第204話 水魔術を試してみた

ドロップ品の回収を終えて、ミスイの街に戻った所検問に人だかりが出来ていた。


「近くの海で広域魔術が使われたという報告があったから、魔物の群れが発生してい居ないか確認しに行くんだ」


広域魔術は目立つらしい。

隠しても仕方ないので、自分たちだと証言して、後は冒険者ギルドで清算を兼ねての報告を行った。


「海への広域魔術の行使は、2次災害を発生させる可能性があります。特に街の近くではご注意ください」


多少の小言は貰ったものの、大きな問題は起きなかった。

ドロップ品の合計買取価格は一万Gを越えた。大物は殆ど無いが、100G前後のドロップをかなりの数集めることが出来た。古の封魔弾――仮に呼称する――もぼちぼちの数出ている。自分で使うのは微妙なので、とりあえず売却だ。


「好き勝手魔術を使って平気な訓練用の海岸ってありません?」


「……一応、ギルドの訓練場の中に人魚、魚人向けの方の海域が有りますが……場所は教えますので、後は現場で訊いてください。たぶん中級魔術はNGだと思いますよ」


「そこは大丈夫です」


とりあえず、海域とやらに行ってみよう。


「訓練場に行くの?」


「そのつもりだけど、どうする?」


さっさと上がってきたのは、周囲に魔物が居なくなったからだ。

午後になったばかりなので、時間は十分にある。


「私は浮遊船の組み立てをしてしまおうと思います。タリア、手伝ってもらえますか?」


「いいわよ。荷物頂戴」


浮遊船の材料をタリアの収納空間インベントリへと移す。


「あたしはワタルと一緒に訓練所に行ってみる」


「んじゃ、何かあったら念話チャットで連絡をよろしく」


二人と別れて、海沿いの訓練場に向かう。

海沿いの訓練場は、漁船の並ぶ港の一角に作られていた。海にせり出した石積みの桟橋は、魔術と水棲種族の手によって作られた物なのだろう。かなり頑強に作られているようで、日本の物と比べても遜色がない。それがいくつも並んでいて、その桟橋の一番奥にが訓練場に成っているらしい。


「人間が来るなんて珍しいな」


この訓練場を戦うのは、水中戦を使うのは人魚や魚人などの水棲種族。後は両生類族や海イグアナのリザードマンなどの希少種族、それに海に潜るタイプのバードマンなどらしい。後半は人間族や獣人族に比べると圧倒的に数が少なく、今いるのは人魚や魚人たちだ。


「水中の魔物と戦う訓練をしたいのですが、海上から魔術を打ち込んでも平気ですか?」


「それならそこの射撃エリアを使うといい。桟橋から水中にも的が見えるはずだ」


王の字を繰り返すように伸びた桟橋の一角、20メートル四方程度のエリア。その真ん中あたりに、何か目立つ配色の構造物が沈んでいるのが見える。深さは5メートル程だろうか。


海中からの射撃にも使われるスペースだが、現在は潜っている人が居ないようだ。使用中を表す看板を沈めておけば危険も少ない。


「さて、まずは……水魔術の検証からかな」


午前中の戦いで、氷結暴風アイス・ストームを使えば海面を凍らせることが可能であることは分かった。その厚さは十センチほどだったが、実はもう一つ分かったことが有る。凍った海面は、実は浮いていた魚を中心に厚さが違うという事だ。

魚の周りの方が氷の厚みが大きかったのである。


これは推測だが、氷結暴風アイス・ストームで海面が凍る際、全体が一気に凍結したわけでは無く、核となる魚を中心に凍結が進み、それが繋がることで1枚の大きな板氷が形成されたのだろう。

