第321話 ホクレンの戦い1

「初撃はバノッサさん、アルタイルさんの2名で。アーニャは索敵兼ドロップ回収を!ハオランとタツロウは街を目指して着陸許可の交渉を。露払いですまなければコゴロウを投下する。それじゃあ、幸運をグッドラック!影の扉よ!いずこかへ開け!影渡しシャドウ・デリヴァー!」


前を行く魔物たちの後方500メートルに近づいた俺は、出撃メンバー10人を大地に落ちる影の中に転送した。

敵は既にこちらに気づいている。こちらの迎撃に向かってくるのが2割。残りは変わらず街に向かって進軍中だ。

バノッサさん達応戦組は、先行する一段への攻撃を行えるよう、かなり遠くに送り出した。向かってくる100体くらいはこっちで対応しないといけない。


『高度上げるよ!目くらましよろしく』


斜めに船体を切り返しながら高度を上げていく。

そこに迫ってくる魔物の群れに向かって、飛行船から魔矢マジックアロー魔投槍マナ・ジャベリンが降り注ぎ地面をえぐる。


『引き金を引くだけでいいのは楽ね』


『しかし、さすがに当たりませんね』


弾速がそれなりに早いと言っても距離がある。敵が100Gや200Gでもバラまかれた魔術くらいは回避するか。


『倒すよりこのまま引き付けよう。早い所離れないと余波が怖い』


攻撃班が攻撃を始めたら魔術の余波に巻き込まれかねない。

飛んでる機体の脇でストーム系魔術が発動したりしたら酷いことになるだろ。


『面舵いっぱい!弾幕張って敵を近づけない様に!』


………………。


…………。


……。


「どうせなら真正面に出してくれれもよかったんだがな」


ワタルの転送で地上に降り立ったバノッサは、目の前を進む魔物の群れをそう独り言ちた。


「いやいや、アレに追いかけられるのは御免ですよ」


「追いかけさせるようなへまはしないさ。さっさと街へ迎うんだな」


「くれぐれも巻き込まないでくださいね!」


3次職の恐ろしさを知っているハオラン・リーは、スキルを発動すると街へ向かって走り出した。

それを見送って、魔物の群れを見据える。魔物たちは少人数のこっちを気にする様子はない。おそらく攻城能力を持つ魔物を射程内まで届けるのが目的だろう。バノッサはそう推測すると、隣に立つアルタイルに視線を送る。


「今回は連携など無く力押しです。出し惜しみなく行きましょう」


「ああ、少しはレベルの足しになることを期待だな」


そう言って並び立つ3次職の賢者と魔導士。

まだレベルは低い二人であったが、1次職の極めし者マスターとなり底上げされたステータスは、通常以上の能力を発揮させる。


重力の嵐グラビティ・ストーム


火炎暴風ファイア・ストーム


数百G程度の魔物にコレを防ぐ力はない。二人の放った嵐が吹き荒れ、魔物たちを薙ぎ払って行く。


「ちっ、防ぐ奴が嫌がるか」


しかしバノッサは冷静に戦況を見ていた。

魔術が発動する直前、魔物たちを守る様に障壁が生まれるのを見逃してはいなかった。


「1万Gに届きそうなのが7体、それよりちょっと弱いのが16体、残りの1000越えが50位で、その下はごちゃごちゃ!今ので弱いの2割くらいは減った!」


索敵の為、サーチを発動していたアーニャが叫ぶ。

想像より強い魔物の数が多いと、バノッサは眉を顰める。炎の賢者のであったなら、この程度は伝説級と呼ばれる魔術で薙ぎ払うことが出来たが、今はその力はない。1万G級付近は高速移動スキルも使う可能性があるとなると、薙ぎ払うのも一苦労しそうな数だった。


「来るぞ!偉大なる障壁グランド・ウォール!」


魔物たちもただ茫然と攻撃を受けているわけではない。さっきの攻撃でバノッサたち一団を傷害と判断したらしい。そちらに向けて猛スピードで前衛が距離を詰めるとともに、その背後から矢と魔術が降り注ぐ。

