第203話 氷結暴風と氷人形

しばらく海上を飛び回り、魔物が集まってきたところで陸地へ。

周りを見るとバーバラさん、タリアがそれぞれサハギン共と戦っている。アーニャはタリアのサポートをしているようだ。


バーバラさんは堅実な戦い方だな。相手の森をいなして的確に拳を叩き込んでいる。

ステータス差もあるのだろう。必殺の一撃でなくても、数発攻撃を叩き込めば倒せるようだ。MP効率の良い戦い方をしている。


タリアの戦い方は、念動力で放り投げた敵をメイスでぶったたくというシンプルなもの。叩くたびに雷剣が発動して、雷光が瞬いている。撃ち漏らしは無さそう。すべて一撃で始末している。

……あれは武器が強すぎるな。数百Gくらいの魔物じゃ相手に成らん。


アーニャはビットを使いながら、魔弾マナ・バレットで飛来する魚系の魔物を打ち落としている。操作は慣れたものだな。

戦い方は堅実だ。同時に2体以上に狙われない様に、タリアを盾にして的確に敵を捌いている。

彼女の周りの魔力には、スキル以外の揺らぎを感じる。手動魔術を試しているのだろう。


数体の群れが散発的に来るくらいじゃ、訓練に成らんな。


「ワタル!戻ったんだな!」


「海の方はどうだった?」


先にこっちに気づいたのは、タリアとアーニャの二人。


「ぼちぼち。戦えるけど、MP消費が激しくて数倒すのは無理。後はずぶぬれだよ」


既にMPが半分くらいに減っている。あの戦い方だと魔素吸収マナ・ドレインを使う余裕も無いし、継続戦闘は厳しいものがある。


そしてぬれずに戦うのはまず無理だな。乾燥ドライで乾かして、清潔クリーンできれいにしたが、うっとおしいのは変わらない。


「やっぱり、壊されない足場は必要だね」


船にしろ、木板にしろ水中からの攻撃で容易に破壊されてしまうようでは足場として心もとない。

魔物からの攻撃に素材として耐えるなら、かなりの質量、密度が必要になるだろう。浅い海底なら土人形クレイドールで足場を作ることも出来るが、外洋だと難しい。


「ワタルさん!見える範囲は終わりました!」


まとまって上陸したサハギン達を薙ぎ払って、バーバラさんが合流した。

サーチを確認すると、近くにいる魔物たちは根こそぎ倒したらしい。海が深くなる100メートル先位からは、大型の魔物が何匹かこちらを伺っている。

後はサーチに気づかない、価値の低い魔物ばかりだ。


「お疲れ様。とりあえず近くは居なくなって、後は海の深い所にそれなりに強いのがいるっぽいけど……どうしようかね」


「どれくらい先です?」


「波打ち際から100メートル。深さは5メートル以上あるかな」


ここからじゃ魔術で狙撃しても、水に阻まれて多分届かないか避けられる。


「……私のスキルでは難しそうですね。タリアは?」


「ん~……水の精霊か、海の精霊辺りと契約するか、MP効率無視して精霊魔術を作ればなんとかなるけど……ちょっと特化しすぎよね」


「そうだね。広域魔術で海上から倒せるかやってみるか」


サーチでいる場所が分かって居るのだから、中級の広域魔術ならダメージが入るかも知れん。


「……轟雷暴風サンダー・ストーム!」


そう考えて撃てる最大威力の範囲魔術を発動させるが。


「……だめね。多少ダメージはあるかも知れないけど、魔力反応は変わらず。……あれ?」


「……むしろ増えてないか?」


魔物の反応の周りで、小さな魔物が生まれるている。大きな魔物もわずかばかり魔力反応が上がった。

様子見でビットを飛ばすと、魔術範囲内の海面に何かがぷかぷか浮いて……あ、魚だ。


「……海中にいた魚が、魔術で死んで魔物化したな」


「……またマッチポンプに成ってるじゃない」


「よくそんな難しい言葉を。あれ、どうにかしないと還れないぞ」


まいったな。結構な数の魚が浮いている。

気絶しているのか死んでるのかわからんが、弱い魔物の核としては十分だろう。


「上がって来るのを待ちますか?」


「……取り込ませなきゃいいんだから、別の魔術を使ってみよう。……氷結暴風アイス・ストーム!」


同じ位置に凍気の暴風を打ち込む。これで海面が凍れば、一つにまとまってくれたりしないかな。取り込む物体の体積が大きく成ればなるほど、弱い魔物はモノを取り込みづらくなる。


