第31話 ギルドからの依頼

□冒険者ギルド・食堂□


「うっす。隣良いか?」


「グローブさん、3日ぶりですかね。ラルフさんも一緒ですか。どうぞ、どうかしましたか?」


秋魔の森への遠征から数日。

昼休憩に食堂で飯をいただいていると、二人が連れ立って顔を出した。


「なに、ちょいとあってな。食いながら話そう。封魔弾の作成は順調か?」


「絞られ過ぎて魔力カツカツですよ」


遠征の翌日、封印付与シールで攻撃魔術をエンチャントした鉄球や矢を持ち込んだところ、えらく気に入られた。試しに炎槍ファイア・ランスで巻藁を吹き飛ばしたのが効いたらしい。

まずは試供という事で、売店に数十個、それから初心者講習の終了時や、依頼達成時の報酬として少量を配布、と言うことに成ったのだが、翌日には増産をと言う話が持ち込まれ、昨日今日は缶詰でオーダーのあった魔術のエンチャントをさせられている。


通り名はアース式封魔弾。


ギルドから来るオーダーは試行錯誤の面も多いけど、すでに購買の物は品薄で結構な人気らしい。

卸した数は数えてるけど、売上金はギルドにあずけっぱなので、どれだけ好調なのかよくわからない。


「ギルドの魔術師を何人か付与魔術師エンチャンターにするって話はどうなりました?」


「進んでいるな。ただ、転職後はやはりほとんどの魔術が使えなかった。一応は戦力だからな。ずっとは厳しいし悩ましい所だ」


ギルドが雇っている魔術職は数名いるらしいが、彼らは緊急時の戦力でもある。

詠唱でなら魔術を使えるが、発動に時間がかかるため戦闘となるとどうしても厳しい。

スキルを覚えたら元の職に戻る、と言うのも1次職では出来ない。そして2次職まで行った術士は引退してもギルド勤めなんかしない。もっといい雇用先がある。


「しばらく増産は期待できないからよ、また俺の分融通してくれな」


「もう使い切ったんですか?」


「後2発。自重するつもりだったんだが、500Gクラスの熊が居てな。試してみたくなった」


「……どうでした?」


「雷でスタンさせて、炎で追撃で沈んだ。タフネスが高い熊を2発なら、同価格の人型は一発で仕留められそうだ」


「……む。私のところで聞いているより威力が高い気がするが?」


「グローブさんに渡してるのは威力重視の特注品です」


魔力強化マナ・ブーストの付与を使った2重掛け品だ。俺のストックも20個ほどしかないし、MP消費が大きいのでそんなに数が作れない。

ブースト無しのランスで一撃なのは100G半ばくらいまでだろう。


「それも気になる所ではあるが……まあ、置いておこう。本題はそれじゃあない」


「なんです?改まって」


「ギルド職員にならないか?」


「お断りします」


ようやく教会からの勧誘が落ち着いたと思ったら、今度は冒険者ギルドからかよ。


「にべもしゃしゃりも無いな」


「そりゃそうですよ。別に自分を売り込むために持ち込んだわけじゃないですからね」


「聞いている。まあ、そっちは挨拶みたいなもんだ」


「……圧力にしか聞こえないのでやめてください」


実際のところ、“自分の儲け”以外を考えて仕事をする人材はなかなかいないらしい。医療術を教会に授与したことで目を付けられて、今回の件で一度ギルトマスターから勧誘が来てる。


「それで本題なんだが、受けてほしい依頼がある」


「俺にですか?」


「俺からの推薦だぜ」


グローブさんからの推薦?


「とりあえず、今アインスの周りで起こっていることから説明しよう」


バノッサさんによる魔物の乱獲からこっち、アインス周辺の魔物は減り続けていた。

強力な魔物が多数狩られたことによって、このあたりには中級冒険者がてこずるような魔物が居なくなっている。このためこの周辺で活動する冒険者の1日当たりの活動時間が伸び――MPやスタミナ切れを起こさないので――結果としてさらに魔物の減少が加速した。


それはいい。魔物が居なくなれば街も周囲の村も発展する。

ただ、問題もあって、魔物が減ったせいでアインス周辺で活動する冒険者の総数自体が減り始めている。


「先日の市の時も、明らかに人の人数が減っていた。依頼も少ないが、それを受けに来る冒険者も少ない。実際、中堅の冒険者たちは活動場所を別のところに移している」


アインスに居たのはもともと駆け出し~中堅、精々1次職マスターくらいまでの冒険者たちだ。

ラルフさんのような2次職は数えるほどしかいないし、バノッサさんのような3次職はそもそも居ない。また、そう言う人たちが流れてくることもまずない。


「さらに追い打ちになっているのが、王都をはじめとする王国内のいくつかの都市で、魔物の動きが活発になっている点だ」


数日前から入ってきている情報だと、幾つかの街の周囲でサウザント級の魔物が目撃されたり、討伐されたりしているらしい。

それで上級職が狙えるパーティーは既にアインスを離れてしまっている。


「特に変わった話でもないと思いますが?」


このあたりの魔物の勢力が弱まったとすると、ほかの地域が活発になるのは昔からあることだ。

現在この周辺は自然の実りを魔物化させる力が弱いわけで、同時に魔物になっていない“価値あるモノ”がそれなりに溜まっているって事でもある。

なので、各地の魔物がこの周囲を目指して移動をする、なんてことも起きるわけだけど、結局全体の密度は下がるので大きな影響はない。魔物の移動に合わせて、また冒険者も戻ってくるだろう。


