第194話 死霊術師の罠

タリア達と別れた後、俺は先行した一団を追いかけて足を進める。

道をざっくり切り開きながら進軍しているため、追いかけるのは比較的容易い。しかし速いな。

今回出撃している内、半数は1次職である侍と足軽の混成部隊。そこに魔術師系と治癒師系の職が少し交じり、残りは2次職以上となっている。

侍や兵士が肉の壁となって術師たちを守り、攻めるのは個人戦闘能力の高い2次職以上という布陣だ。

すぐに追いつけるかと思ったが、後姿が見えない。練度が高い。


サーチには後方集団を捕らえている。

俺の方がステータスが高い分早くて、魔術師が入っているにもかかわらず、予想より差が縮まらない。

やはり人を相手にするのは厄介だな。


しばらく走ると後方集団に追いつき、それと同時に広がり始める。

どうやら整備されたエリアに入ったらしい。高い木々が空を覆うように枝を張り巡らせているが、地面は低木も下草も無い。ついでにこの辺照葉樹ばかりだな。落葉樹が混ざっていてもよさそうな物なのに。


「っ!」


部隊が足を止めると同時に、視界が少し開ける。

大きな木が数本、折り重なるように枝を伸ばしたその下に、村は作られていた。


「この村は完全に包囲された。諸君らにはリー商団襲撃・ならびに殺害、ならびに脱税と無許可開発の嫌疑が掛けられている!直ちに門を開け、武装を解除して投降するのであーる」


もうおっぱじめてる!


『始まった!そっちは?』


『迂回中!サーチには引っかかってない!』


タリア達は俺の魔力探信マナ・サーチから外れた所まで大きく迂回している。

こっちの兵たちも術師を中心に広く展開を進めている。固まって居たら広域魔術を打ち込まれる可能性があるから。が、相手はどう出て……っ!


その瞬間、複数の魔力反応が発生する。

一つは村の中から。そして一瞬遅れた大多数は……俺たちの立ってる地面の下からっ!


「やばっ!」


ウォールの展開と足元への魔術無効化ディスペル。反応できたのはその2つまでだった。


「なに!?」


飛来した火炎球ファイアーボールが壁や盾にぶつかって爆音を響かせたその時、村を取り囲むように展開中だった兵たちを、火旋風ワール・ファイアが飲み込んだ。


「うわぁぁぁぁ!」


くそっやられた!

慌てて届く範囲に魔術無効化ディスペルを打ち込んで魔術をかき消す。

しかしこれは!


『交渉の余地なし!かかれ!』


「いや、まって!」


止める間もなく兵たちはスキルを発動させ、村を囲う木製の塀を吹き飛ばすが。

それと同時に各所で爆発が起こる。


「うわ!?」「ぐわぁっ!」


くそっ、やられた。


「なに!?いったいどこから!?」


死者探査デッドマン・サーチ!やっぱりだ!


「地面の下に!敵がいる!」


地面の下僅か十数センチ足らずの位置。

そこには死体が埋められている。村を取り囲むように、その数は100や200では利かない数。

ここは亡者で作られた地雷原だ!


「ぐわっ!」「ぎぇ!」「がぁ!どこから!?」


地面の下から突き出された槍に、複数の兵たちが貫かれる。

まずい、操られていない死体の位置は俺以外感知できない。死体と人が重なったら、足元の死体を操作して真上を攻撃するだけで不意打ちが利く。しかも後衛であるはずの魔術師や治癒師が狙われてる!


「かかれっ!」


そして村の方からも敵影がっ!

不意打ち闇討ちだまし討ちが一番効率良いよな!このまま入り乱れたら、戦況コントロールできねぇぞ!


「ああもう!墓暴きディセントゥーン!」


スキル範囲いっぱいいっぱい、すべての遺体の墓穴を暴く。


「うあっ!何だこれ!?」


「死体!こんなにたくさん!?」


地面がえぐれ、亡骸たちが姿を現す。とりあえず墓は暴いた!

どれが動くか分からんし、どれを動かせばいいかもわからん!


『アケチさん!兵を下げて!』


『死体が動く!墓穴の無い所まで下がれ!2次職は追撃を迎撃!』


まずはやられた人たちを退避させないと!