つまり、核がとなる何かが海面に浮いている方が都合が良い。

そして、それなら核も氷で作ってしまえばよい。


「変幻自在なる水の神の助力にて、移ろい変わる潮流を、零下の衝撃へと導かん!凍結弾フリーズ・バレット!」


ターゲットに向けて魔術を発動させたとたん、海面がはじけて氷の粒となったしぶきが舞う。


「……ん~……あんまり凍ってないな」


バレット系の属性ダメージは補助みたいなもので、基本的には衝撃波だからな。

衝突の瞬間に発生した冷気で凍結はするものの、衝撃で砕けてすぐに溶けてしまう。


「的にも届きそうにないな」


「それは仕方ないね。ここから打ち込むと、的まではかなりの水を押しのけなきゃいけないし」


続いて凍投槍アイス・ジャベリンを打ち込む。これはぼちぼちな氷の粒を作るものの、斜めに打ち込む関係上衝撃で吹き飛ばしてしまう。吹き飛ばされた水しぶきが対岸の桟橋まで届いている。


「真上から打ち込めばそれなりに効果は見込めるかもしれないけど、ビットじゃ詠唱魔術の起点には出来ないしなぁ」


攻撃用の魔結晶を作っても良いが、取り付け位置を真下に向けないといけない。

余り直感的な操作が出来ないし、実用性は低いかなぁ。

次いで凍槍フリーズ・ランスを打ち込むが、これは凍投槍アイス・ジャベリンとほぼ変わらず。巻き上げる水の量はこちらの方が多い。


「すっげぇしぶきが上がってるけど、氷を作るなら直接冷やす魔術はないのか?」


「なくは無いけど、俺は使えない」


炎で言うところの火炎放射のように、冷気を放射して相手を凍結させる魔術は存在する。だけど中級魔術だし、照射時間がイコールダメージになるこの手の魔術は、詠唱では使いづらいので覚えていない。


「単に冷やすだけなら、錬金術師アルケミスト冷却クールの方が効率が良い」


収納空間インベントリからカップを取り出して海水を組み、それを氷に変える。

海に冷却クールを使ったところで、凍る前に対流してしまって氷は出来ないのだけれど。


残り使える凍結を促す魔術は、凍旋風ワール・フリーズ氷結弾フリーズ・シェルかな。

凍旋風ワール・フリーズ氷結暴風アイス・ストームの弱い番みたいな感じだから、氷結弾フリーズ・シェルを使ってみよう。これは冷気をまき散らすタイプの魔術なはずだ。


「変幻自在なる水の神の助力にて、たゆたう水は我が手の中で氷塊へと変わる!氷結弾フリーズ・シェル!」


手の中に生まれた、きらきらと輝く凍気の塊を的上部の海面に向けて投擲する。軽く投げたソレは、緩い放物線を描きながらエリアの中心、海面へと着弾し……。


ボンッ!


破裂音と共に冷気をまき散らし、海面に大きな氷塊を生み出した。


「おお!思ったより固まった!」


念動力で持ち上げると、海面下から数十キロは有るであろう氷塊が姿を現す。密度重視にしているとは言え、INTのブーストを掛けていない状態でこれなら結構使えるな。

詠唱せずとも、封魔弾化して時間か魔物の接触で発動するようにすれば、核となる氷塊を作れるだろう。こいつの厚みは氷結暴風アイス・ストームで作った氷より厚いから、多重詠唱マルチキャストで使えば即席の足場も作れそうだ。


「アーニャ……どったの?」


ふと横を見ると、少し離れた所でアーニャが魚人たちに絡まれていた。


「あまりに衝撃が酷いから、人が集まって来ていた。危ないから止めておいたけど、間違ってないよな?」


「……ありがとう」


……なんだろう。

ちょっと腑に落ちない感じがするが、気にしない事にしよう。

とりあえず凍結効果のある魔術の実験は終わったので、頭を下げて魚人の皆さんにはお引き取り頂いた。


その後、海底の一部を岩人形ロックドールで人形にして操作をしてみた。海中でも視界は問題無いが、水圧がきつく、思った以上に海底で戦うのは難しそうだった。殴る蹴るで魔物を倒すのは難しいな。捕まえればベアハッグのように絞め殺せるかもしれない。


まともに運用するなら、水中戦闘用の人形も作るべきだろう。

準備必要な物が多いなぁ。

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