「それだけならな。問題は自然発生すると思われる弱いモンスターも少ない点だ」


「……少ないんですか?」


「このあいだ秋魔の森に行ったろ?あそこは普通、この時期はまともに歩けるような場所じゃねえよ」


数Gから数10Gの魔物がひしめき森からあふれ出すらしい。確かに、100G級はちらほらいたけど、数は少なかったな。弱いモンスターはほとんど見なかった。


「秋口だからな。低レベルモンスターはむしろ増える傾向にあるはずなんだが、それすらない。今年は実りが悪いのかと聞かれればそんな予兆は無い。考えられるとすれば、共食いが発生しているか、実りを集めてため込んでるやつが居るか……」


「なる程」


集合知の知識によると、魔物の発生パターンは2種類ある。


一つは自然発生で、これは天然の薬草や鉱石など価値のあるモノと魔王の呪いが干渉しあって発生するもの。生まれる魔物自体は弱く、また数も少ない。


もう一つは知能を持った魔物が“価値あるモノ”を集めてほかの魔物を生み出す事。魔物だけに使える儀式的な魔術で“価値あるモノ”を同族に変えるのだ。貨幣ばかりで構成されたゴブリンとかこのタイプ。後、余波で1G未満の魔物が生まれたりもする。


「さっき話した熊が天然物ばかりだったからな。周囲で取れるものを考えたら、そんなのが数十匹から数百匹単位で居ても不思議じゃない。まあ、共食いイーターなら群れることは無いから対処は楽だけどな」


ん~……確かに、初心者が多く、中級冒険者も減っている状態で500Gクラスが同時多発的に発生してるとちょっと面倒だな。

俺は多分問題ないけど、近隣の村や凪の平原で活動する初心者たちには致命的な相手になる可能性がある。


「って事は、依頼は調査依頼ですか?」


「ああ、外周遠征調査と呼んでいる」


ギルドが把握している山道やけもの道を伝って、アインスの周り半径10キロから20キロのエリアを、幾つかのパーティーでルートを決めながら探索。調査結果を持ち寄るという内容だ。

ほとんどのルートは2泊3日くらいで、山中での野宿もある。本来は冬の始まりと春の半ばに行うらしいが、ひと月ほど早く行おうとなったらしい。


「それに参加してほしいって事ですね」


「ああ。グローブから大分腕を上げたと聞いているし、提供してくれているアイテムもなかなか心強い。報酬は弾むとは言えないが、ランクアップには十分貢献できるはずだ」


ギルドはよくあるランク制を採用していて、俺は駆け出し最初の最初、ランク1。高けりゃ高いほどギルドからの依頼やサポートも受けやすくなる。協力しておいて損は無いかな?


「出発はいつですか?後、俺一人じゃないでしょう?」


「早い方がいいのだが、足並みをそろえる必要がある。三日後の予定だな。メンバーはグローブがリーダー。キミと後一人か二人誘って3~4人のパーティーになる予定だ。人選は希望が無ければこちらでする」


……妥当なところかな。それ以上増えると普通は荷物が増えて行軍速度が落ちるから、調査隊としては妥当な人数。グローブさんとは何回か組んで実力も分かってるし、不満はない。

顔つきは相変わらず悪いけどな。


「分かりました。受けましょう」


「助かる。一応、前金が出る契約を用意したから、それで準備をしてくれ」


「顔合わせは明後日の予定だから、よろしくな」


飯を終えて受付に行くと、リリーナさんが契約書を説明してくれた。

工程は2泊3日。報酬は前金で200G、後払い300G。魔物との戦闘は回避可。手に負えないクラスの魔物と遭遇した場合は即時撤退、報告。リーダーには撤退用の魔道具アーティファクトを付与。報酬がくそ安いのはこのためか。


「……数週間前に冒険者になったばかりなのに、こんな依頼が行くようになるなんて、不思議ですね」


「貴女がバノッサさんを紹介してくれたおかげですよ」


簡単な世間話もかわして、ギルドを出ようとしたら購買担当に捕まった。

それはそれとして封魔弾を納品しろと。

……畜生。なんでみんな俺をそんなに働かせたがるんだ。

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