第28話 戦闘訓練を受けてみた
「なるほど。そのステータスでありながら魔物と対するのが怖いと。……なかなかに見込みのあるやつだな」
翌日、ギルドに頼んで訓練所の教官を紹介してもらった。
名前はラルフさん。40代の
「見込み、ありますかね?」
「恐怖を感じるのは良いことだ。それが無いやつは早死にする。その上で克服しようとするならなおいい。理想は同居することか。どんな弱い相手でも恐怖を感じ頭を冷やせ。新米にはよく言っている」
「はぁ」
「学科はほぼ満点、なら知識ばかりで実体験が足りてないタイプだな。ぐだぐだ言うより殴り合った方が早い」
ギルドに登録したときに受けさせられる学科試験はほぼ集合知でクリアできた。知識だけなら足りているのだ。
それでもだめだからわざわざ金を払ってまで特別講習を依頼したのだが……何と言うか、蛮族の理論だな。
「とりあえずは相手を探してくる。それまでは素振りをしてろ。そのへっぴり腰は繰り返さなきゃ治らん」
ラルフさんに言わせると、俺の剣さばきはへっぴり腰で見ていられないらしい。
一応、集合知でそれっぽい型を真似ているんだけどな。STRが上がって剣に振り回されることもなくなった。
地球の剣術より力が強いことを前提にした動きが多いから、それが違和感の原因かな?
ギルド所有の訓練所はいくつかあるが、ここは広いグラウンドがあるだけのタイプ。周りにいるのも近接武器の訓練をしている人たちばかりで、スペースは十分。
型を思い浮かべながらしばらく素振りを繰り返す。
素振りと言うと剣道のイメージなんだけど、こっちの剣術だとちょっと違うんだよな。対魔物用と言うか、必ず牽制と本命がセットになっていて、本命の方は明らかに重量級の獣にダメージを与えるための力の入った型になっている。難しい。
言われた通りに剣を振っていると、しばらくしてラルフさんは目つきの悪い男を連れてきた。醸し出す雰囲気は……チンピラ?
「度胸を付けるには殴り合うのが一番だ。相手はうちの職員から見繕った」
「グローブだ」
「ワタルです。
「
「お前のガラが悪いのは昔からだろう?気にするな」
「顔ですらなく!?」
にぎやかな人だ。
「戯言はさて「戯言!?」おき、グローブはうちのギルドじゃ中堅の
ギルド勤めって事はそれなりに優秀?……2次職に上がってない理由も気になるけど……
「どんなステータスの上げかたしたかは知らねえけど、度胸がなきゃ鼠一匹狩れないぜ」
「ステータス差で鼠は狩れるが「俺のセリフ全否定かよ!」すぐに行き詰るのは事実だ。かといって、お前の歳でゆっくりしていたらいつ使い物になるか分からん。とりあえず殴り合え」
申し訳程度にクッションの入ったグローブを投げて渡された。
「おおざっぱも良い所ですね」
これじゃ拳の保護ができるかどうかってところだな。
「そう言うのが必要なこともある。互いにグローブのみ、スキル、魔術は禁止だ」
「回復は?」
「当然無しだ。死にかけたらこっちで治してやる。あとは無いつもりでやれ」
……ずいぶんと無茶を。
「コイツ、ぼこぼこにしちゃっても良いんですよね?」
「ああ、初心者上がりを叩きのめすとかお前にはお似合いの役だろう」
「何でそんなに俺に風当たり強いんすか!?」
……思いのほか面白い人だな。
「いいぜ、なんか妙に金払いの良い仕事だ。相手してやんよ」
「払ってるのは俺ですけどね」
とりあえず1000G、金貨相当を渡してあるんだ。希望通りやって貰わなきゃな。
「ほれ、さっさと始めろ。カーン」
「そんな適当な……。まあ良いか、かかって来いよ。小僧」
「小僧言われる年齢でもありませんよ。しねっ!」
踏み込むと同時に相手の顔面目掛けてパンチを放つ。うだうだ話していても始まらない、相手は踏み込めば手の届く距離にいる。
経験の差がどれだけ響くか見せて……「よっと」はい!?
気づいた瞬間には世界が反転していた。
「うぉっぷ!?」
避けられると同時に足を払われた!?
「不意打ちにすらなってねぇよ。大振りで隙が多いくせに威力も早さも足りねえ」
「……言われなくても百も承知ですよ」
上がったSTRに任せて体をはね起こす。くそ。見た目に反してこの兄さん結構腕が立つな。
「ほれ、つぎつぎ」
「……なんかすごい腹が立ちますね」
近接、殴り合い……集合知だと格闘術は空手と柔道を組み合わせたような物が一般的みたいだな。
なら、ボクシングスタイルで打ってみるか。こっちにではほとんど知られていない打撃スタイルのハズ。
踏み込むと同時に権勢の左ジャブ。これは身体をひねって避けられるが、そこにすかさず右ジャブ。これは右手一本ではじかれる。
さらに左で牽制、踏み込んで右と見せかけてローキック。
「目で追い過ぎだ」
「なっ!?」
踏み込んできた相手の身体が邪魔で足が回らない!?
「ぐげっぷ!?」
相手の左拳がわき腹にめり込んで地面を転がる。痛い!こっちチェインメイル着ているんだぞ!?
「大振りじゃないだけましだが、頭で考えてるから遅い。しかも目で追うから気取られるぜ」
付け焼き刃の戦法じゃだめって事か?
「ステータス生かしてがむしゃらに突っ込んで来いよ。型のお勉強が目的じゃねぇだろ」
「……なら、お言葉に甘えて!」
拳を繰り出すと同時にローキック、そこから体をひねって連続蹴りへ。
ステータスが上がるってのは無茶な動きができるって事だ。今のステータスなら片手腕立てでもバク宙でもできる。垂直飛びで1メートルだって出せる。
権勢ジャブの速度で本命のパンチを打てる!一発当たればそれなりにダメージにっ!
「ほい、ほい!」
頭部を狙ったハイキックが相手の拳で跳ね上げられる。
足に感じる激痛。体が回転して浮き上がるのが分かった。振り上げた打ち込まれた一撃で跳ね上げられてる!?地面が近い!
「ほい!」
「ぐぇ!?」
腹部に蹴りが突き刺さり、数メートル跳ね飛ばされたうえでゴロゴロと転がった。
「……ぐぇっぷ、がほっ!げほっ!?」
苦しし!畜生!なんだこれ!?
痛みにのたうちまわっていると、突然体の中が暖かくなって痛みが消える。
「はぁ……はぁ……
「そうだ。ほれ、続きをせんか。時間がもったいないぞ」
「……ああもう!そうですね!」
地球に帰るためとはいえ、なんでこんな痛い思いをしなきゃなんねーんだ!
……くそ!あのチンピラもどきのにやけた面もむかつく。ちょっと一発叩き込んでやる。
「喰らいやがれ!」
全力のタックルは避けられ、組み付こうとすれば先に投げられ、関節技は決まるはずもなく、相手の攻撃に合わせた迎撃はそれより先にこちらにあたる。
もう考えてもどうしようもなくなって動けなくなり、向うから向かってくる手をひたすら防ぎ、転がり、誘い込まれて反撃しては打ちのめされ。
その内相手の攻撃が止まっていて、こちらからの攻撃を仕掛ける機会が増えていて。
……気づいたら3時間以上が経過していた。
「……あ~、いつまでやってても良いが、少し休め。昼だ」
「……はぃ」
「……はぁ……はぁ……スタミナお化けかこいつは」
どうやらスタミナだけはこの
500キロマラソンのおかげかな。
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