第432話 従者共感
穴倉に戻ってから
人の操作は初めてだったが、寝ている状態でも命令は出せるらしい。寝てる間ではねぼけて手足を動かす程度の動きだが、確かに動いている感覚を共有できた。
『
『なんで突然スキルの説明を始めたんだ?』
『言い訳をしたい事もあるのであろう』
ヤカマシイ。そう言うツッコミは要らないんだよ。
『感覚の共有は2次職までに比べて強力で、これまでの視覚、聴覚のほか嗅覚、触覚、味覚の共有も可能です。ただし使役した生き物の感覚を人類に変換するので、生き物によっては欠落やノイズもあります。また同時に1体しか接続できません。使役は直接身体を操作するというよりは、こちらの意図を伝え、対象が解釈して実行に移します。スキルの遠隔発動も当然できません。今の段階では、ちょっと使い勝手の良い索敵、観測スキルです』
効果範囲がINT×メートルなので、あまり離れていると接続が切れる。
ただ使役対象を探索するスキルは
『まあ、そんなわけで後数時間は大きな動きは無いでしょう。俺はしばらく寝てます』
恐らく3時間ほど、穴倉の中で雑魚寝ではあったが、少し頭がすっきりした。
目覚めるとコゴロウに変わってアーニャが合流していて、ダラセドさんがMP確保のため
状況を聞くと『あんまし出入りが無い』と帰ってきた。普通の街なら冒険者が散らばっていく時間だが、やはり魔物の領域だとそう言う動きは少ないらしい。
クリスタルを埋め込んだだけの
アーニャに
「……イカサマっぽい」
「スキルは使い方次第だよ」
MPには余裕があるのでガンガン掘り進もう。窒息が不安なので通気口も合わせて作る。穴を上には空けられないので、穴倉の出入り口に圧縮を仕込んだ錬金窯を設置し、通路通った空気が通気口を抜けて排気される仕組み。ジェットエンジンモドキの応用だ。
昼前くらいにはウーレアーの城壁近くまで到達する。概ね1キロくらいは掘ったか。エルダーたちに指導を受けるようになってから、平時でも変成のコントロール精度と効率が上がったな。踊ればもっと早かっただろうが、アレは切れた後にダウンするからダメだ。
『こんな所まで進んでバレないか?』
『城壁の中に引っかかるとダメだろうけど、外なら大丈夫なハズ』
地表からは5メートル程あるから、初級の索敵スキルだと探知できない。
中級以上の索敵スキルはまず常用されないし、この深さの俺達を探知しようとするとさらに限られるから危険度は低い。注意して
『ちょっと繋いでみる』
この位置なら5人がスキルの効果範囲内に入る。残り二人は街の反対側、それに鉱山の中にいるらしく届かないが場所は分かる。5人はバラバラなので、とりあえずには十分だろう。
……
採光のためか、この世界の建物にしては珍しく大きく窓が開けられていて、涼しい風が入り込んできている。
「……でもさ、やっぱり微妙じゃない?あの人たちいつも暗いし、働き者ってわけでもないしさ」
「それは仕方ないわよ。魔物様たちに負けて、無理やり連れてこられたんでしょう」
どうやら針子、裁縫師たちの作業場だったようだ。比較的年齢の若い複数の女性方が、話しながらも針仕事にいそしんでいる。作っているのは……革製品?ジャケットか革鎧か……靴屋ではなさそうだな。
「それでも、食べる物も着る物も寝るところもあって、怪我だって治ってるじゃない。あっちなんて、奴隷になったらひどい扱いだって聞くわよ。襤褸切れ一枚で、ろくに食べ物も貰えないとか」
「それも場所に寄るんじゃない?ほら、南から連れて来られた人たちと、北から連れて来られた人でだいぶ性格が違うし」
「あたしは北の人が良いわ」
「あっちの方が暗くない?」
「ちょっと暗いけど、南の人たちは我が強くてね。立場もわきまえず贅沢な不満も言うし」
「それはそうね」
話の内容からして、魔物に捕まった奴隷たちの話をしているのだろう。
邪教徒の勧誘のため、捕らえた捕虜と結婚させることがあるからそう言う話かな。有益な情報は少なそうなので次に行こう。
別の対象に切り替えると、今度は真っ先に熱気が共有される。熱い。次に感じるのは腕にかかる重み。視界がクリアになると、真っ赤に燃えた金属が穴の中に注がれていく。どうやら鍛冶屋の工房らしい。ついでに空腹も襲ってきた。
「たらたらしてっと固まっちまうぞ!腰いれろ!」
どうやらまだ若い職人らしい。クリスタルを埋め込んだ中に、見た目は10代後半位の人間族の男がいたはず。彼だろうか。並べられた砂型へ順番に注ぎ、足らなくなったら大きな炉から継ぎ足してまた注ぐ。
スキルを使っていない?……違うな。この湯くみが錬金窯と同質で加熱が発動している。さらに……軽量化か?一人で運ぶ重量じゃない気がするな。
作っているのは……ツルハシっぽいな。結構な数だ。鋳造で形を作り、刃の部分だけは鋼を鍛造する方式だろうか。STRが高い者が使うには粗悪品だが、数を作るには早い。と、いうことは数が必要な依頼が来ているのかな?