それを飛び出したアル・シャインの防壁を展開して防がmしかしてそれだけでは終わらない。


泡の盾バブル・シールド


間一髪、バノッサたちを包み込むように発生した炎の嵐を、泡の盾が防ぎきった。


『魔術と物理で波状攻撃をしましょう。バノッサさんは、石投槍ストーンジャベリンを』


『そうだな。数を減らすか』


多重詠唱マルチキャスト雷撃球サンダーボール!」


多重詠唱マルチキャスト石投槍ストーンジャベリン


発生した雷撃級は20。まばゆく輝く光弾が敵陣に向かってバラまかれ、雷光轟かせて爆発する。

それを読んで発生した魔術障壁を、バノッサの放った石投槍ストーンジャベリンが貫いて敵の一団を薙ぎ払う。


『今ので半分減ったな。そろそろドロップ回収がてら乱戦でいいか?とりあえず弱いのから狙うから』


『え、いや嬢ちゃん、いくら何でも』


『そうですね。お気をつけて』


戸惑うバノッサをしり目に、アーニャが飛び出していく。


「いやいや、いくらレベルが高くてもあの嬢ちゃん大丈夫か?」


「彼女がやられるようなら、撤退を考えるべきですね。さて、経験値とMPが欲しいので我々も丁寧に各個撃破していきましょう。1万Gモドキのトドメは早い者勝ちですね。頑張らないとアーニャさんに全部持っていかれてしまいますよ」


「ちっ、調子狂うな……まぁ、やったるか」


二人の魔術を運良くかわし、アーニャの刃から逃れた魔物たちがバノッサたち一団に向かって殺到する。

7人はそれを落ち着いて迎え撃つのだった。


………………。


…………。


……。


高速移動を発動させたアーニャは、パッシブスキル、さらに呪法である体動強化と反作用低減を重ね掛けして加速する。

物理限界を突破する手立てを得た彼女の速度は、すでに人間の域を軽く超えていた。


「ハッ!」


敵の脇をすり抜けるとともに全劇を放つ。それだけで胴体を真っ二つにされた魔物はドロップ品姿を変えた。

それと同時に地面に落ちたドロップを、盗賊スキル財宝発見トレジャー・アイで確認し、的確に収納空間インベントリへと回収していく。


「コイツ、ハヤ!?」


不運にも目の前に立ちはだかったゴブリンナニガシが、何かするまでも無く防具ごと真っ二つに切り捨てられた。

おそらく1000Gくらいの能力はあっただろう。しかしその程度の相手は気にも留めない。


降り注ぐ魔術、追尾してくる矢は、小さく展開した盾でそらしてかわす。

魔操法技クラフトによって発生させたシールドは、最小限の動きで防御を可能にする。それは通常ではありえない高速戦闘を可能としていた。


「オノレ!重強……!?」


理力の剣フォースソード!」


アーニャの声に呼応して、二振りの剣に光が宿る。

大槌振りかぶったサイ頭の魔物は、スキルを発動する間もなく、明らかに刀身より厚いその身を真っ二つに割られて消えた。

数千Gの魔物も、足を止める理由には成らない。


アーニャが駆け抜けた後は、一筋の線が走ったかのように空白地帯が出来る。

最高速を落とさぬまま敵の集団の中を駆け抜ける彼女に、追従して戦えるものは残念ながらいなかった。

魔物の一団との接触から約5分。魔物の数は2割にまで減っている。

……しかしそれで諦めるような相手でもない。


「捕らえたぞ!戦闘空間バトル・フィールド!」


「おっと!?」


目の前に展開された障壁に脅威を感じたアーニャはそこで足を止めた。


「入るは自由、しかし俺たちを倒すまで出られぬ結界だ!この広さなら自由に動き回れまい!」


半径10メートルほどの小空間。

中に居たのはオーガタイプの魔物3体。1万G弱と思われる1体は戦士タイプ、残り2体は数千G級の取り巻きの術師。


「ん、とりあえずあたしの分はお前か?」


2次職といえど一人で戦うには絶望的な魔物たちを前に、アーニャは動揺することも無く剣をかまえるのだった。

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先日5話を公開したスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!

アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

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