第188話 現場検証を手伝ってみた
ビットを飛ばして木々の上から周囲の探索をする。
襲撃された宿営地を中心に、半径約1キロの円周上を探索スキルを掛けたビットを飛ばしている。
これで半径約2キロの円内をくまなくサーチすることが可能である。
「よくこの使い方に気が付いたね」
「……ずっと使ってるからな」
ビットを中心にサーチスキルを発動させれば、歩いて探索しなくていいと気づいたのはアーニャだった。
確かにビットはアーニャが玩具にしている事が多い。ビット越しに手動魔術の発動を試したりもしていた。俺みたいにあちこち手を出し過ぎていない無い分、一つのスキルについて詳しく深堀することが出来るのだろう。
「ビットを起点として、さらに遠くに飛ばすが出来ればよかったのにな」
「そうだね。発動させる起点が人形でも、スキルを使っているのは俺って事なんだろうな」
ビットから
スキルを発動することは出来るが、操作できる範囲は自分を中心に既定の範囲内だけだった。
魔力的なパスは繋がるが、操作のための回線が維持できない。
「しかしせっかくの広域探索も全く引っかからないな」
2機のビットが半月状に探索をしているが、引っかかるそれらしい反応は無い。
クロノスに比べて魔物が少ないな。その代わりに野生動物が多い。鹿やウサギと思われる反応も見えるし、東群島はまだ魔王の軍勢の積極的な攻撃対象に成っていない事が分かる。
「……少なくとも殺されて埋められた、なんてことは無いんだよな」
「それは大丈夫だろうね」
「だとすると、ここからどこへ行ったか……タラゼドさん、手がかりを見つけられるかな」
「三日たってるから……近くの村に調査に出ている兵士たちが情報拾ってくれるといいんだけど」
確率は低いと思うが、魔物が相手だった場合、ほんとに広域探索をしなければならない。
この島は外周をぐるっと歩きで一周すると二〇日以上かかるはずだ。その島が斜めに走る山脈で北と南に分かれている。
ダラディス側に入られると、また調査のお願いをするのが面倒なんだよな。
「なぁ、直接ウェインを追っかけるようなスキルは無いのか?」
「ん~……斥候系の上級スキルに在るけど、直接目視するとか、触れるとかが条件に成ってるから使えたとしての対象にならない」
王都を出てからこっち、商隊の追跡は目撃情報頼みだった。
集合知でスキルを調べても、見ず知らずの人間を探索するようなスキルは無い。
そもそもほとんどのスキルは効果範囲が限られるので、何キロも何十キロもの範囲を調べるようなことは難しい。領主系のスキルにも、人探しの効果を上げるモノは無い。
「これまで出来なかったことを成すとなると……錬金術か、後は……タリアの精霊魔術かな」
今のタリアは精霊使いだ。
レベルは上がっているので精霊との契約は可能だが、腰を落ち着けて検証をする余裕がないため、契約を交わしたのは魔素の精霊だけとなっている。
「ちょっと考えてるんだけど、いい案は思い浮かばないわね。ワタル、何かない?」
錬金術はすぐにどうこうでき無い分、使えそうなのは精霊魔術か精霊使役に絞られる。
「ん~……多分ウェインを探すのは難しいだろうから……どっちに行ったかだけでも分かればいいか」
精霊はどこにでも偏在する。
大地の精霊、大気の精霊、闇の精霊、木の精霊あたりなら、当時起こったことを見ているかもしれない。
ただ、過去の情報を引き出すとなると……時の精霊は力を貸してくれないらしいし、どうしたものか。
「単に大地の精霊辺りに話を訊いたら、ぽろっと情報出てこない?」
「人の区別がつかないって。それに時間間隔が凄いあやふやだから……」
ああ、目的の人物か分からないか。
「この際、残ってる痕跡全部洗いだしてみるか。タリア、土や砂の精霊に頼んで、ここ最近踏まれたところを全部浮き上げらせたりできない?光らせるでもいい」
調査のために人は入っているものの、人数は多くない。
ここは使われなくなった宿営地だから、残っている痕跡は最近の物はずだ。