暫く作業が続くようだったので次へ。
「……ほら急いだ急いだ!腹すかせた野郎どもが待ってるんだよ。さっさとおし!」
鉱山近くの建物の中、自分が張り上げている声に驚く。30代後半から40くらいのおばちゃんだったか。そのまま自らも寸胴を抱えて外へ出ると、ロバの引く荷馬車に並べていく。
どうやら調理場となっている建物のらしい。運んでいるのは奴隷向けの食事か?いい匂いが辺りにだただよっている。
「今焼いてる分は!」
「間に合わないから後だよ!3交代制なんだ、昨日みたいに一気に運ぼうとして、最初が遅れたら意味無いだろ。いいよ!出発しな!」
荷馬車が出発するのを見送らず、新たな鍋を火にかけ始める。
ずいぶんと慌ただしいな。鉱山で働く人数を増やしている?……アマノハラの復旧で資材が必要になって、急ピッチで掘削を始めたのかな?
次に切り替えると、町中心部の事務所だった。
「……ですから、北だけじゃなくテラ・マテルにも
20代半ばくらいのお姉さんだったか。書類を見ながら進言している相手は顔色の悪い男……多分、カマソッツと同じ悪魔っぽい種族。似た種族幾つかあって詳しく分からないが、背中に見えるのはカラスの羽か?
「そうは言ってもな。人手が足らん。ネプトゥーヌスを待たせて、専属ポーターを近くの村に派遣した分で何とかならんのか」
「その分、人も呼び込んだじゃないですか。普段狩りに出ている人たちも鉱山と輸送に回すなら、どこかから不足する分を補わないと」
「……我々が狩りに出るか?共食いをしなければいいのだろう?」
「それをする位なら穴を掘ってください。レベルの取り分が無駄になります」
「生産行為に準ずるので身体が止まる」
「狩りだって同じでしょう。伝令だけ出しましょう。向う側の
「……仕方ない。なるべく足の速いのを使わせる。口が利けないかもしれんから文書を用意せよ」
「……ご自分で飛べばいいのに」
「何か言ったか?」
「いいえ、何も。……2時間で準備しますから、よろしくお願いしますね」
そう言うとお姉さんは自席に戻り、男は……あ、石になった。こいつガーゴイルの亜種か。
どうやらウーレアーは鉱山をフル稼働させるのに人を使っているようだ。結果として、普段周辺から価値あるモノ、つまり食料を集めている狩人が不足しているらしい。
人手が無いのもこのせいかな。
デスクワークを見守っていても仕方ないので、次へ。
こいつは20代後半の男か。ちょうど食堂のカウンターに腰を下ろしたところだったようだ。
「お疲れさん。その後どうだい?」
既に注文済みだったのか、それとも1種類しかメニューが無いのか、食事を持って食堂のオーナーらしき男が声をかける。
どうやら顔見知りらしい。
「いまいちだね。人手が足らなくて、昨日運んだ荷物を自分で配る羽目になってるよ。ネプトゥーヌス行も、いつになるか」
「ご主人の機嫌を取るのも大変だろ」
「そっちは問題無いんだ。人手不足の一因が、そのご主人様が大々的に粛清なんてしたせいだからさ」
「って言っても10人やそこら、それも役立たずのクズ共じゃないか」
「年齢が高けりゃ、どの職業でもレベルは上げてるからさ。器用貧乏だろうが、性格が悪かろうが、問答無用で働かせるなら役に立つ時もあるさ」
「タイミングが悪かったよなぁ。後半日、アマノハラの情報が早けりゃ、奴さんたちも死なずに済んだろうに」
「それだとご主人様の機嫌が悪くなっただろうから、今のほうがマシさ。何せ念願だ」
「恨みが深いってのはこわいこわい。じゃあ、しばらくは居るのか?」
「んにゃ、今朝マム姉さんが入れ替え輸送を提案するって言ってたから、数日で出ることになるんじゃないかな」
「って事は専属なのにこっちからも運ぶのかい?そりゃ大変だ」
「
「そのご主人は?」
「鉱山で臨時鉱員にバフかけてるよ。俺も飯食ったら行かないと」
「おつかれさん。出発前にはよりな。昼飯に色つけといてやるよ」
「いつも悪いね」
次の客が入ってきたのか、主人はカウンターを離れて行った。
……ふむ、これはアタリを引いたかな。
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