「……海面が巻き上がってすげぇ光景」


「そういや、こいつは火炎暴風ファイア・ストームと同じで渦を巻くタイプだった」


轟雷暴風サンダー・ストームは降り注ぐだけなのだが、火炎暴風ファイア・ストームは炎が巻き上がり、氷結暴風アイス・ストームは地面に吹き付ける形で渦を巻く。今は吹き付けた風が海面で反射して氷の粒が巻き上がって見える。


「あ、魔物の反応が消えたわね」


「一匹、欲張ったのが巻き込まれて死んだな。……海面が凍ってれば、影渡しシャドウ・デリヴァーで回収できるんだけど……」


フリスビーを投げて表面に影を落とし、近場の影に氷塊を呼び寄せようとするが、うまく出来なかった。

氷塊が大きすぎて、動かせるサイズを超えてる?予想以上に冷却能力が高いな。


「ちょっとアレの上に立てるか見て来る」


「ええ?」


「氷の上は危ないぜ」


「落ちてもスキルで脱出できるから平気だよ」


ビットを起点に念動力で捕まえていたフリスビーの影にワープ。

海上の氷の上に立つと、それなりの厚さと大きさが有りそうだった。海中まで凍結しているわけでは無いが、思いのほか揺れが小さい。体積がでかいって事だ。

海面に浮いた魚はうまく取りこめている。


氷の厚さは……10センチくらいはある?

氷結暴風アイス・ストームの継続時間は今100秒くらいだったと思うのだけど……どんだけ冷却能力有るんだ? 奪われた熱量計算するのがちょっと怖いぞ。


……これだけ氷があれば、タリアの精霊魔術で流氷を作れるな。

厚さ1メートルくらいまで育てば、足元からの攻撃も気にする必要が無くなる。一応考慮してみよう。


それと……この氷なら、人形として操作できるんじゃないか。


氷塊に耐久力向上をかけてから再度砂浜に戻ると、氷塊に対して岩人形ロックドールを発動する。

土人形クレイドールの亜種で、硬度の高い岩を変形させてゴーレムとして一時的に操る魔術。土人形より耐久が高いが、対象が岩に限られるから使い勝手が悪くて使ってなかったが……。


「おお!動いた!」


氷塊が形を変えて、巨大な人形が形作られる。


「何よアレ」


「氷人形。もしかしてと思ったら出来た。人形操作ドール・マニュピレイト


海へと沈んでいく氷人形を操作する。

結構操作が難しい。速攻で魔物にまとわりつかれている。結構な巨体だ。身体を動かしてどつくだけで、弱い魔物は巻き込まれて死んでいる。


「渋きがすごくて何が起こってるか分かんねぇ……」


「今大型の魔物に絡まれてる。ああ、あかん。ダメージはともかく、融ける。さっさと上がろう。どっせい!」


近くにいたイルカ型の魔物を陸の方に殴り飛ばし、ついでに亀の魔物を掴ん放り投げる。


「打ち上げられた奴の対処お願いしていい?」


「わかりました。とどめを刺してきます」


近くにいる魔物を捕まえては放り投げながら、氷の巨人は陸へと上がる。

動きが早い魔物は相手できないが、この戦い方は有りかもしれない。水に沈む人形で水中戦闘するのが良いかな。


完全に自ら上がった時、氷人形は大きさが3割ほど小さくなっていた。回収した魚は人形の中心に寄せていたから無事。

人形操作ドール・マニュピレイトで氷が解けていくのが分かるのはちょっと嫌だが、臨時の手法としては使えそうな技術だ。


そして水中で動かせる人形なら、多少は水中戦が出来ることが分かった。ちょっと水中戦闘も考えてみよう。

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