土も砂も雨が降れば動いて痕跡が消える。残っている痕跡だけを拾えれば、何か手がかりがあるかも知れん。
「……足跡を光らせる感じよね?訊いてみる」
タリアが大地の精霊と交渉を始める。
しばらく話すと、とりあえずやって貰ってみるというので、周囲の皆に連絡してその場で待機してもらう。
「土と砂の精霊よ、光の精霊の力を借りて、人の歩みにてついた小さな跡の光を灯して。
タリアの精霊魔術によって、地面に残る足跡の痕跡が浮かび上がる。
おっと、思い付きで作ってもらった魔術だがそれなりに効果があるな。
「どう?」
「ん……その辺がドタバタしてるのは分かる。でも、それ以外の痕跡は今かな」
先に見つかった焚火の後のそば、おそらく戦闘が行われた部分だろう。
土がむき出しになった部分には、幾つかの痕跡が見られるがそれくらいだ。
「もうちょっと細かい跡まで光らせるわ」
「出来るの?」
「消費MPを上げればね。そういう風に作ってみたから」
タリアが魔力を注ぐと、いろんなところが光始める。
……これは、意図的に足跡を消したところがあるな。
おそらく土系魔術を応用したか、錬金術の変性のようなスキルを使ったのだろう。
一部に明らかに痕跡がない部分が見て取れる。……これはもしかして?
「タラゼドさん、この足跡から追跡できますか?」
「……いや、難しいな。古い足跡が混じっているようだし、見分けがつかない。それに出入口はしっかり消されて……いや、消され過ぎだな。タリア嬢、車輪跡は見れないか?」
「タリア、この魔術、対象を足跡じゃなくて馬車の車輪に出来ない?」
「頼んでみるわ。ちょっと待って」
ハオラン・リーの話では、ウェインはホロ付きの馬車に乗って移動していたらしい。
馬車の痕跡は無いし、馬も残っていない。捕まったなら馬車ごと連れて行かれたと考えるべきだろう。
タリアが再度魔術を発動させると、奥の馬車が止めてあった周辺が光を放つ。
しかしその後は途中で途切れ、行く先は分からないが。
「……ふむ。やはり向うだな」
「みたいですね」
丁寧に道のほうまできれいに痕跡を消している。
元来、ハオラン・リーたちがここに到着した時の荷馬車の痕跡が無ければならないはずなのにそれが無い。つまり、ご丁寧に街道に戻る方まで痕跡を消していったという事だ。
「……来た方に戻っていますな。我々を襲撃したのは、ミャケの街から戻ったはずの三人だったのですが」
ハオランはそう言うが、死体が見つかったらまずミャケの街に情報が行く距離だから、離れる方に移動するのはまぁ当然か。
現在使われている街道に出た所で、荷馬車の痕跡を再確認できた。
ミャケの調査官の見立てでは、このまま北に向かっているとのこと。タラゼドさんの見立てでも同じくだ。
「戻ってカミッツと近隣の村に捜査員を派遣しよう。足取りがつかめなければその先もだな。殿にも捜査の進言をせねばなるまい」
「我々は犯人を追っても良いですか?」
「被害者を連れて歩かれるのは少々困る。せめて一度ミャケに戻り、書状をしたためた上で、兵と行動を共にしてもらいたいのだが」
「仲間の催促の視線が痛いので。今日はどうせカミッツにたどり着けるかってくらいだと思うので、ミャケから追跡部隊を早馬で飛ばしてください。明日の午前中までは待ちます」
入国担当官に書いてもらった書状があるから、他の街に移動しても協力は得られるはずだ。
「……今いる捜査員は向かわせられんな。わかった。正午にカミッツの詰所まで来ているように」
よし、とりあえず追跡を再開できる。
「痕跡を消したくないから、久々にランニングで追跡だな」
クーロン商隊の亡者3名を
この先、国外へ出られる港町まではかなり距離がある。どこの誰だか知らないが、ちゃっちゃと捕まえて追いかけっこはここで終わりにして見せる。
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