・ホール1□
「お疲れさん、そっちは大活躍だったみたいだな」
ギルドに戻ったタイミングで合流したエトさんと二人、ホールのテーブルに掛けて話をしていると、グローブさんがやってきた。
時間は昼の11時。昨日深夜まで戦っていたから、動き出しとしてはかなり遅めの時間が、ホール内に並べられたテーブルにはそれなりの人が居る。皆目的は同じだろう。
「お疲れ様、無事で何よりです」
グローブさんはアインスに戻った後、ギルド主導の威力偵察に出ていた。姿は見なかったが、俺が西門で戦っている最中も近くに居た可能性もある。
「こっちは問題ないさ。ワタルのリユース封魔弾はやっぱりすごいぜ。安全性が段違いだ」
「それは良かった。今ならもっと火力の高い物作れますが、今度作り直しましょうか」
「ありがたい話だ……だけどそれなら近接装備でコストパフォーマンスが良いものがいいな。撃って回収はやっぱり面倒なことが多い」
「なるほど。考えてみます」
利用者の貴重な意見は大切にしないと。
「エトの方はどうだった?先に領主様に呼び出されたんだろ?」
「……大変でしたよ。主に領主様が魔術師ギルドに怒りまくっていて。ギルドの方は本国に責任を丸投げですけどね。多分、王国からクレームがつくのでしょう」
エトさんは俺たちと別れた後、復唱法を使って非戦闘員に詠唱魔術を教えて回っていた。
聞いたところによると、アインスに戻ってから東門での戦闘が終了までに教えた人数は50を超えているらしい。始めた段階で領兵に目をつけられたらしい。
その後は復唱法の説明をさせられ、他の魔術師と一緒にひたすら非戦闘員、魔術を修めていない兵士や冒険者に詠唱を教えまくったとか。
魔物たちの攻撃が止んだ後は、深夜なのにも関わらず領主に呼び出されて面会し、復唱法について再度説明をさせられたとか。
「ああ、責任はワタルさんに投げました」
「うげぇ」
「僕に教えたのはワタルさんですからね。一応、炎の賢者の弟子って説明をしてあります。竜殺しの弟子で、初めて限界突破をし、四魔将の1体倒した者ですから。マシマシです」
「俺の一言で呼び出されるまで行くエトさんも大概だと思うけどね」
「ワタルは西門防衛への貢献もある。あの炎の竜巻は凄かったからな。さらに倍率ドン!だ」
「ああ、見てましたか。ついでに封魔矢の緊急納品も求められてますよ。一本200Gです。とりあえず10本ほど収めておきましたけど、4桁欲しいと言われました」
「すごい本数ですけど……安いですね」
「流通価格を抑えないといけないので仕方ないんです。MPが無いんでそんなに作ってられません」
20万Gはかなりの金額だけど、今のスキルで全部ブースト無しランス系で作ると必要MPは16200くらいのはずだ。MP回復向上で1時間に66回復するようになってるけど、1000本作ると246時間分くらいのMPを使う。MPを十日間それにしか使えないとか時間の無駄もいい所だ。
「あればあるだけ欲しいって言うのは事実だろうな。俺も欲しいぞ。もらった分はほぼ打ち尽くした」
「私も使わせてもらいました。あれのおかげて4つもレベルが上がりましたよ」
昨日グローブさんと別れるとき、遠征調査中に作ったものをそれなりに渡していた。
エトさんの使っていた
「まあ、卸業は他の
「そうだな。アナウンス聞いたがもう上がらないだろう2次職になるのか、他の1次職に行くのか知らんがスキルとステータス引き継げるのはうらやましいぜ」
「ええ、次どうするか決めてなかったので落ち着いたら調べて転職先を探そうと思います」
転職自体に回数制限はないけど、像での転職は1日1回とかだったはずだ。
「さて、何はともあれ清算だ。まずはギルドからの報酬、これはワタルとエトにそれぞれ240G」
外周調査遠征の参加報酬、約二日半分で240Gだな。聞いていた通りギルドからの依頼は安い。帰還の宝珠を支給してもらってるから当たり前だけど。3日目に中継村を経由で来てないのがしっかり引かれている。
「それから、道中の魔物と蟻の巣穴の精算分。ワタルと別れるまでだな。トータル1800Gに見積もってもらった。これは二人で分けてくれ」
概ね想像通りの金額。
「グローブさんは良いんですか?」
「俺はギルドから月給が出てるからな。今回は貰い物も多いし、経験値は稼げた。問題ないさ」
「じゃあ、ありがたく」
「ありがとうございます」
「あとは、エトにはワタルと別れた後の分もある。これがびっくり3580Gだ」
「どんだけ倒したんですか」
「回収しなかったドロップもあるのにこれだからな」
「封魔弾使うと敵の強さが良く分からないんですよね。あれはそう言う意味では悪いアイテムです」
「まあ、何でもいいさ。受け取っておけ」
「さすがにそれは半分で良いですよ。そもそも封魔弾がグローブさんの持ち物ですよね」
「俺も貰い物だが……」
「俺は良いんで二人で分けてください」
こっちに視線を振られたので先に断っておく。
封魔弾提供は魔王討伐のための投資事業だ。稼いだ分は人類再興のために使ってくれ。
「それじゃあ、こっちは分けさせてもらおう。あとはドックタグの回収だな」
グローブさんに借り物のタグを渡す。これで調査遠征の精算は終わりだ。
「あとは二人にはギルド経由で領主から呼び出しが来てる。二日後の午後だな」
「一緒にですか?」
エトさん、眉を顰めるのはどういうことですかね?
「俺がギルド代表で連れて行けと言われたよ。あきらめてくれ。それから、ワタルはもう少しギルド長が話を聞きたいとさ。午後に時間を作ってくれないかって聞かれた」
「……了解です。まあ、積極的に断らなければならない理由も無いので大丈夫です」
「OK、伝えておく。そんなとこかな」
とりあえずエリュマントスの所持金と合わせて一万G以上所持金があるから、生活には困らない。
集合知で転職先を調べながら、自分用の封魔弾を作っておこう。
「ああ、それと、ワタルにもう一つ伝言」
「はい?」
「預けていた少女が目を覚ましたそうだ」
……すっかり忘れていた。
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