収納空間インベントリからアルタイルさんに出てもらい、防御と回復のサポートをお願い。

それから上級スキル、影渡しシャドウ・デリヴァーを多重詠唱で発動させる。


「影と共に、何処いづこかに在れ!影渡しシャドウ・デリヴァー!」


火旋風ワール・ファイアや地下からの火炎球ファイアーボールで吹き飛ばされ、倒れ伏した兵たちが後方へと転送される。

影から影へモノや他者を転送する高速移動スキル。それが影渡しシャドウ・デリヴァー。魔術師系2次職の高速移動スキルは、こういう一癖ある物が多い。


『まだ死んでません!手当を!』


『すまないのである!2次職もいったん距離を取るのである』


墓穴が掘られた壁際から、森の中へと下がる。吹き飛ばされた壁の向こう側に、仕切り直した敵の一団が見えた。

トラップ墓標を挟んでの対峙。タリアの報告より少し少なく20名ちょっとか。

この距離なら上級魔術であっても、俺の魔術無効化ディスペルで無効化できるだろう。


「キサマら!回答も無く不意打ちとは不埒千万!ただの流民でもあるまい!名を名乗るが良いである!」


アケチ氏が声を張り上げる。

いきなり村を包囲して、人の事を言えた義理でも無かろうに。


「……そちらにも死霊術師の方が居られるようですね。……貴方ではなさそうですが」


「我こそはサガミの同心にて武者、氏をアケチ!名をダイゴロウ!キサマらを捕らえにまいったもの成り!」


「ああ、そうですか。別にあなたには特に興味ありません。しかし同職のよしみ、そちらの術師殿にはお会いしたいところですが?」


「リターナー殿、お呼びであるぞ!」


「俺を巻き込むんじゃねぇっ!」


何のメリットがあって敵に堂々顔をさらさにゃならんのだ。


『怪我が酷い物が幾人もいるのである。二次職にも負傷者が出ている。あの死体どもが動き出す前に時間が欲しいのであーる』


『……わかりましたよ。少し相手します』


魔力反応から、ほとんどの兵力はこっちに寄っている。

タリア達が接近する時間稼ぎにもなるはず。状況は念話で一方的に伝えておこう。


「……流れの冒険者に何か御用ですかね?」


アケチ氏に並んで前に立つ。

ここから不意打ちは無理だな。距離がありすぎて、おそらく対処される。


「いえ、この国に死霊術師は居ないと思っておりましたもので。私はプルート。故合って家名は捨てておりますので、ご容赦のほどを。お名前を伺っても?」


「……ワタル・リターナーだ」


「……ワタル・リターナー?」


「……名前を聞かれて首を傾げられるいわれは無いんだが?」


「いや、いやいや、だってその人、人類初のレベル99到達者の名前ですよね。えっと、なんでしたっけ……極めし者マスターですかね。そんなわけないでしょう?」


「だいぶ耳ざといな。本人だよ。ほれ」


名前だけ、超拡大したステータスを見せてやる。


「……同姓同名とかではなくてですかね?」


「別に信じなくてもいいさ」


こいつらに信じてもらう必要は無い。


「死霊術師なんてひねくれた職を選ぶ方そうそういませんから、ちょっと興味があったのですが……付与魔術師エンチャンター極めし者マスターがなんでまた?」


「人の事言えた義理か!世間話してる状況じゃねぇだろっ!」


『いえいえ、もしよければこちらに付きませんかと、勧誘しようと思ったのですけどね』


『……その気はねぇよ』


「残念です。そう言えば犯罪者どもからも名前を聞きましたねえ。ああ、なるほど。その絡みでハオラン・リーを追いかけてきたとかですか?」


「堪える義理ないな。無駄な抵抗は止めて、素直に投降してもらえるとこちらとしてはありがたいのだけれど?」


「そう言うわけにも行きません」


「罪状を否定する要素はなさそうだが?」


「否定はしませんよ。ここが嗅ぎつけられたのは貴方のせいですね。死霊術師が居るのなら、死体は残さなかったものを」


「運が悪かったな」


「いえいえ、どうせいずれはバレると思っていましたから。こんな山奥を引き払う良い機会です」


「逃げられるとでも?」


「あの程度の罠にかかる程度の輩、逃げる必要があるとも思えませんが」


……痛いところを。MPケチって死者探査デッドマン・サーチを使っていなかったのが裏目に出た。

結局墓暴きディセントゥーン影渡しシャドウ・デリヴァーで結構なMPを消費してしまった。


『こちらは準備完了である。私も含めた2次職51名、いつでも突撃できるのである』


『号令は任せますよ』


「どのくらいのレベルか知りませんが、死霊術師の恐ろしさ、重々承知しているでしょう?」


プルートと名乗った男がその腕を振るうと、墓穴の中から異形の死体たちが起き上がる。


「これは!なんであるか!?」


腕が4本ある者、下半身が牛や猪の者、腕の先が獣の頭になった者……。

死体再構築デッドマン・リ・ビルドによって、複数の死体から一つの肉体を生み出されたキメラゾンビたち。悪趣味なっ!


「さぁ、返り討ちにしてあげましょう!」


「来るぞっ!」


死体どもが襲い掛かってきて、仕切り直しの一戦が始まった。

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